Twin Peaks FAQ – L: デイヴィッド・リンチ

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デイヴィッド・リンチとリンチの他作品についてのQ&Aです。
訳注: このパートの翻訳では、クリス・ロドリー著『デイヴィッド・リンチ』(廣木明子+菊池淳子訳、フィルムアート社)を参考にしました。

L1. デイヴィッド・リンチの映画/番組には何がありますか?

  1. “Six Men Getting Sick” 「病気になった6人の男」 (1分、1967)

これはリンチの最初の「映画」(アニメーション)ですが、正確にはフィラデルフィアにあるペンシルヴェニア・アカデミー・オブ・ファイン・アーツで制作された実験的作品の一部です。この作品は、発表会の1位に輝きました。

その作品は「四角い画面の中で口を開けた3人の顔の断片がじっと見つめている。胸が満たされていき、顎を手のひらに押し付け、非難がましく横目で見ている。リンチは立体画面に短い映画を投影した。同窓生ブルース・サミュエルソンによると、中古の8ミリカメラの両側に伸ばした長いアームにフィルムを巻きつけたため、そのフィルムはキーキー、ガラガラと音を立てる装置の中で、文字通り輪になってぐるぐると走り回った。サミュエルソンは、焼けるキャンバスと、素晴らしい『嘔吐する頭部』のイメージを覚えており、観客は喜んだと言っている」
(訳注: 上掲の『デイヴィッド・リンチ』によると、この作品使用されたのは「16ミリ」のカメラ)

「リンチは作品を文章で表現したことがない。彼は”Six Men Getting Sick”をこう描写した。『57秒の成長と炎、そして3秒の嘔吐。まず6つの頭部で始まり、次に腕と腹部が生えてくる。頭部で火が燃え、頭部はひどい病気になり、そしてそれがまた繰り返される』」

「プロジェクターを使用したことと、映写機械を作品の一部として使用したことは、その後に製作されたリンチ作品の多くにも、工業的要素として現れている。リンチの嘔吐に対する関心は、この作品から始まり、『イレイザーヘッド』から『ワイルド・アット・ハート』までの長編映画やリンチの絵画にも、明白に、そして何度も繰り返し表れている」

この作品のビデオやコピーがあるかどうかは不明ですが、「映像画面」の写真はKenneth Kaletaの著書”David Lynch”に掲載されています。上述した”Six Men Getting Sick”の説明は、この本を参考にしています(詳細は「書籍その他」のP1を参照)。

リンチがこの作品で得た着想は、次の作品”The Alphabet”(下記参照)の作成につながっています。

  1. “The Alphabet” 「アルファベット」 (4分、1967)

アニメーションを用いて、26文字のアルファベットを題材にした16ミリのカラー映画。

「絵とともにアルファベットの歌が流れ、それが短調な子どもの歌声からオペラのような、そして不気味な歌へと変化する。アルファベットは文字として、デザインや装飾として、また時には動く記号を示すアニメーションとして表現される。ここには人生の象徴が含まれている。男根の象徴、チューブ、文字「A」が「a」をいくつも生み出す産道、文字の花盛り、そして画面の中に沈み込む文字。

「歌舞伎のような白塗りのメイクをした女性(ペギー・リンチ)と大きな黒いサングラスが、アニメーションに実写で挿入されている。映画の中の実写部分には、官能的な唇の誇張された表現、強調された鉄のベッド、人体のパーツの寄せ集めなどがある。『人間の身体を扱っていることを忘れるな』と、大写しになった女性が高らかに述べ、その姿が分解されてアルファベットの反復に戻っていく。

「この映画は、白黒写真とカラーのアニメーションの二重構造で緊張を高められている。アニメーションの形が萎えしぼんで死んでいくにつれ、様式化された夢見る者の白黒の現実が、暗くなっていくアニメーションの色調の影響を受け乱されていく。そのうち実写映像も乱れていく。アニメーションの赤い斑点は血痕となり、ベッドの上で身悶える女のシーツにまきちらされる。アニメーションの連打は、最後に女の吐血になる」

“The Alphabet”のおかげで、リンチはアメリカン・フィルム・インスティチュートから映画作成を続けるための資金を得ました。

(説明はKenneth Kaletaの著書”David Lynch”より。この本については、「書籍その他」のP1を参照)

