小説版CSI第12弾、今回の著者はベガス初登場(マイアミで1作執筆)のジェフ・マリオッテ。ウォリックを失いライリーを迎えたベガスCSIチーム。グリッソムが学会に出かけて不在のためキャサリンが中心になり、モーテルで私立探偵が射殺された事件、飛行場でパイロットが死亡した事件、大量の動物の屍骸が捨てられていた事件を捜査する。
時期的にはシーズン9の前半。グリッソムはまだベガスチームの主任を務めているが、この作品では学会で出張中ということになっており、ほとんど登場せず。またウォリックはすでに退場し、代わりにライリーがチームに加わっている。というわけで捜査に携わるのはキャサリン、ニック、グレッグ、ライリーの4人。人員に余裕があるという状況でもないのに事件が3件、というのはやはりちょっと忙しいかな。
まず、キャサリンとニックはモーテルで私立探偵が射殺された事件を担当。その部屋にはアントアネット・オブレイディーという女性の持ち物があり、殺人の捜査と並行してアントアネットの身元と行方を探ることが重要となる。
その後ブラス警部がその現場にいたことがわかるが、本人は非番で署内にいない。キャサリンは何度も警部と連絡を取ろうとするが、なかなかつかまらないので不審に思い始める。もちろんキャサリンが警部を疑っているわけではないし、読み手としてもブラス警部が事件に関わっているはずがない(そんな重要な話を小説独自に展開できるわけない)と思っているので、感触としては「ハラハラ」というより「どういうオチなんだろう?」という期待感の方が強い感じ。
そうこうするうちに、失踪中のアントアネットとブラス警部の間に意外なつながりがあることが判明。説明過程でシーズン8の「ベビー・コーデリアの棺」事件が言及されるなど、TVエピソードとの接点も見せている。終盤では犯人がショッピングモールに立てこもって銃撃戦が始まり、現場にいたキャサリンが大活躍。銃撃戦でもただ銃を撃つのではなく、血痕を冷静に分析して状況を把握するところがCSIらしくて良い。この小説はタイトルから予想されるとおり、ブラス警部が重要な役割を果たしているのだが、警部本人は終盤のこの場面でやっと登場する。
一方、グレッグとライリーは着陸した飛行機の中でパイロットが死亡していた事件を担当。最初は事件性があるのかないのかもわからないような状況だが、どうやら空調を細工したことによる一酸化炭素中毒死と判明。捜査中に、飛行機の飛ばし方についての薀蓄が延々と披露される。飛び方(というかエンジンの使い方?)についても流儀や流行があるらしい。
その事件の捜査中に2人はキャサリンから「別の現場にも行ってくれない?」と言われて事件を掛け持ち。建設現場で大量の死体が発掘された――といっても、すべて動物。犬やヒツジなどが大量に殺されて捨てられていたのだ。殺人ではないので、最初は2人ともあまり重要視していなかったようだが、犯行の様態がわかるにつれて、恐ろしい可能性が浮上する――つまり、この動物を殺した犯人は「殺しの練習」をしていたのではないか。それも少しずつ大きな動物に挑戦し、殺し方にも迷いがなくなり「自分のスタイル」を確立してきている。このへんは何だか「クリミナル・マインド」みたい。
動物を殺すことで練習を重ね、自分のスタイルを確立した犯人が、死体を処理する場所を奪われたらどうなるか――ということで、「次は人間を手にかけるつもりなのでは?」と思い至る。確信はないものの、キャサリンは行方不明事件を重点的に調べるよう指示し、その夜カジノから女性の観光客が失踪したことがわかる。
ちょっとタイミング良すぎ? な感がなくもない(このあたりもクリマイと共通する)が、犯行に至る理由と過程が説明されているので、まぁ良しとしよう。そこで緊急手配が布かれ、最後はニックとライリーが犯人を追い詰め、格闘の末逮捕。その頃グレッグは飛行場でパイロット殺害犯を追跡。犯人は飛行機で逃げようとするが失敗して墜落、燃料が爆発して犯人は死亡(したと思う)、グレッグは軽傷を負う。
そんなこんなで、3件ともCSIには珍しいアクション場面で終わった。読み始めた時は「えー主任いないのー」とちょっと不満に思ったものだが、読み終えてみると、これはこれで良かったかなと思う。ウォリックの事件があり、主任が辞職を決意するまでの、ちょっと弱ってる時期なので……その時期の主任を敢えて描写せず、次を担うキャサリンを中心に据えたことで、シーズン9後半への橋渡しとしての役割を果たす作品になったと思う。
この次の “The Killing Jar” が、どうやら小説版では主任の「最後の事件」になり、その次の “Blood Quantum” ではラングストンが登場するようだ。
— Yoko (yoko221b) 2011-08-01