Law & Order: UK - Season 1, Episode 5 ====== #5 Buried ====== * 邦題:「葬られた記憶」 * 脚本:Catherine Tregenna * 原案:David Black, Robert Nathan, Siobhan Byrne * 監督:Mark Everest * 初回放映:2009-03-23 ---- ===== 事件概要 ===== ==== Crown v. Vernon Mortimer ==== 古い建物の壁の中から少年の遺体が発見される。 身元は、25年前に行方不明になったトミー・キーガン(当時8歳)と判明。その当時、同じアパートに住んでいたエド・コナーが容疑者とされていたが、証拠はなく未解決のままだった。 ブルックスとデヴリンは25年前の関係者を訪ねて事情を聞く。エド・コナーは名前を変えて現在は作家。容疑者になったのは彼がゲイだったためで、恋人が既婚者だったためアリバイを証明できなかったという。刑事たちは、余談に基づいたいい加減な捜査に怒る。 当時トミーと親しかった女性、ジュリア・モーティマーがEMDRという方法を試してみたところ、彼女は自分の父親がトミーを殺した場面を見たことを思い出す。 スティールはジュリアと面接し、厳しく問い質して記憶は本物であると確信する。父親のヴァーノンは「ニセ記憶だ」と主張。背景を調べてみると、ヴァーノンは保険会社に勤めていた頃、少年に対する買春容疑で逮捕されていたことがわかる(ただし不起訴)。EMDRを続けたジュリアは、父親に性的虐待を受けたことを思い出す。ジュリアは両親のことを思って証言をためらうが、トミーの母親と会い、証言を決意する。 ジュリアは証言台に立つが、弁護側はジュリアが父親を嫌っており、復讐のために嘘をついていると印象付け、またジュリアが精神を病んで入院していた事実を突きつけて信頼性を崩そうとする。 スティールはヴァーノンの罪悪感を利用して自白を引き出そうと尋問を行う。ヴァーノンは証言中に突然、ジュリアへの虐待を認める。そのことを妻に知られたため、トミーに接近して親しくなった。だが「母親に言う」と言われてトミーを殺し、壁の中に封じ込めたのだった。 ---- ===== 感想 ===== オリジナルは本家シーズン2の「記憶の中に」で、だいたいの展開は同じであるものの、かなりテイストの異なる話に仕上がっていて面白かった。 この話は実際にあった事件(ジョージ・フランクリン事件)が元になっている。これは、20年前に少女が殺害された未解決事件に関して、ある女性が「パパが友達を殺した」という記憶を唐突に取り戻したという事件。父親であるジョージ・フランクリンは起訴され、本家エピ放送の1年前くらい(1990年)に有罪判決を受けている。 ところが、その女性の記憶がどうやら本物ではなく「作られた記憶」らしいということになり、6年後には控訴審で逆転無罪。本家のエピソードでもすでに、証人の記憶は本物なのか? という疑問が持たれていたので、擬似記憶に関してかなり研究が進んだこの時代に、このエピはそもそも成立するのだろうか? と、見るまでは少々不安だった。途中で性的虐待の話が出たので、これは疑似記憶だったという路線かな、とも思った(性的虐待は悪魔教儀式と並んでポピュラーな擬似記憶らしい)。 * [[https://amzn.to/3Pcxvi5|『抑圧された記憶の神話:偽りの性的虐待の記憶をめぐって』E・F・ロフタス、K・ケッチャム]] しかし今回、こちらの話ではどうやら記憶は本物だった様子。話もかなり具体的だったし、罪悪感に苛まれる様子も見せていた。記憶を取り戻す手法も研究が進んでいて、「ちゃんちゃん」テロップだけでは実感しにくいが、何回もセッションを重ねて慎重に判断していることが台詞からも判断できた。 面白いのは、本家でも被告人が同じように殺害を認めていたが、あちらでは供述が全然具体的ではなく「本当は無実なのでは?」とも思える描写だったこと。考えすぎかもしれないが、実はトミーを死なせたのは娘のジュリーで、父親は彼女を庇っているのでは? とすら思えるほどだったのだ。しかも放送当時は、元ネタの事件で被告人が有罪になったばかりというタイミング。 それとは逆に今回は、「擬似記憶」という現象をよく知っている視聴者に対して「本物だ」という結論をぶつけてきたように思った。同じ素材を扱い、同じ展開をたどりながら、正反対の印象を与えているところが面白い。 そして、関係者たちが法廷を出てそれぞれ帰って行く場面も良かった。ひとりひとりの言い尽くせぬ思い、30年の時の重みを感じました。本家と比較して「感情的すぎる」という批判を受けることもあるUK版だが、今回の情景描写はとても良かったと思う。 ところで、このエピでは "Plea and case management hearing" という手続きをアリーシャが担当していた。これは、有罪/無罪答弁と保釈の審査を行う、アメリカのアライメント(罪状認否)に相当する手続きのようだ。アリーシャは法廷に立たないソリシタなのかと思っていたが、正式にはソリシタ・アドヴォケイトであって法廷に立つ(限定的に?)こともあるようだ。イギリスの司法制度、やっぱりまだよくわからない。 --- //Yoko (yoko221b) 2010-07-27, 改訂 2015-07-13// [<>]