パナソニック汐留ミュージアム「ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモデルニテ」

投稿者: | 2018-10-12

パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモデルニテ」のプレス内覧会に、ブロガー枠で参加させていただきました。主催者・運営者の皆様ありがとうございました!

今回の展覧会は「聖なる芸術とモデルニテ(現代性)」とあるように、宗教的な題材を20世紀に生きたルオーがどのように表現したかという点にスポットが当てられています。

  • 第Ⅰ章 ミセレーレ:蘇ったイコン
  • 第Ⅱ章 聖顔と聖なる人物:物言わぬサバルタン
  • 第Ⅲ章 パッション:受肉するマチエール
  • 第Ⅳ章 聖書の風景:未完のユートピア

という4章構成で、それぞれ「イコン」「サバルタン」「マチエール」「ユートピア」が重要なキーワードとなっています。そしてこのテーマとキーワードは、章の中で完結するものではなく、相互に関連し合っていますね。

ギャラリートークでは、監修者である西南学院大学教授・後藤新治氏、担当学芸員の萩原敦子氏、そしてジョルジュ・ルオーのお孫さんであるジャン=イヴ・ルオー氏から作品等についての説明がありました。

今回も、お話の内容を交えつつ展示構成順にご紹介していきます。

第Ⅰ章 ミセレーレ:蘇ったイコン

ここはルオーの代表的な版画集「ミセレーレ」とその関連作品。「ミセレーレ」の制作には長い年月が費やされ、その過程でさまざまな作品が生み出されています。銅版、試し摺りに着色したカラーバージョンや、画集に収録されなかった図版など。「ミセレーレ」というと宗教的なモチーフに目が行きがちですが、版画集の制作という観点からも興味深く感じました。

連作版画の中にはキリストの聖顔、つまり首も肩もない、顔と頭だけの状態で描かれたものがあります。異教徒の眼には「生首」に見えますが、これが「イコン」そのもの。十字架に掛けられたキリストの顔を写し取った「聖骸布」がその原型ですが、本来イコンとは人間の技術で創作される物ではないのですね。存在した物体から直接写し取られ、模写を重ねていく。それが版画という手法に通じ、ルオーの「モデルニテ」のひとつの要素になっています。

第Ⅱ章 聖顔と聖なる人物:物言わぬサバルタン

「サバルタン」とは耳慣れない言葉ですが、虐げられ発言や抵抗の手段を持たない人々のこと。ルオーはキリストの「聖顔」をいくつも描いていますが、そこにあるキリストの姿は堂々とした「栄光のキリスト」ではなく、やつれ果てた「サバルタン」の姿。人々の苦しみや世の中の矛盾が、キリストの姿に重ねられています。下の写真の右端の作品などは、頬がこけて歯が見えているところが骸骨のようで一瞬ぎょっとさせられます。実際にご遺体を見て描いたのでしょうか。今回展示されている「聖顔」は9点。これだけ並べて展示されることはとても珍しいのだそうです。

またこの章には、メインビジュアルとなっている《ヴェロニカ》、そして普段はジャン=イヴさんのオフィスに飾られている《サラ》もあります。《ヴェロニカ》は色彩、ヴェールの形とアーチの相似形、目の表情などに注目。《サラ》は最晩年の作で、正式なタイトルはありません(「サラ」は家族の中でそう呼ばれてきた愛称のようなもの)。マチエールが特に分厚くて脆い(はがれやすい)ので、めったに動かされない作品とのこと。貴重な機会です!

第Ⅲ章 パッション:受肉するマチエール

この章は、1939年に出版された版画集『受難』とその周辺の作品。ルオーの油彩画が厚みを増し始める時代です。

ルオーの絵は絵の具を分厚く塗り重ねたマチエールが特徴的ですが、これは絵の具を塗っては削るというプロセスを繰り返すことで形成されています。重要なのは絵の具を重ねて盛り上げることではなく、むしろ「削る」プロセスにあり、またそれは、版画を制作する中で生まれてきた手法とのことです。これにはびっくり。

「受肉」は不可視の存在である神が、キリストという肉体でこの世に存在したという三位一体の考え方に基づく言葉。ルオーの絵画も、平面から立体へと「受肉」していったのですね。絵の具を塗っては削り、塗っては削りして「否定」を繰り返し、その中で色彩と実体とが生まれていく過程が、世の矛盾や苦しみの中に希望と愛を見いだしていく過程に重なり、道化師や娼婦など社会の底辺にいる人々に寄り添うように描き続けたルオーの姿と重なるように感じられます。

実を言うと私は、ルオーのこの「分厚さ」が少々苦手で、版画の方が好きだなと思っていました。今でもそれはあまり変わらないのですが、この「分厚さ」が版画の手法から生まれてきたと言われると、これはちょっと認識を改めるべきかしら……と思い始めています。

油彩画《パシオン》は1943年にパリで展示されました(パシオン=受難)。当時フランスはナチス・ドイツの支配下にあるヴィシー政権の時代で、ルオーは南仏に疎開中。キリストの姿が抑圧されるフランス・フランス人の姿と重なり、当時の人々に勇気を与えました。これも「モデルニテ」のひとつの形だと思います。

この章と最終章の間に「聖なる空間の装飾」という小さなコーナーが設けられ、七宝焼きや静物画、ステンドグラスなどが展示されています。主に、第二次大戦後に起こった「聖なる芸術(ラール・サクレ)」運動に関わって制作された作品とのこと。工芸作品の展示は珍しいですね。

ここは普段も撮影OKなので写真は省略。ステンドグラスには、例によってパナソニックの照明技術が使われています。

第Ⅳ章 聖書の風景:未完のユートピア

最後の章は、「聖書の風景」と呼ばれる宗教的な風景画が集められています。

ルオーの風景画には、「近景に広場と人々、そこから画面の奥へと続く道、中景に木々と家屋、遠くに建物、空に月と星」という特徴的な様式があります。これは現実の風景というよりも、ルオーが心に描くある種のユートピアではないかとのこと。外界から隔絶された空間ではなく、誰もがそこへ行って受け入れてもらうことのできる、開かれた(未完の)ユートピアです。

展覧会としてはここで終わりですが、「ルオーギャラリー」にも通常どおりルオーの作品が並んでいます。

また、同じビルの1階にあるショールームには、「ポスターで振り返るジョルジュ・ルオー企画展」というミニ展示があり、今までこの美術館で開催されてきたルオー関連の展覧会ポスターがずらりと展示されています。

今回の展覧会に関して、9月28日の東京新聞に「光、色、形 祈りの実践」という特集記事が掲載されています。Webでも公開されているので、興味のある方はどうぞ。

光、色、形 祈りの実践 (東京新聞)


開館15周年 特別展 ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモデルニテ

  • 開館期間: 2018年9月29日(土) ~12月9日(日)
  • 開館時間: 午前10時より午後6時まで(ご入館は午後5時30分まで)
    10月26日と11月16日は午後8時まで(ご入館は午後7時30分まで)
  • 休館日: 水曜日(但し11月21・28日、12月5日は開館)
  • 入館料: 一般:1000円、65歳以上:900円、大学生:700円、中・高校生:500円 小学生以下無料 
    20名以上の団体は100円割引。
    障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料でご入館いただけます。
  • 主催: パナソニック 汐留ミュージアム、NHK、NHKプロモーション、東京新聞