CSI - Season 5, Episode 6
- Death.
- That's what you deserve when you make a mistake.
西ラスベガス大学(WLVU)のキャンパス内で、蛆虫の大群が発見された。そこでは乾燥地向けの造園が行われており、蛆虫は生息しないはず。調査に呼ばれたグリッソムは、その場で人間の歯を発見する。さらに人骨も見つかったが、それはすべて同じ大きさに切断されていた。ウッドチップを作る機械で粉砕されたものと思われた。
現場には、人の残骸と蛆虫に混じって青い塗料の付着した爪と「ΩΖΠ」と刻印されたキーがあった。塗料はオイルベースで、モーターオイルが混ぜられていた。それは1987年に始まった、WLVU連続殺人事件の犯人が使う塗料であった。
その事件では、犯人は手すりに乾きにくい塗料を塗り、それを手につけてしまった女性が手を洗いに来るのを水道の近くで待っていた。そこを背後から襲い、縛って遺体をゴミ袋に入れるというのが決まった手法だった。1987年には3件の殺人事件が起こり、WLVUの警備員だったジョン・マーザーズが逮捕され、死刑を宣告された。
2002年、ジョン・マーザーズの死刑執行はDNA鑑定をやり直すために一度延期されるが、その時に同じ手口でデビー・レストンという女性が殺害される。模倣犯と思われたが、その後の捜査でマーザーズこそ模倣犯であることがわかる。連続殺人の真犯人はまだ不明であるものの、DNA再鑑定の結果、マーザーズは87年の殺人のうち1件の加害者であることが確実となり死刑は執行された(シーズン3「死刑執行停止」)。
しかし今回、蛆虫の体内から抽出したヒトのDNAは、男性のものであった。「ΩΖΠ」のキーから、被害者は行方不明になっていた新入生、ジョナサン・エイヴリー・ヘイウッドとわかる。
犯人は、手すりを塗装するだけでなく、手すり自体の設置も行っていた。犯人が設置した手すりの付近で、黒いゴミ袋の包みが発見された。しかし袋の中身はダッチワイフ人形。人形は被害者と同じように手を縛られ、手の部分には青い塗料、口の中には “I HAVE HER” と書いた紙と毛髪が入っていた。2年前にも、デビー・レストンの遺体に最初の被害者ジャネット・ケントの毛髪が付着していた。毛髪はデビーのものだった。
メッセージの紙を調べると、その上のページに、縛られて恐怖に怯える女性のイラストが描かれていた形跡があった。その絵の背後の文字が逆向きであることと座席の位置は、被害者を車の後部座席に乗せ、ミラーに映る姿を描いたことを意味する。つまり描いた者は被害者の顔を正視しなかった(できなかった)のだ。逆向きの文字は、「エロティカ・ブティック」というアダルトショップの看板だった。
エロティカ・ブティックへ急行すると、そこに駐車していたバンの中に、縛られた女性の遺体があった。店には、犯人のイラストと同じ絵柄の冊子を売られていた。作者は “Zippy Tee” といい、住所は不明。ダッチワイフ人形とその本を交換したことがあるという。
被害者はWLVUの学生ケイトリン・ラキッシュ。ケイトリンの髪型は、ジョナサンとよく似ていた。犯人は被害者をランダムに選んだのではなく、特定してつけ狙いチャンスを待って罠にかけた。そして間違えてジョナサンを襲ってしまったのだ。ケイトリンの事件前の足取りを調べると、学食、コピー室、書店、図書館へ行った後、コーディ・ルイスの美術クラスに出席していたことがわかる。ルイスは2年前の事件でも容疑者と目されていたが、証拠はないままだった。今回も、ルイスの捜査は空振りに終わる。
バンのVIN番号やライセンスプレートなどは持ち主がわからないよう細工されていたが、中に落ちていたWLVUの駐車パスは、1986年に発行された ジョン・マーザーズの物だった。つまり犯人とマーザーズはオリジナルと模倣犯という関係ではなく、パートナーだった。しかしマーザーズの面会記録等に、パートナーの存在は示されていなかった。コミックの内容を分析した結果、作者は支配的かつ嗜虐的な性質を持つと思われた。対してマーザーズの診断結果は依存性人格障害。
