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Kavanagh Q.C. - Series 1, Episode 1

#1 Nothing But the Truth


事件概要

Crown v. David Armstrong

デイヴィッド・アームストロングという若者がレイプ容疑で逮捕される。デイヴィッドは大手化学企業の御曹司でケンブリッジ大学の学生だが、社会勉強のためにプール設置のアルバイトをしていた。雇い主の妻であるイヴリン・ケンドールが、デイヴィッドにレイプされたと訴えたのだ。父親のアームストロング氏の意向により、一流弁護士のジェイムズ・カヴァナーが弁護人に就任する。

デイヴィッドはイヴリンと性交渉を持ったことは認めるが、「合意の上での行為だった」と無罪を主張。イヴリンの夫アランは浮気をしており、夫婦仲は良くなかったという。アランは事件後、自宅を出て別居してしまう。

公判が始まり、イヴリンはデイヴィッドに力ずくで迫られ、殴られてレイプされたことを証言する。反対尋問に立ったカヴァナーはイヴリンの証言内容の矛盾をあげつらい、その日に限ってデイヴィッドを室内に招き入れたことなどを指摘し、イヴリンが夫の浮気への復讐に自分も浮気し、夫の心を取り戻すために事件をでっち上げたのではないかと印象付けていく。カヴァナーの娘ケイトは法廷を傍聴し、父親がイヴリンを追及する様子を見てショックを受ける。

検察側のバリスタもデイヴィッドを厳しく追及し、評議は難航するが、最終的に無罪の評決に達する。

その後、若い女性がカヴァナーの前に現れ「デイヴィッドは私をレイプした」と言う。曰く、デイヴィッドは父親と同じ傲慢な男であり、レイプ被害者は自分が最初でもイヴリンが最後でもない――。


感想

Kavanagh Q.C. の1作目、ゲストはオビ=ワンことユアン・マクレガー。95年作品なので、時期的には「シャロウ・グレイブ」と「トレインスポッティング」の間くらいのはず。さすがに若いね!

このエピソードでユアンが演じているデイヴィッドは、労働者階級の貧しい青年かと思っていたら、実は裕福な家に育ち名門大学に通う学生。プール掘りをやっていたのは単なる社会勉強だそうだ。で、罪状はレイプ。ルックスの良いお坊ちゃまで女性には不自由しないだろうに、なぜレイプ?

想像してみるに、デイヴィッドの目的は女性と寝ることではなく女性を力で支配することではないかと思う。だから、自分の魅力に惹かれて寄って来る女と寝るだけでは満足できずレイプに走る――のではないだろうか。

依頼を受けたカヴァナー弁護士は当然ながら「性交渉は合意で行われた」とデイヴィッドの無罪を主張する。レイプ事件で無罪を主張する場合、性交渉の事実自体に争いがなければ大抵、blame the victim(被害者を責める)戦術が取られるわけで、カヴァナーも被害者の証言をいちいちあげつらい、自分から誘ったのだろうという図式を導いていく。尋問の様子は、傍聴していたカヴァナーの娘がショックを受けて席を立ってしまうほど辛らつなもの。

実際に被害者と夫の夫婦仲はあまり良くなかったらしく、カヴァナーは被害者のイヴリンが浮気した夫への腹いせに自分も浮気したのだろうという図式を組み立てていく。だが話が進むうちに、カヴァナー自身の私生活も少しずつ語られ、カヴァナー夫人が以前に浮気をしていたことがわかる。夫人は結局浮気相手と別れ、カヴァナー氏とやり直そうとしているようだが、相手の方はまだ未練がある様子。夫人が浮気に走った原因は、カヴァナー氏のワーカホリックな仕事ぶりにあったらしい……つまり、夫の浮気こそない(らしい)ものの、カヴァナー弁護士が法廷で描いてみせた図式はむしろ、カヴァナー夫妻に当てはまるものだった。

さて、デイヴィッドへの評決は無罪。そこで一件落着かと思いきや、カヴァナーの前に「以前デイヴィッドにレイプされた」という若い女性が現れる。なぜ名乗り出なかったのか――これは当然な疑問ではあるけれど、考えてみれば酷い質問だ。被害者として名乗り出た女性を証言台でボコボコにしたのは他ならぬカヴァナー本人だったではないか。その女性はカヴァナーの娘と同年代。様々な面で「他人事ではない」事件だったようだ。

弁護人が被告人を弁護するのは当然のことであるし、評決を下したのは陪審員。有罪を証明するのは検察官の役目なので、カヴァナー自身に落ち度があったわけではない。だがそれでも、結果的にレイプ犯を無罪にし被害者を萎縮させてしまったのは確かだろう。そんなこんなで、スッキリ解決とはいかないエピソードだった。

とはいえ、法廷での緊迫したやりとりは迫力があり見ごたえ十分。イギリス法廷ドラマの代表作として本作を推す人が多いのもわかる気がする。

Yoko (yoko221b) 2011-04-09