Law & Order - Season 2, Episode 19 ====== #41 The Fertile Fields ====== * 邦題:「欲深き者」 * 監督:Ed Sherin * 脚本:Michael S. Chernuchin, René Balcer * 初回放映:1992-04-07 ---- ===== 事件概要 ===== ==== People vs. Fontaine Robinson, Cyrus Tanner, Harley Monks ==== 路地で男性の遺体が焼かれるという事件が発生。撲殺された後、服に火をつけられたと思われた。服装から、被害者はユダヤ教徒とわかる。氏名はエズラ・ショア。弟のアイザックとともに宝石店を経営していた。警官が発見する直前、現場近くから黒人の少年が数名逃げ去ったことから、ローガン刑事はヘイトクライムを疑う。だが被害者は殺された後、別の場所に遺体を遺棄されている。ヘイトクライムは恐怖からくる暴力なので、犯行後に遺体を動かさないのが普通だ。 エズラの息子ケイレブが、黒人の少年と争い、警察に勾留される。ケイレブは、その少年レジー・ベッグスが「あの男に火をつけた」と言っているのを聞いたのだ。レジーは仲間が被害者を殴り殺したと供述するが、その話は現場の状況とは食い違う。また、エズラが事件当時持っていたはずの宝石も見つからなかった。刑事たちは、殺害犯人は他にいて、少年たちは火をつけただけではないかと疑うが、地方検事シフは政治的配慮からレジーの仲間3人を逮捕を急がせる。 大陪審でレジーは、それまでの供述を翻し「殴り殺すところは見ていない。仲間が火をつけるところを見ただけ」だと証言する。取り調べで恐ろしくなり、「何か言わなければ」と思った挙句の嘘だった。決め手の証言がなくなっては、起訴を取り下げるしかない。だがアイザック・ショアはこの決定に怒り、大陪審の速記録を見せろと検事に要求する。検事はアイザックの態度から、彼が何かを隠している――実は真犯人を知っており、速記録は自分で見るのではなく、その真犯人に見せたいのではないかという疑いを抱く。そしてショアの事業を調査し、取引で不正を行っているらしいことを知る。 ==== People vs. Joseph Tashjian(判事:たぶんGillman) ==== ストーンとロビネットは不正取引の証拠をアイザックに突きつけ、これが殺害の動機ではないのかと問いただす。アイザックは「自分がエズラを殺した。単独犯だ」と告白。しかしアイザックは以前に免責特権を得ている。それは、取引に手違いがあると遺族が罰金を払わされるかもしれないと言って大陪審での証言を渋ったためで、本来殺人とは無関係のはずだったが、その免責はアイザックの証言全般に適用されることになっていた。 だがストーンは、アイザックは真犯人を庇っているのではないかと怪しんでさらに調査を続け、タシジアンという人物との間でマネーロンダリングが行われたと思しき痕跡を発見。セレタとローガンはタシジアンの会社を捜索し、ニセブランド商品を大量に発見。これは連邦法違反なので、州の免責特権ではカバーできない。タシジアンは起訴され、アイザックは生活の全てを失うかもしれないと脅され、やむなく証言台に立つ。 宝石店の帳簿を預かっていたアイザックは兄に内緒でマネーロンダリングなどの犯罪に手を染めていた。やがてエズラは事情を知って怒り、タシジアンと話をつけに行った。アイザックはその後を追い、何とか事態を収めようとしたが、タシジアンは手がつけられないほど怒り狂い、杖でエズラの全身を強打して殺害した。アイザックは恐怖のあまり誰にも言えず、家族を殺すと脅されて自分が身代わりになろうとさえしたのだった。 タシジアンの弁護人は、タシジアン有罪の根拠がアイザックの証言しかないこと、アイザックが何度も嘘をついたことを理由に、合理的な疑いを超える証明がなされていないと主張。陪審は無罪の評決に達する。 ストーンとロビネットが法廷を出ようとしたところへ、一発の銃声が響く――アイザックがタシジアンを撃ったのであった。 ---- ===== 感想 ===== TV.com には、この話の元ネタ(Ripped from the Headline)として、クラウン・ハイツ事件が挙げられていた。 これは、91年にブルックリン地区のクラウン・ハイツで起きた暴動事件。この地区にはユダヤ教徒と中米から移住してきた黒人の間で従来から人種対立があり、ユダヤ系男性が黒人の男の子を車で轢いて死なせてしまったことから暴動が起きた。詳しくはおそらく下掲の『祝祭と暴力』に……読んでないけど、目次を見ると「ニューヨークのカリビアン:ブルックリン・カーニヴァルとクラウンハイツ暴動」と題する章があるので、分析というか文化的考察がありそうだ。 * [[https://amzn.to/4341tuw|"Crown Heights: Blacks, Jews, And the 1991 Brooklyn Riot" Edward S. Shapiro]] * [[https://amzn.to/48Io7cO|『祝祭と暴力: スティ-ルパンとカ-ニヴァルの文化政治』冨田 晃]] だがこのエピソードは、人種間対立は描写されているものの、結局真犯人も犯行の動機もそれとは関係なかったわけで、タシジアン(原語は Tashjian で、タジアン、タシュジアンとも聞こえるが、いずれにしても "sh" の部分はほとんど聞こえないくらい弱い発音である)も黒人ではなく中東系っぽい感じなので、Ripped from the Headline というほど関連性があるのだろうか……と、少々疑問に思う。 とはいえ、暴動が起きたのは91年の8月で、このエピソードの放映はそれから1年も経たない92年4月。初回放映当時に見た人はやはり、この暴動事件を生々しく想起したのだろう。シフ検事が起訴を急がせたのも、私には少々強引すぎるように思えたが、この事件の影響を考えると、この「政治的配慮」もわかるような気がする。 このエピソードは、ストーリーの流れがきっちりと練られていて「おお、なるほど!」と思わせられる点が多かった。前半でアイザックが免責を要求したことが後半でどういう意味を持ってくるか、またアイザックが証言台に立つまでのプロセス、州と連邦の二重権力の構造など、話の展開に無理がなく無駄な場面もないことが素晴らしい。 それにしても、タシジアンを訴追する証拠はアイザックの証言の他に何かなかったのだろうか。現場の血痕とか――この時代の技術だと、ルミノールで血を拭いた痕跡が発見できてもDNA鑑定は無理かな。ちなみにL&Oでは、鑑識はCSIではなくCSU(Crime Scene Unit)と呼ばれている。 ところで、冒頭で事件を発見した警官が、被害者の帽子のことで何か言って、セレタ刑事に「あれはヤームルケ(yarmulke)というんだ」と言われていた。キッパー(Kippah)という呼び名しか知らなかったが、ヤームルケはポーランド語に由来する呼び方らしい。へー、と思っていろいろ検索していると、Amazon.com で売られているのを発見。さすがに日本の Amazon にはなかったけど。((と思ったら2020年現在は日本のAmazonでも販売されている!)) --- //Yoko (yoko221b) 2007-11-23// [<>]