『事件現場をドールハウスに』
第二次大戦直後のアメリカ。戦争で夫を亡くしたメープルは得意のドールハウス作りで生計を立てることにする。さっそく作品が売れ、ビジネスは好調なすべり出しを見せたかと思われたが、納品に行った先で住人の遺体を発見したことから思わぬトラブルに見舞われる。
- 著者:ケイティ・ティージェン
- 翻訳:杉田七重
- 発行:2025-10-31(創元推理文庫)
- ISBN:978-4-488-17406-4
- 著者:Katie Tietjen
- 発行:2024-04-09 (Crooked Lane Books)
- ISBN:978-1639107186
第二次大戦直後のアメリカ、バーモント州の田舎町が舞台。主人公のメープル・ビショップは医師である夫のビルとともにボストンから移り住み、恩師の後を継いで診療所を運営していた。
だが夫は戦争で亡くなり、年金を受け取ったものの生前の借金を清算するとほとんど残らない金額。メープルは生活のため、趣味で制作していたドールハウスを金物屋の片隅で販売することにする。
メープルのドールハウスは見事な出来栄えで、さっそく買い手が現れて一安心と思ったら、商品を届けに行った農場の納屋でその家の主人が首を吊っている姿を見つけてしまう――。
状況からメープルは殺人を疑い、現場の納屋を模型で正確に再構築して保安官を説得しようとする。これはメープルの持つ「カメラ的な記憶力」という特技と優れた模型制作技術で実現されたものだが、その行動はかえって保安官を怒らせてしまう。しかし保安官補のひとりはメープルの言い分に理解を示し、ひそかに協力して捜査を進める。
そうこうするうちに別の事件が起き、今度はメープルが容疑者になってしまうのだが、何とか事件は解決し、将来にも希望が見える終わり方で良かった。最初の事件についての判断から、あの人が関わっているのだろうなと思ったら、やはりそうだったのが悲しかったけれど。
事件の真相は第二次大戦直後という世相を反映した要素があって興味深く、またメープル・ビショップというキャラクターの人物像も、最初の方は思い込みで突っ走りがちな「ウザ系?」と思ったが、だんだん好感度が上がってくる感じ。
法律で学位を取得したという、当時の女性としては異色な学歴を持つ女性。食べていくのに困らないように、という気持ちで学位を取ったものの、ボストンのような大都市ならばともかく、バーモント州の田舎では女性が法律家として働くのはまず無理。夫が戦死して身寄りもないので仕方なく――という状況ではあるけれど、自分の力で生きて行こうという姿勢や、田舎の保守的な風土に反発する気持ちも、現代の読者からは共感を得られるだろう。
このメープルというキャラクターは、フランシス・グレスナー・リーという実在の人物から着想を得られている。メープルよりひと世代上の1878年生まれで、法医学に関心を抱き、私財を投じて科学捜査研究の発展に尽くした。裕福な家に生まれ、医学に関心を持ちつつも大学教育を受けていないのは、時代を考えれば仕方ないのだろう。このあたりもメープルの人物描写に影響しているのかもしれない。
グレスナー・リーは鑑識員を育成する教材として現場の精巧な模型を制作。これは “Nutshell Studies of Unexplained Death” と呼ばれるもので、「CSI:科学捜査班」シーズン7の模型殺人アークはこのジオラマから着想を得たものだ。解説によると「NCIS:ネイビー犯罪捜査班」のシーズン17にも登場するとのこと。
2026-02-24
