太田記念美術館「馬琴と国芳・国貞 八犬伝と弓張月」

投稿者: | 2017-08-12

もうかなり以前に終わってしまっていますが、面白かったので感想を書いておきます。


馬琴と国芳・国貞 八犬伝と弓張月(原宿・太田記念美術館)

タイトルが示すとおり、曲亭馬琴(滝沢馬琴)の作品に関連する浮世絵の展示です。作品は主に『南総里見八犬伝』と『椿説弓張月』で、この2作品を題材にした浮世絵が多数展示されていました。何だか最近、静嘉堂の挿絵本やサントリーの絵巻マニアなど、文章と絵画の組み合わせをテーマにした展覧会を見る機会が多いような気がします。

こういうテーマなので、ちゃんと予習してから行こう、と思って『八犬伝』と『弓張月』、どちらも現代語のダイジェスト版ではありますが、事前に読んでおきました(詳細は後述)。やはり物語のあらすじだけでも頭に入っていると、より面白く楽しめますね。同じように歌舞伎を見ると役者絵がより面白くなります。だからといって吉原へ行くわけにはいきませんが(笑)。

さてこの展覧会。『八犬伝』は歌舞伎や浄瑠璃でも人気作品だったので役者絵が多数制作されています。そこで『八犬伝』パートでは同じ場面を描いた作品を並べたり、「役者絵の国貞・武者絵の国芳」を対比させた展示が多かったと思います。

「同じ場面」はやはり、犬塚信乃と犬飼現八が出会う芳流閣の場面が多かったですね! 信乃さんが追手に追われ、捕り手の名手である現八さんが駆り出される場面ですが、2人はお互いに仲間であることをまだ知らず「犬士対犬士」となる珍しい場面。対決場面、かつ犬士2人が主役となる珍しい場面であり、何度も絵画化されています。おそらく舞台でも人気の場だったのでしょう。同じ題材の作品を並べることで、構図・屋根の角度・2人の位置関係など細部を比較できて面白かったと思います。

美術館の公式ツイッターでも紹介されています。

国貞の「役者絵」では、途中で役者が変更になったのか、顔の部分だけをすげかえた(他の部分はそのまま)バージョンもあり、当時の制作プロセスが垣間見えたのも面白かったですね。

そして『椿説弓張月』は『保元物語』を基に書かれた源為朝の一代記。

この作品も歌舞伎などに翻案された部分が多少あったようですが、ひとつのまとまった物語として脚色されたのは近年になってからで(三島由紀夫による)、江戸時代は断片的なものしかなかったようです。役者絵はあるものの、実際の舞台に基づいたものか「この役者にこれを演じさせたら?」という想像で描かれたものか、解説でも明言されていなかったように記憶しています。

弓張月では、やはりこの場面でしょう。国芳展ではかならずと言って良いほど何度もお目にかかっている作品ですが「巨大なワニザメの絵」という印象が強く、物語の一場面として見たことがあまりありませんでした。しかしこれも印象的で、かつ重要な場面ですよね。前後の展開や、また崇徳院と為朝の君臣の関係を思い浮かべながら見ると、より物語的な面白さを感じます。

その他では、流刑地の為朝が敵船を弓矢で撃沈するランボーのような場面も人気ですね。ここでも複数の作品を並べて、構図や視点の取り方を比べるという展示がありました。

さて、展覧会を鑑賞する前にまず予習を……と思って、馬琴の原作を現代語のダイジェスト版で読みました。

『八犬伝』と言われて思い浮かべるのは、何といってもその昔NHKで放送していた人形劇「新八犬伝」ですよね。などと言うと年がバレてしまいますが、でも本当に面白かったんですよ。犬士それぞれキャラが立っていて、現代的なアレンジもあり、黒子の九ちゃんの語りも楽しかった。

(実はこのブログ記事、8月の初めごろから少しずつ書いていたのですが、なかなか書き終わらないうちに8月12日になってしまいました。黒子の九ちゃんこと坂本九さんは、1985年のこの日に墜落した日航ジャンボ機に搭乗しておられました。合掌)

犬士の中で好きだったのは、正統派イケメンの信乃さんとニヒルな感じの道節さん。「ニヒルな」って今時通じないかもしれませんが、放送当時ナウなヤングの間ではそういう言い方をしていました。気は優しくて力持ちな小文吾ちゃんも可愛かったです。今回展示されていた浮世絵の中には、小文吾ちゃんがシャープなイケメンに描かれているものがありましたが、それはやはり、コレジャナイ感を禁じ得ません。荘助さんは信乃さんとのバディな感じが良かったですね。

美形度でいえば女装好き?な犬坂毛野ちゃんがナンバーワンだと思いますが、なぜか毛野ちゃんは印象が薄い。犬江親兵衛と犬村大角は名前を聞いても思い出せません(汗)。

そんなこんなで思い出深い作品ではありますが、あれは何といっても「新」であって、『南総里見八犬伝』とは違う部分が多々あります。

今回読んだのはこちら。

『現代語訳 南総里見八犬伝 上 (河出文庫)』

『現代語訳 南総里見八犬伝 下 (河出文庫)』

文庫ですが、上下巻でかなりのボリュームです。これでもダイジェストなんですよ。でも文章が読みやすいので、上巻はサクサクと読み進められました。下巻はちょっと息切れ――上巻はとっても楽しかったのですけどねぇ、なぜでしょう、やっぱり長すぎるのかな。物語としても、前半で八犬士が巡り会っていく過程が面白かったですね。後半では犬江親兵衛がどうもスーパーすぎて……今でいう「チートキャラ」ってやつなのかな。

「新」の方はもう映像素材が残っていないそうですが、脚本を担当した石山透さんによるノヴェライズが出版されています。こちらも読みたいけど、『転』の表紙こわい……。

新八犬伝 起 (角川文庫)

新八犬伝 承 (角川文庫)

新八犬伝 転 (角川文庫)

新八犬伝 結 (角川文庫)

そして『弓張月』の方はこちら。

私家本 椿説弓張月 (新潮文庫)

八犬伝より短いとはいえ長大な物語を薄めの文庫本1冊にまとめているので、圧縮率はかなり高いです。物語的な細かい記述は少なく、高速であらすじを追って行くので何だかせわしない。それにしてもすごい人生ですね為朝さん。

為朝が流刑になるあたりまでは『保元物語』に沿っていますが、その後が馬琴オリジナル。史実の為朝は流刑先で死亡していますが、『弓張月』では家臣が身代わりになって死を擬装し、為朝はこっそりと逃亡して妻の白縫姫と再会。都へ向かおうとしたところで海が荒れに荒れて、上掲のワニザメの場面になるわけです。

崇徳院の眷属である天狗に助けられ、為朝が流れ着いたのは遠い琉球。ここで気づいたのですが、「新八犬伝」に出て来る琉球の場面は、この『弓張月』が元ネタだったのですね。「形のあるものとないもの」について話していた流れで「幸(サイワイ)」と「災い(ワザワイ)」が出て来る所など、そのままじゃないですか?

「私家本」なので、原作のどの部分を取捨選択するかということに、著者である平岩弓枝さんの判断というか感性が表れていると思います。今の所そこまで踏み込む余裕はないのですが……。

そして最後に。ちゃんと予習していったのだから、見終わった後は復習だよね! ということで課題図書を挙げて終わりにしたいと思います。

浮世絵師の絵で読む 八犬伝 上

浮世絵師の絵で読む 八犬伝 下

八犬伝錦絵大全:国芳 三代豊国 芳年 描く江戸のヒーロー