ビデオの販売については、次の”The Grandmother”の項を参照してください。

  1. “The Grandmother” 「グランドマザー」 (35分、1970)

16ミリ映画。白黒の実写とカラーアニメーション。少年が親の虐待から逃れ、優しい祖母を種から育てるという話。

「白黒の実写部分は昔の無声映画のようだ。不鮮明な映像、様式化されたメーキャップ、大袈裟な身振り、不規則なテンポ、変化する照明、控え目な衣装。このような外見上の類似性は、ルイス・ブニュエルとサルヴァドール・ダリが製作したシュールリアリスティックな初期の実験映画に対して、リンチが抱いた感覚を強調している。

「リンチの後の作品に見られるような外見と特に音響効果が、この映画にすでに現れている。たとえば、少年のシーツの黄色いシミはだんだん大きくなり、アニメーションの太陽の黄色い球体と鏡像を成し、少年の理想化された祖母の黄色い映像へと流れていく。リンチは視覚的に織物を紡いでいるのだ。エクスタシーと苦痛が同居する少年の悲痛な長い叫び、雷を伴う豪雨、両親の誇張された発音と険悪な短い対話は、聴覚的にこの映画の不安な雰囲気を強調している」

“The Grandmother” でリンチはアメリカン・フィルム・インスティチュートのアドヴァンスト・フィルム・スタディーズ・センター(ロサンゼルス)に入ることができ、そこでリンチは5年かけて「イレイザーヘッド」を製作しました。

“The Alphabet”と”The Grandmother”はビデオではリリースされていません。
訳注: コピー版の通販情報を削除

  1. “Eraserhead” 「イレイザーヘッド」 (映画)
  2. “The Elephant Man” 「エレファント・マン」 (映画)
  3. “Dune” 「デューン 砂の惑星」 (映画)
  4. “Blue Velvet” 「ブルー・ベルベット」 (映画)
  5. “The Cowboy and the Frenchman” 「カウボーイとフランス男」(短編映画)

フランスの週刊誌「フィガロ」は、「~が見たフランス」というテーマで外国人映画監督による短編映画シリーズを作成しました。これに参加したアメリカ人はリンチだけです。

このコメディは「設定はありがちな西部劇の舞台。牧場で働くスリム(ハリー・ディーン・スタントン、リンチ作品には初出演)は、十代の頃に大口径の銃の発砲音で鼓膜が破れて以来、耳が聞こえない。スリムはカウボーイ仲間とインディアンの友人(その中には、『ツイン・ピークス』で保安官助手のホークを演じたマイケル・ホースもいる)とともに出かけ、ベレー帽をかぶり変わったしゃべり方をする人物を捕まえる。

「この人物は、セールスマンのように荷物を抱えていた。その中には、熟成した匂いのきついカマンベールチーズ(スリムはこれが嫌い)、フランスパン、ミニチュアのエッフェル塔などが入っている。このような、観光客向けのフランスをイメージする小道具が並べられ、馬鹿にされる。フランス人とアメリカ人の出会いを締めくくるのは、皆でキャンプファイアを囲んで歌い、フレンチカンカンとカントリー&ウェスタンを歌う女たちが混ざり、騒々しい夢のようなイメージだ」

(説明はMichel Chionの”David Lynch”より。この本については「書籍その他」のP1を参照)

ビデオ/LDの発売についてはTBS。

  1. “Wild At Heart” 「ワイルド・アット・ハート」 (映画)
  2. “Lost Highway” 「ロスト・ハイウェイ」 (映画)

[説明とビデオ/LDの発売についてはTBS]

  1. “Industrial Symphony No. 1: The Dream of the Broken Hearted” 「インダストリアル・シンフォニー No.1」 (ミュージカル/劇場で上演)
    作曲: アンジェロ・バダラメンティ
    作詞/視覚効果/演出: デイヴィッド・リンチ、
    出演: ジュリー・クルーズ、マイケル・アンダーソン(MFAP役でTPに出演)

ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージックで一度だけ上演された60分のパフォーマンス。TP/ジュリー・クルーズ式の音楽、リンチの特異な演出と視覚効果、「ワイルド・アット・ハート」のクリップがあります。TPファンにはお勧めです。

Warner Reprise VideoからビデオとLDが発売されています。カタログ番号は、38179-3 (VHS)、38179-6 (LD)

