テンペ・ブレナンシリーズ第1作。カナダ、ケベック州の法医学研究所に勤務する法人類学者、テンペ・ブレナンは、ある日神学校の敷地内で発見された遺体を鑑定し、若い女性が殺害された事件と結論付ける。テンペは別の事件との類似性を発見し、連続殺人を疑うが……。
キャシー・ライクス(作者名の表記が一定していないが、原則としてこの表記を優先したい)の一連の小説シリーズは、TVドラマ「BONES」の原案と言われているが、共通点は「主人公の名前と職業」だけだという。読んでみて思ったが、確かにその通りだった。同じ法人類学者で名前もテンペ(テンペランス)・ブレナンなのに、エミリー・デシャネルのビジュアルはまったく頭に浮かんでこなかった。むしろ作者であり、BONESにもカメオ出演したキャシー・ライクス本人の方が印象として近い。スクィンツな同僚たちもいないし、ブースも……これはライアン刑事がそのポジションかなとは思うものの、やはり別人には違いない。
なので、ドラマとの違いを楽しむというより、これはこれで独立したシリーズとして読んでいきたいと思う。
1998年に出版された作品なので、データベースなどのデジタル環境は少々古い感じだが、基本は同じであるし、2020年の今でもそんなに「古いっ!」って感じではなかった。考えてみれば90年代にDNAや画像処理などの新技術が次々に生まれ、それが「犯罪捜査フィクション」作品に取り入れられていったことが、2000年代のドラマブームを呼んだのではなかったか。
90年代の「犯罪捜査ブーム」を思い出してみると、コーンウェルの『検屍官』が1990年、FBIのロバート・K・レスラーがプロファイリングの本を出したのが1992年、ディーヴァーの『ボーン・コレクター』が1997年、そしてこの『既死感』が1998年。その合間に、O.J.シンプソンやジョンベネ・ラムジーなど世間の関心を集める事件があった。
2000年に「CSI」シリーズが大ヒットしたのもこの延長上にあったと思う。そしてその5年後に、ライクスのこの小説シリーズが土台になったドラマ「BONES」が作られる。
第1作であるこの『既死感』、物語としては、オーソドックスな犯罪捜査小説であり、主人公の直感が異常に鋭くて「古風」な刑事と対立するというパターン。刑事さんにしても、担当する事件の大半は特殊でも何でもなくて、法人類学者とはいえ犯罪捜査に関しては素人の主人公に連続殺人とか言われても、あまり本気に取り合う気にはなれないだろう。ありがちと言えばありがちだけど、そこが安定感のある面白さでもあるように思った。ただ、テンペがあそこまで「突っ走る」タイプでない方が、読者としてはもうちょっと共感できたのではないかと思う。
親友ギャビーの話は必要だっただろうか。出すにしても、個人的にはああいう結末でなかった方が良かったな……この2人の掛け合いをもっと見たかったので。
— Yoko (yoko221b) 2020-09-21