コミックの綴じ具の指紋は、デビー・レストンを包んでいた袋の指紋と一致した。バンの中にこぼれていた黒い粉は、コピー機用のインク。被害者の行動を確認すると、うち3人が大学のコピー室に行っていた。そこで10年以上勤務しているのは、ケヴィン・グリアーという男一人だけだった。グリアーはコピー室で自分のコミックを製本していたという。自宅へ急行するもグリアーは不在、塗料を混ぜるミキサーだけが動いていた。そこへ電話がかかり、「警察署で待つ」というグリアーのメッセージが入る。
グリアーは警察署でグリッソムとブラスを待っていた。「私の家を探し出したら、会う価値があると思った」と言う。2年前にデビーを殺害し、去年何もしなかったのは、デビーを殺したときに眼鏡を壊してしまい、レーザーで視力矯正をしていたためだった。だが夜間はまだ見えにくく、間違えてジョナサンを殺してしまった。
グリアーの自宅のフリーザーには、被害者のイラストと毛髪が保存されていた。その中には、まだ知られていない被害者ブリット・モスコーがあった。
グリアーはグリッソムとブラスに「ブリット・モスコーの所へ案内する」と言い、途中でトイレに入る。だが、ブリット・モスコーは、実は存在しない被害者だった。彼女の絵は、壁にかかっているカレンダーの10月の女性モデル。BRIT MOSSCOE は、MISS OCTOBER のアナグラム。真相に気づいたグリッソムはトイレに踏み込むが、時すでに遅く、グリアーはポリ袋をかぶって自殺してしまっていた。取調室でグリアーが描いていたイラストを見たグリッソムは、口の中に小さく書かれた “GOOD BYE” の文字を発見する――。
久々に密度の高い骨太なミステリを見た気がする。こういうのを見たかった。
シーズン3「死刑執行停止」からちょうど2年おいての解決篇。前回も、青い塗料や毛髪といった証拠の使い方が、ストレートにCSIらしくて面白かった。今回も、蛆虫とキーから被害者へ、塗料から人形へ、そこからアダルトショップへ、そして大学のコピー室へ、とばらばらの証拠が一筋にまとまって加害者を指す、そのプロセスの描写が良かったと思う。コーディ・ルイスも心配したほどステットラーらしくなかったし。
ただ少し欲を言うなら、犯人が前回に登場していた人だったらもっと良かった。そして少し不満を言うなら、その証拠群の多くが犯人によって「撒かれた餌」であろうと思われたこと。最後までグリッソムは、グリアーの書いた筋書き通りに行動したように見える。グリアーはグリッソムがイラストの背景からアダルトショップへ来ることを予測してそこに遺体を置いた。黒いトナーの粉とマーザーズの駐車パスも、コピー室へおびき出すための仕込みのように思う。そのヒントをたどって、グリッソムは大学からグリアーの自宅へとたどり着いた。そこで聞くグリアーのメッセージはまるで「ステージクリア」宣言のようだ。そして次のステージでは「ブリット・モスコー」からトイレへ移動し、ここでゲームオーバー。グリッソムは、視力のことを指摘した時以外は後手に回っている感じがした。
グリアーが出頭した理由は “If you made it to my house, you deserved to meet me.” だった。そしてマーザーズの処刑については、“That's what you deserve when you make a mistake.” と言う。グリアーはなぜ “deserve”(値する)という言葉を繰り返し使うのだろう。人をコマのように動かしながら、誰が何に値するか、いつも考えていたのだろうか。そして自分がミスをした時、自分は死に値すると思ったのか。何となくグリアーが本当にやりたかったのは殺人ではなく、「名探偵とマスター・クリミナル」の対決を演じ、最後まで逃げ切る(自殺する)ことだったんじゃないかと思う。その点では、ポール・ミランダほど切実なものは感じられなかった。
ところで、マーザーズの役割はどの程度のものだったのだろう? シーズン3の時は、3件の連続殺人のうち1件だけがマーザーズの犯行であるという結論で、その1件を根拠に死刑が執行された。その時はマーザーズは模倣犯という結論だったが、今回グリアーがマーザーズを支配していたことが明らかになる。塗料と体毛はマーザーズの物だが、レイプはともかく殺害も本当にマーザーズだったのだろうか?