ジャポニスムとその周辺の展覧会

投稿者: | 2017-12-25

「ジャポニスム」に関連する展覧会が現在いくつか開催されているので、少々感想などを書いておこうと思います。あまり関連のなさそうな展覧会も混じっていますが、理由は読んでいただければわかります。

(以上、リンク先は公式サイト)


まずは何といっても、直球ストレートなネーミング、上野の国立西洋美術館で開催中(1/28まで)の「北斎とジャポニスム」から。

幕末から明治初期にかけて、日本の浮世絵がヨーロッパで広く知られるようになり、「ジャポニスム」と呼ばれるブームが起きたことは有名ですし、そのきっかけになったのが荷物の緩衝剤代わりに使われていた『北斎漫画』だった(これは出典を把握していないので俗説かもしれないのですが)という話も有名ですが、「北斎とジャポニスム」という切り口の展覧会は今回が初めてなのだそうです。意外にありそうでなかったんですね。モネ、ドガ、セザンヌ、ゴーガンという印象派/ポスト印象派の作品を、北斎との関連性という視点から読み解いていきます。

1章「北斎の浸透」は、北斎の作品がヨーロッパでどのように受容されていったか。日本を紹介する書物の挿絵として使用され、美術作品として収集され、あるいはお手本として模写された北斎作品が浸透していく様子がわかります。2章以降は、人物・動物・植物・風景・波と富士という様々なモチーフを対象に、ジャポニスムがどのように受け入れられ、消化吸収されていったかが紹介されます。人物の章には春画のコーナーがありました(国立の美術館では初めてでしょうか?)。

もちろん、影響は一方的なものばかりでなく、北斎もオランダから輸入された西洋画の影響を受けていました。

平日に行きましたがかなり混雑していました。その後NHKの「日曜美術館」で取り上げられたので、今はもっと混んでいるかもしれません。サイズの小さい作品が多いので、どうしても作品の前に列ができてしまいます。特に版本は展示位置が低い(壁に掛けられない)ので、最前列に行かないと見えないんですよね。

特に1章が混んでいました。どの展覧会でも冒頭がいちばん混むものですが、特にこれは1章を最初に見ておいた方が良いという構成なので大変です。2章以降はどこから見ても良いかなと思うのですが……でも西洋美術館の地下展示室って、けっこう複雑な作りになっていますよね。階段を上がったり下りたりして行き来するのはけっこう面倒なので、やはり章を追って順に見る方が、見落としもなくて良いかもしれません。

とにかく今回、展示作品の量がハンパないですから。見終わった時にはもう、くたくたですよ!

西洋作品では、国立西洋美術館に所蔵されている作品がいくつもありました。美術館の母体となった松方コレクションの性格に依るものでしょうか。ふだん常設展で見ている作品を見かけて「あれ、今日はこっちにいるの!?」なんて思ってしまいましたが、違う文脈の中で見るのも新鮮な感じですね。

馬渕明子館長の肝煎りというだけあって、内容はとても充実していたのですが、充実しすぎというか、私には少々アカデミックすぎるように感じられました。ジャポニスム、とっても興味あるテーマなのですけど。


ジャポニスムでは、ゴッホの存在も重要です。

西洋美術館から歩いて数分の東京都美術館では、「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」という展覧会が開かれています(1/8まで)。タイトルのとおり、ゴッホと日本との関わりにスポットを当てた展覧会。といっても、両者の関わりは直接的ではなく、どちらも「片思い」的な愛情だったのだなぁという印象を受けました。ゴッホは浮世絵をコレクションし、模写もしていましたが、それ以外の面で現実の日本をどの程度認識していたのだろう? と思うと大きな疑問符が。そして日本人がゴッホの存在を知ったのも画家の死後のことでありました。タイトルの「夢」という言葉が心に沁みます。

ゴッホと聞いて真っ先に連想するのは、「炎の画家」と言われる強烈な色彩や、うねるような激しい筆遣いですが、今回展示されていた作品は、どちらかというと穏やかな「目に優しい」作品が多かったように思います。浮世絵から影響を受けた構図や視点の取り方などがわかりやすく解説されていました。「日本人のファン・ゴッホ巡礼」の章は資料展示が中心。

ゴッホは浮世絵を模写したことでも有名ですが、今回はそのうちの1点《花魁》と、元絵である溪斎英泉の《雲龍打掛の花魁》が並べて展示されています。ゴッホは、ミレーの模写もそうですが、忠実な模写ではなく自分の作品にしてしまうのですね。

浮世絵関連では《タンギー爺さん》や広重の模写も有名で、そちらも見てみたかったのですが……(広重の浮世絵はありました)。


さて、ゴッホが実際にコレクションしていた浮世絵を、実は別の展覧会で見ることができます。三菱一号館美術館で開催中(1/8まで)の「パリ♥グラフィック ロートレックとアートになった版画・ポスター展」です。

これについては、内覧会のレポを以前に書きました。アムステルダムのファン・ゴッホ美術館との共同開催で、最後の部屋にゴッホの浮世絵コレクションが展示されています。

また、ロートレックをはじめ「北斎とジャポニスム」や「ゴッホ展」と共通する画家の作品もあります。スタンランの猫ポスターは、同じ絵で文字なしバージョンがこの展覧会に、文字ありバージョンが「北斎」の方にあるので、見比べてみるのも面白いのではないでしょうか。

ポスターも浮世絵も、基本的には大衆向けで、その中にインテリ好みの物もあるという点は共通していますね。


「パリ♥グラフィック」展では、ロートレックがロイ・フラーというダンサーを描いた作品が展示されていますが、このフラーが実際に踊っている映像がサントリー美術館の「フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年」(1/28まで)で見られます。

ここでは、フランスのセーヴルで制作されている磁器工芸作品が、発祥のロココ時代から現代まで時系列に沿って展示されており、この中の「第3章 20世紀のセーヴル」が、アール・ヌーヴォーとアール・デコの時代で、ジャポニスムの流行とほぼ同時代になります。

その中に、スカーフを手にして踊るダンサーをモチーフにした作品シリーズがあるのですが、着想の基になったフラーのダンスが映像で流れているのです。このコーナーは写真撮影OKなので撮ってきました。それまでフランス人しかいなかったセーヴルの工房が、1904年に外国人として初めて受け入れた「協力芸術家」が、日本人彫刻家の沼田一雅だったそうです。

展示の中心はもちろん磁器作品ですが、実際に踊るロイ・フラーの姿を見られたのは思いがけなくもラッキーでした。ロートレックのあの筆致は、このスピード感を表現していたのかと納得できます。


アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ロイ・フラー嬢》 ※「パリグラフィック展」内覧会で許可を得て撮影


各展覧会については、冒頭に記載したリンクから公式サイトをご覧ください。「パリグラ」と「ゴッホ展」は来年1月8日で終了なので、これから行かれる方はお早めに!