  1. “American Chronicles” 「アメリカン・クロニクルズ」 (TVシリーズ)

1991年にFoxネットワークで放映され、短命に終わった(13回)シリーズ。毎回、アメリカの話題に関する1つか2つのドキュメンタリーを入れていました。ヒュー・ヘフナー(以下を参照)、ニューオーリンズのマルディ・グラ、マンハッタンの夜、高校の同窓会、トラックのサービスエリア、バイク乗りの集まりなどです。

ビデオ/LD情報、カタログ番号はTBS。

  1. “On The Air” 「オン・ジ・エアー」 (TVシリーズ、後述)
  2. “Hotel Room” 「ホテル・ルーム」 (TVシリーズ、後述)

リンチはTVコマーシャルやミュージックビデオも多数監督しています。

  • クリス・アイザックのミュージックビデオ “Wicked Game”
  • マイケル・ジャクソンのツアービデオ “Dangerous”
  • カルヴァン・クラインのコマーシャル “Obsession”
  • イヴ・サンローランのコマーシャル “Opium”

L2. DLの音楽作品には何がありますか?

デイヴィッド・リンチはジュリー・クルーズの歌のほぼすべてを作詞しています(作曲はアンジェロ・バダラメンティ)。ミュージシャンとして携わった曲もあります。

[正確なリストはTBS]

L3. ジャック・ナンスはDLの映画すべてに主演しているのですか?

「イレイザーヘッド」以降、すべての映画に出演していますが、例外は「エレファント・マン」(彼は残念がっていました)と劇場版ツイン・ピークスです(こちらには出演しましたが、出番がカットされてしまいました)。

残念ながら、ジャック・ナンスは97年の初頭に亡くなりました(「全般」のG8を参照)。

L4. “On the Air”とは何ですか?

短命に終わったABCのコメディシリーズです。50年代のTVの生放送バラエティ番組が題材で、司会はかつての映画スター(TPでディック・トリメインを演じたイアン・ブキャナン)、放映するのは三流のゾブロトニク・ネットワーク(代表の役はTPでアルバート・ローゼンフィールドを演じたミゲル・フェラー)という設定です。

7話製作されていますが、3話が放映されたところで打ち切りになりました。エピソードはすべてビデオ(Worldvision、カタログ no. 5065)とLDに納められています。個々のエピソードはJim Pellmannがリストにしています。

L5. “Hotel Room”とは何ですか?

短命に終わったHBOのドラマアンソロジーです。このドラマは、あるホテルの一室で起きた出来事を何年かにわたって描写しています。

製作され放映されたのはわずか3話のみで、ビデオ化されています。”Wrapped in Plastic” (「書籍その他」のP4を参照)の第3号に詳しい記事が掲載されています。

バリー・ギフォードが、最近”Hotel Room”に関する本を出版しています。彼は「ワイルド・アット・ハート」(上記L1を参照)の基になった小説”Sailor and Lula”と、”Night People”(下記L8を参照)の著者です。

(訳注: L8を見ても”Night People”のことは書かれていませんが、おそらく「ロスト・ハイウェイ」との関連でしょう。この作品はリンチがギフォードの小説に出てくるフレーズに触発されて製作したもので、ギフォード本人も脚本に携わっています。「ナイト・ピープル」という題名のビデオ/LDもありますが、これは「ロスト・ハイウェイ」撮影当時のリンチを描いたドキュメンタリーです。”Hotel Room” に関する本というのは、1995年に出版された “Hotel Room Trilogy: Tricks/Blackout/Mrs. Kashfi” だと思います。)

L6. “Ronnie Rocket”とは何ですか?

未製作の映画です。マイケル・アンダーソン(TPの赤い部屋でMFAPを演じた俳優)が出演する予定になっていました。[詳細はTBS]

脚本の入手先は、下記を含めて多数あります(「書籍その他」のP2を参照)。※訳注: 入手先等は現在削除。

From: C. Parr
Newsgroups: alt.tv.twin-peaks
Subject: Ronnie Rocket Script
Date: 25 Jan 1995 04:00:38 GMT
デイヴィッド・リンチの”RONNIE ROCKET”の脚本を入手しました(サブタイトルは「存在の不可思議な力の不条理な謎」です)。リンチのファンは必見でしょう。送料およびコピー代として、以下の住所に$20を送ってください。

(住所を削除)

L7. “Boxing Herena”とは何ですか?

