CSI - Season 14, Episode 16
プレスリーの物まね芸人をしていたジョージ・テイビンが殺害される。頭部に殴打された傷があるが、発見現場には血痕が少ないため、別の場所で殺されてから運ばれた可能性が考えられた。サラとグレッグは血痕をたどり、突き刺されたカラスの死骸を発見。それはネバダ州には生息しないミヤマガラスだった。
ミヤマガラスは英語で「ルーク」、プレスリーのあだ名は「キング」。そして遺棄現場はそれぞれアベニューD、アベニューCと1番通りの交差点で、チェス盤のD1、C1につながることから、高校時代チェス部の部長をしていたグレッグはチェスの手である「キャスリング」を思い浮かべる。キャスリングとはキングとルークを同時に動かす手で、もしキャスリングならばキングはE1からC1へ移動されたはず。そう思ってアベニューEへ向かうと、そこには殺害現場と思しき車が乗り捨てられていた。
テイビンの衣服からは、苔の微細証拠が検出される。その苔は水分を大量に吸収する特性があり、生きたバスマットとしてメディテレニアン・ホテルで使用されている。そのホテルでは、今まさにチェスのトーナメントが行われていた。
ニックとグレッグはトーナメント会場へ向かい、責任者のジェニー・キャロルから事情を聞く。このトーナメントは全米を巡回するツアーであり、ベガスは8箇所目にあたり出場者は約150名。グレッグは会場で、かつて自分にチェスを教えてくれた師匠のローマックスの姿を見つける。
今回の殺人が「キャスリング」であるとすれば、序盤からつながる一連の「手」があるはず。ベガスではチェスに関連した未解決事件は起きていないが、チェスのトーナメントツアーが今までに巡回した場所の警察に問い合せてみた結果、「ドラァグクイーン」「司祭(ビショップ)」「乗馬の女性」などの殺人事件が6件起きていることがわかる。
被害者と殺害現場(盤面上の位置)を組み合わせてみたところ、ローマックスは「1998年のトーナメント決勝戦の手だ」と見抜く。その試合では、トロイ・パーカーとカール・シュルートが対戦したが、パーカーが致命的なミスをおかして敗退、その後消息不明となる。勝利したシュルートは今回のトーナメント・ツアーにも参加していた。
シュルートに事情を聞くと、ホテルにチェックインした当日に匿名で「手製のチェスの駒」が届けられたという。さっそく現物を預かって調べたところ、トイレットペーパーと洗剤を混ぜて固めたもので作られていることがわかる。手間はかかるが入手できるものが限られている――つまり囚人などがよくやる手法であり、洗剤の成分からイーリー刑務所で作られたものと判明。受刑者を調べてみると、現在トーナメントに出場中のクロズビーの存在が浮上。
クロズビーは薬物事件で収監されている間にチェスの本を読み漁り、パーカーとシュルートの対戦に取りつかれるようになっていた。さらに、事件が起きた頃現場付近にいたことも監視カメラの映像で明らかになるが、本人は犯行を否定。そしてクロズビーを勾留している間に新たな殺人が起き、彼の容疑は晴れることになる。
次の事件では、クリス・シャトロックという男性が駐車場の「A4」区画に停めた車内で刺殺されており、車の中には「円卓の騎士(ナイト)」の衣装があった。つまりナイトをA4へ――となるが、98年の決勝戦では、ビショップをE3に移動していた。つまり決勝戦の再現ではなく、犯人は自らの手を指し始めたのだ。
そこへトーナメント責任者のキャロルが「不審な駒が届いた」と届けに来る。それは、やはりトイレットペーパーで作られたナイトで、カール・シュルートとは連絡がつかないという。
車内で発見した微細証拠がとあるモーテルにつながり、そこで「パーカーに似た男」が暮らしていることがわかる。ニックとクロフォード刑事はモーテルへ向かうが、そこにパーカーの姿はなく、浴槽ではクロズビーが殺害されていた。部屋にはチェス盤がいくつも置かれており、どれも同じ手で止まっているようだが、ひとつだけポーンが倒れている盤があった。クロズビーはここで、ポーンとして殺されたのだろう。
だが室内にあった薬を調べてみたところ、トロイ・パーカーは血管性認知症を患っている可能性が生じる。そうであれば、一連の連続殺人を計画することは無理だ。そして、モーテルでパーカーの世話をしていたのがローマックスであることもわかる。ローマックスは事件への関与を否定し、グレッグに「相手の視点に立って盤面を見ろ」と言う。グレッグはその言葉に従い、チェスの駒の中で最強の機能を持つ「クイーン」に思い至る。
ジェニー・キャロルの父親はチェスのグランドマスター。だが彼は「チェスは知性と支配欲を必要とする男のゲーム」であるからと、娘を軽んじていた。ジェニーは一連の犯行で、人を殺すたびに頭の中で父親を殺していたのだった。ツアーの関係業者はすべて清算済みだったが、1か所だけ倉庫が残っており、そこに監禁されていたパーカーとシュルートは無事に救出される。
伝説の試合になぞらえた連続殺人という事件、未解決の事件を調べ直してみて連続殺人の法則がわかるという展開、その背後にはチャンピオンだった父と娘の関係――という構成が前シーズンの「ポーカーフェイス」と重なっていて何だかデジャヴュ。こういうネタかぶりは初めてではないけど、もっと時間をあければ良いのに。
チェスに限らずこの手のゲームは「勝負の世界」という男性的な印象があるが、動き方として最強なのは「クイーン」の駒である、という着眼点は良いと思った。クイーンの動きはルークとビショップを合わせたもので、縦横斜めの八方に何コマでも進むことができる。駒を表す記号もキングより派手で強そう。ポーンは敵の陣地に入ればクイーンになることができる――というのはルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』で知った。