Law & Order - Season 2, Episode 7 ====== #29 In Memory of ====== * 邦題:「記憶の中に」 * 監督:Ed Sherin * 脚本:David Black, Robert Stuart Nathan * 原案:David Black, Siobhan Byrne O'Connor * 初回放映:1991-11-05 ---- ===== 事件概要 ===== ==== People vs. Thad Messimer (判事:Randall Welch) ==== 古い建物の壁の中から、白骨になった少年の遺体が発見された。死後約30年が経過。セレタ、ローガン両刑事は当時の行方不明者リストから、1962年にその場所で行方不明になったトミー・キーガン(8歳)の名を発見する。当時の関係者を1人ずつ探し歩いて事情を聞いている途中、当時トマスの友達だったジュリー・アトキンソンが、事件の夜「自分の父親が血のついたセーターを洗っていた」ことを思い出す。 精神科医のオリヴェットはジュリーの記憶は本物だと判断する。また、ジュリーの父タッド・メシマーは昔、少年に対して買春しようとしたことがあった。起訴はされていないものの、メシマーはその直後に勤めていた保険会社を解雇されていた。ジュリーはいったん証言を拒否するが、トミーの母親に説得され証言台に立つことを承諾する。しかしジュリーの側にも、支配的な父親との関係が良くなかったことや、心療内科の入院歴があることから、陪審員がどの程度証言を信用するかは疑問であった。 タッドはジュリーの尋問の前日に彼女のもとをたずね、証言をしないよう説得しようとしていた。ジュリーは証言するが、タッドはそれ以上ジュリーに証言させたくないと望む。ストーン検事は、タッドが証言を操作しようとしたことを法廷に持ち出そうとするが、タッドはその前に無罪の答弁を撤回し、トミー・キーガンを殺害したことを認めた。 ---- ===== 感想 ===== 抑圧されたトラウマや虐待の記憶がカウンセリングの過程で蘇り、その結果、闇に葬られていた犯罪が次々と明らかになる。だが、よくよく調べてみるとその多くは想像の産物にすぎない「造られた記憶」だった――という話は、かなり以前に何かで読んで知っていた(あれ? もしかして前から知っていたと思いこんでるだけかも?)。だが、その「造られた記憶」で現実に起訴されて有罪にまでなっちゃった人がいたとは。 このエピソードの元ネタのフランクリン事件は、ロフタス&ケッチャムの『抑圧された記憶の神話―偽りの性的虐待の記憶をめぐって』に詳しい。1969年にスーザン・ネイサンという少女が殺害された。その事件は犯人がわからないまま迷宮入りになっていたが、20年後になってスーザンの親友だったアイリーンが突然記憶を取り戻す。父親のジョージ・フランクリンがスーザンをレイプして殺害し、遺体を遺棄したのを見たというのだ。アイリーンは警察にそれを話し、ジョージ・フランクリンは逮捕・起訴される。 * [[https://amzn.to/3wFZLDq|『抑圧された記憶の神話:偽りの性的虐待の記憶をめぐって』E.F.ロフタス、K.ケッチャム]] この事件と同様、検察の決め手は娘の証言だけ。その証言が「見てきたように」具体的で正確だったため、警察も検察も、そして陪審員も彼女の記憶の正しさを信じ、フランクリンは1990年の11月に有罪判決を受けている。このエピソードが放映されたのはそのちょうど1年後。おそらく世間ではまだフランクリンが有罪と信じられていた時期だろうと思う。 だがその後、記憶の信憑性が疑問視されるようになり(アイリーンが語った「詳細」は事件報道で得られることばかりだった)、フランクリンは96年に控訴審で無罪判決を受けている。 * [[http://content.time.com/time/magazine/article/0,9171,970268,00.html|Daddy's Little Girl]] (TIME, 1990-06-04) さて、そのような経緯を踏まえて2007年現在の感覚で見ると、ジュリーの記憶はやはり信頼できないように思えるし、1人の目撃者の記憶だけで起訴するという検事の判断も疑問に感じる。同じアパートに住んでいたのだから、事件当時のアリバイとか調べなかったのかなぁ。そもそも、帰宅した後に行方不明になったのだから、建物は(その近所も)隅から隅まで調べたはず。壁の中に隠したって、生乾きのセメントとかあったら怪しいだろ!?……うーん、でもLaw & Orderでそういう部分に突っ込みを入れても仕方ないかな。 その一方で、ジュリーの記憶はカウンセラーに誘導されたものではないし、Dr.オリヴェットの判断を疑いたくはないし、何よりタッド本人が罪を認めてしまったので(本当にやったのか、いまいち説得力のない告白ではあったけど)、これはこれで解決とするしかないような気も。ちょっと中途半端だったかなぁ。 それはそうと、モデルにした事件の被告人が無罪になったこと、DVD化する時もテロップ等はいっさい入らないのね。前シーズンの「Indifference(親失格)」では「実際の○○事件とはこれこれこういう点が異なる」というテロップが流れたのだけど……どういう基準で付けているのだろう。 --- //Yoko (yoko221b) 2007-06-23// [<>]