映画「顔のないヒトラーたち」

投稿者: | 2015-11-17

やはり戦後70年という節目の年だからでしょうか、あの時代を振り返るドイツ映画が続けて公開されました。まとめて簡単に感想を書こうと思いましたが、やはり書き始めると長くなってしまったので、結局ひとつずつ書くことにします。

顔のないヒトラーたち
公式サイト

この映画は、1963年に始まったフランクフルト・アウシュヴィッツ裁判がテーマ。現代では想像しにくいことですが、その当時「アウシュヴィッツ収容所」の存在は名前すらあまり知られていなかったそうです。知っていても口に出さず、過去をほじくり返すより忘れて前に進みたい、と思う人も多かったのでしょう。収容所の多くがポーランドに置かれ、冷戦体制で分断されていたことも影響したと思います。

ストーリーは戦後13年経った1958年、若手検事が収容所のことを知り、ナチの残虐行為に関わった大勢の人々が「過去の顔」を隠して日々を送っていることに衝撃を受ける所から始まります。「犯罪の事実があり、被害者と加害者がいる」ことを根拠に彼らを訴追することを思い立ち、さまざまな苦労に遭いながら捜査を進め、ようやく公判が開かれるという場面で終わります。

この話は事実に基づいてはいますが、ノンフィクションではありませんね。実在の人物は州検事総長のフリッツ・バウアーと記者のグニルカだけで、実際に訴追を指揮したのはこのバウアー検事総長だったようです。さすがに若手の検事2人だけで進めるのは無理でしょう。その他の事実―裁判に反対する世論があったことや、アイヒマンの居場所を知りながら逮捕せずイスラエルに「譲る」形になったことなど、大まかなところは現実に即しているようです。

(ところでフリッツ・バウアーさん、お名前を間違えてよく「フィリップ・バウアー」と呼んでしまいます。それはジャック・バウアーのお父さんだよ!)

主人公を敢えて若手検事にしたことで、映画として面白いものになりましたね。ラドマン検事は1930年生まれと言っていたので、終戦当時は15歳。「戦争を知らない子どもたち」ではありませんが、ナチの犯罪に加担することはなく、現代の観客に近い目線で共感を呼びやすいと思います。さらに、青春映画の要素もあり、全体として主人公の成長物語になっている所が面白いと感じました。

原題は “Im Labyrinth des Schweigens”(沈黙の迷宮の中で)。主人公が足を踏み入れた迷宮の深さ、沈黙の重さが印象に残ります。

主人公のラドマン検事を演じたアレクサンダー・フェーリングさん、現在は米国のドラマ「HOMELAND」のシーズン5に出演中とのこと。HOMELANDは既にシーズン4まで日本に来ているので、5もそのうち見られるでしょう。

この「アウシュヴィッツ裁判」について、もう少し詳しく知りたいと思っているのですが、適当な本が見つかりません。ドイツではかなり出版されているようなのですが、翻訳されないのでしょうか。

とりあえず英語版の文献をリンクしておきます。

Beyond Justice