デイヴィッド・リンチの娘ジェニファーが脚本と監督をつとめた映画です。精神に異常をきたした外科医(ジュリアン・サンズ)の強迫観念についての研究です。この外科医は夢の女性(TPでオードリーを演じたシェリリン・フェン。マドンナと交代したキム・ベイシンガー[降板したため850万ドルの賠償金を求める訴訟を起こされた]と土壇場で交代)を監禁しますが、彼女は外科医に興味がありません。外科医は、彼女が逃げ出さないように手足を切断してしまいます(流血場面の映像はありません)。

評論家からも世間一般からも酷評されたため、劇場公開は2週間のみでした。ジェニファー(『ツイン・ピークス ローラの日記』の著者でもある)は父親の映像手法を色濃く受け継ぎ、同時に彼女が「すべての人間関係において両者が犠牲者となる」と述べる難しい表現を行っています。

この作品はビデオ化されています。

L8. リンチは最近、何をしているのですか?

リンチの活動を追いかけるには、マイク・ダンの”LynchNet”(http://www.mikedunn.com)がベストです。

(訳注: 現在 mikedunn.comは閉鎖されているようですが、XやYouTubeにリンチ氏のアカウントがあります)

96年から97年初頭にかけて、「ロスト・ハイウェイ」を作成しました。

95年には “Images” という本を出版しています(「書籍その他」のP1を参照)。

また、ジュリー・クルーズのプロデュースと作詞も行っています(「書籍その他」のP2と上記L1を参照)。クルーズの最新アルバム “The Voice of Love” では、彼がレノの番組で語った写真がカバーを飾っています。ある日、台所にアリがはびこっているのに気づいた彼は、空洞になった小さな人間の頭を粘土で作り、中にチーズをつめ、爪楊枝を突き刺してアリの通る場所に置いておいたのです。その頭にアリがうじゃうじゃとたかり、チーズを根こそぎ持って行ってしまう間、彼はその様子を一連の写真に撮っていました。「チーズヘッド」のうちの一枚がカバーになっています。

ミュージックビデオとTVコマーシャルをいくつか監督しています(L1を参照)。

“The Angriest Dog in the World”という断片的な漫画を毎週描いていますが、大都市のアングラ系新聞でしか見られません。

94年の年末には、”Fresh Air”というナショナル・パブリック・ラジオの番組に出演して、現在の活動について語っています。

この番組のテープは電話で注文できます。1-800-934-6000に電話して、デイヴィッド・リンチが出演した1994年12月15日の”Fresh Air”、と指定してください。料金は$9.95に送料および手数料の$3.95が加わって、合計$13.90です。

我々の知る限り、TPの続編というような動きはまったくないようです。:^(

(訳注:これはもちろん、リミテッド・イベント・シリーズが構想されるずっと前の状況です。)

L9. DLの作品はなぜ、どれもこれも変なのですか?

変なものとは、見る者の心にあり。

L10. “One Saliva Bubble”とは何ですか?

1987年から、リンチが製作しようとしている映画の脚本です。わかっている限り、これはクラシック・リンチ様式のようです。

From: Mark Wasiel
Date: Sun, 22 May 94 01:41:04 PDT
Subject: One Saliva Bubble
リンチ/フロストが書いた”One Saliva Bubble”の脚本の、最初のドラフト版を持っています。これはFAQにリストされていないようなので、これが存在するということはお知らせしようと思いました。デイヴィッド・リンチのファンなら知りたいでしょうから。これは1987年に書かれた不条理コメディで、”On the Air”の最初の話(いい話でした)を思わせます。要約すると、トップシークレットの軍事基地で働く粗野な田舎物の唾液の泡(saliva bubble)が、トップシークレットの武器システムに入り込んで回路をショートさせ、小さな田舎町に発射されてしまうという話です。放射された物質により、その街の住人が数名、心と身体が入れ替わってしまいます。”Freaky Friday”を大人数にしたようなものです。この脚本はたいへん面白く、私は”Ronnie Rocket”よりも良いと思います。

L11. デイヴィッド・リンチにはどうすれば連絡できますか? 電子メールのアドレスはあるのでしょうか?

(訳注: 原文にはプロダクションや私書箱の住所が書かれていましたが、情報が古いので削除しました。現在はXやYouTubeにリンチ氏の公式アカウントがあります)

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