静嘉堂文庫美術館「挿絵本の楽しみ」

投稿者: | 2017-04-18

静嘉堂文庫美術館で開催中の展覧会「挿絵本の楽しみ~響き合う文字と絵の世界~」のトークショーとブロガー内覧会に参加して来ました。主催者・運営者の皆様ありがとうございました!

絵画・本・印刷/出版文化というのは私自身、ひじょうに関心を持っている分野なので、この展覧会は開催前から楽しみにしていました。なので、案内をいただいて迷わず応募し、運よく当選しました。今年はなぜか内覧会運に恵まれています。

今回は内覧会の前にゲストをお招きしてのトークショーがありました。その時のお話とギャラリートークの内容を基に、展覧会の様子をご紹介しようと思います。展示室内の写真はすべて、特別に許可をいただいて撮影しています。

■ 挿絵本の楽しみ~響き合う文字と絵の世界~

  • 静嘉堂文庫美術館  http://www.seikado.or.jp/
  • 会期:2017年4月15日(土)~5月28日(日)
  • 休館日:毎週月曜日
  • 開館時間:午前10時~午後4時30分(入場は午後4時まで)
  • 入館料:一般1,000円、大高生700円、中学生以下無料 ※団体割引は20名以上


「挿絵」というと、私などは絵本や絵入りの小説本を思い浮かべるわけですが、実際はそれよりもずっとずっと幅広く存在するもので、実用本の方がむしろ多いのですね。そう言われてみればなるほどと思うことなのですが、絵入りの本が作られたのは、美的趣味よりも現実的な「切実な需要」があってのことだそうです。

中国で絵入りの冊子本が大量に作られたのは宋の時代、科挙の受験参考書でした。その当時、立身出世するには科挙に合格しなければならず、官位に対して細かく定められている服装や冠の形などを図解した参考書は受験生の必需品だったのですね。

そして時代が下るにつれ、文字と絵が同居するという状態が当たり前になってきます。絵入りの本が増えると、必然的に彫りや摺りの技術も上がり、それにお金を出そうという人も増え、絵のウェートが増し、美術品として鑑賞できるような作品も現れます。中国で物語の本に絵が付くのは比較的新しい時代(といっても明ですが)だそうです。

この「切実な需要」と「時代の反映」といった所が印象に残りました。

展示構成は5つの章に分かれています。

1. 神仏をめぐる挿絵

絵と文字の組み合わせとして、参考書よりも古い形態でお経の絵解きがありました。このパートのハイライトは法華経を絵解きした『妙法蓮華経変相図』でしょうか。写真ではよく見えませんが(公式サイトに画像があります)、法華経のほぼ全編を絵解きしているという珍しい作品で、本邦初公開とのこと。

2. 辞書・参考書をめぐる挿絵

上述した科挙の受験参考書や、江戸前期に作られた百科事典である『訓蒙図彙』など。『訓蒙図彙』は大きな影響を与え、類書が多数制作されたそうです。

3. 解説する挿絵

このあたりからカラー印刷になってきます。このパートでは何といっても、『本草図譜』(下の写真左)が美しい。洋書から取り入れた項もあるとか。

技術解説書である『機巧図彙』(同右)も面白いですね。下の写真は、からくり人形の仕組みを解説した部分です。これを見れば現代人もからくり人形を作れてしまうというレベルのもので、現代に復刻されている人形は、実際にこの書物から作られているそうです。

 

4. 記録する挿絵

ここには、非日常の記録として旅行記と漂流記が展示されています。旅行記としては、有名な間宮林蔵の探検記録。漂流記は、遭難して外国船に救助された漁師からの聞き取り調査記録です。その当時ですから、漂流した漁師は海外情報の重要な情報源だったはず。『環海異聞』に記載されているロシア使節レザーノフは、歴史的にも重要人物です。

 

5. 物語る挿絵

「挿絵」と聞いてまず最初に思い浮かべる物語本ですが、かなり時代が下ってようやく登場。科挙の参考書などと比べると、線がひじょうに精緻になっていて、彫りの技術が格段に向上していることがわかります。日本の作品では、絵本や狂歌本なども。

このパートには、絵巻きも展示されています。絵巻きと挿絵本は、構成も目的も読者も異なる媒体ですが、「絵と文字」の組み合わせという共通の要素があります。これは偶然同時期になったそうですが、現在サントリー美術館で「絵巻マニア列伝」という展覧会も開催中ですから、見比べてみるのも面白いのではないでしょうか。

また、全体のプロローグ的に歌川国貞の錦絵が展示されています。これは「挿絵」とはちょっと違う感じですが、「芝居の女形になりきっている女性」を描き、コマ絵の部分に台詞を入れることでひとつの世界を構成する(文字と絵が不可分な)作品になっています。摺りの状態がとても美しいですね。

写真を撮るとなると、どうしてもフォトジェニックなパートの作品が多くなってしまいますが、挿絵文化を形成するうえで重要なのはむしろ、2や3のパートではないかなと思いました。その時代の大量の印刷物が、後の美術品へ結実していくわけですから。