「戦争画」についての本を読む

投稿者: | 2017-02-22

先々月(去年の12月)は、展覧会で藤田嗣治の戦争画を見たことがきっかけで、戦争画についての本を何冊かまとめて読みました。美術の本は図版が多いので読書がはかどりました(笑)。

「戦争画」というと、通常は昭和10年代、日中戦争が始まってから第二次世界大戦が終結するまでの間に軍部の意向を受けて描かれた絵画を指します。藤田嗣治、宮本三郎、中村研一などの洋画家が主に手掛けており(日本画家の作品もあります)、竹橋の近代美術館に行くと、たいていは何点か展示されていて見ることができます。

これまでは、いささか「黒歴史」的な扱いを受けていて、あまり大きく取り上げられることがなかったようですが、最近少しずつ注目を集めているようです。

これらの本を読んだのは12月ですが、「そのうち読もう」と思ってブクログに積読登録しておいたのはその何か月も前のことなのですよ。で、今回画像リンクを作成しようとAmazonを検索したら、何だかその時より戦争画関連の本が増えているような気がします。

この夏を目標に「第2弾」をやるべきでしょうか。


『画家たちの「戦争」』神坂次郎、河田明久、丹尾安典、福富太郎 2010年

『画家と戦争: 日本美術史の中の空白 (別冊太陽 日本のこころ 220)』河田明久 2014年

「戦争画」の入門編的な2冊。戦争画とその時代の全体像みたいなものを何となく把握できます。『画家たちの「戦争」』の方が説明が多く、別冊太陽は図版が大きいです。日本画家の作品も取り上げられています。近美で展示されているのは洋画ばかりで、いささか様式化された印象があるので、合戦絵巻風・迫力画面・イメージ画とさまざまな手法で描かれた日本画の方がむしろ面白いような気もしました。

「戦争画」を包括的に取り扱った本としては『戦争と美術』もありますが、定価16200円の大型本ということで、これは読んでいません。最近改訂され、旧版には収録できなかった藤田嗣治作品が加わりました。


『戦争画リターンズ──藤田嗣治とアッツ島の花々』平山周吉 2015年

藤田嗣治の戦争画《アッツ島玉砕》に関する本。描かれたモチーフ、当時の展覧会の様子、批評、藤田本人についてのあれこれ、そもそもアッツ島とはどういう土地か、その他この作品をめぐるさまざまな事柄が記録されています。ひとつの作品でこれだけ題材があるのかー! って感じですね。

ちなみに《アッツ島玉砕》は、上掲『画家たちの「戦争」』の表紙に使われている作品です。


『戦争画とニッポン』会田誠、椹木野衣 2015年

現代美術家の会田誠氏と美術評論家の椹木野衣氏が戦争画について語る対談集。お二人とも60年代生まれで、戦後の高度成長期以降に育った世代。対談なので、ひとつのテーマを深く掘り下げる感じではなく、多少の物足りなさはありますが、「暗い叙情」というフレーズは重要なキーワードとして印象に残りました。他には、あの戦争に対して藤田嗣治はただ一人「巨視的な視点を持ち得て」いた、また戦争画の影響が戦後最も強く残ったのは社会主義リアリズム絵画ではないかという指摘も興味深かったと思います。


『「戦争」が生んだ絵、奪った絵』野見山暁治、窪島誠一郎、橋秀文 2010年

これは、いわゆる「戦争画」の本ではありません。「戦争が生んだ絵」として香月泰男や浜田知明など戦争経験の(従軍画家ではなく兵士としての)ある画家が戦後に描いた作品について、そして「戦争が奪った絵」として戦没画学生と彼らが遺した作品、そして「無言館」の話がありました。「無言館」とは長野県にある美術館で、戦没画学生たちの遺作が収蔵されています。

後半の「奪った絵」の印象が強すぎて、読んでいる間に前半の「生んだ絵」の話がどこかに飛んで行ってしまいました。画家として大成したのは前半の作家たちで、表紙も香月泰男だというのに。両者の間にそれほど関連があるという感じでもなかったので、前半はなくても良かったのでは……?

いや前半どうでも良いという意味じゃないですよ。無理に1冊にまとめず、別々に論じた方が良かったのではないか、ということです。


『戦争と浮世絵』日野原健司 2016年

「戦争画」の前史ともいうべき、戦争を取り扱った浮世絵の本。合戦図や武者絵などは昔から描かれてきましたが、近代的な「戦争画」のスタイルが生まれたのは幕末の動乱期から。そこから、西南戦争・日清戦争を経て日露戦争くらいまでが「戦争浮世絵」の時代と言えます。

芳年は幕末の上野戦争を実際に見に行ってスケッチなどをしたそうですが、大半は江戸(東京)から遠く離れた戦場なので、報道や想像を基に描かれたようです。構図も従来の「武者絵」を踏襲したものが多く、中には国芳の武者絵を模して装備を近代的にしただけという作品や、あり得ないチャンバラ場面なども。

描いたのは主に、明治の浮世絵師として定番の芳年や清親ですが、中に若き日の安田靫彦があったりして、「歴史の狭間」感を感じさせます。