CSI: NY - Season 1
Suicide isn't just a sin, it's a statement. I don't see one here.
マック、ダニー、エイデン担当。証券取引所で、持ち主不明のブリーフケースが発見され、全員が避難した。マックは遠隔装置で指紋を取り、鞄を破壊。中には “In case something happens to me”(自分に何かあった時のために)と書かれた、血のついた紙片があった。指紋の主はトレーダーのルーク・サットンという男。サットンの自宅は荒らされており、無理やり連れ去られたように思われた。そうであれば、鞄を運んだのは誰なのか。パソコンのデータ磁石で消去され、ハードディスクはなくなっていた。マックは、犯人の狙いが特定的であることと、部屋が荒らされていることに矛盾を感じる。
サットンの鞄にあった書類から、彼がニック・ローソンという人物の不正な取引を調査していたことがわかる。ローソンはサットンの行方も、サットンに調査を指示した「チャールズ」なる人物も知らなかった。サットンの鞄に入っていた紙片の血は、サットンのアパートで採取したDNAと一致。おそらく本人のものであろう。
サットンの車が焼けた状態で発見され、中に焼死体があった。身元はサットン本人と確認。まだ生きて意識のある間に、燃焼促進剤を全身にかけられていた。銃で一度撃たれていたが、弾は内臓をそれていた。車には使用された銃とハードディスク。犯人が殺すつもりなら、なぜもう一度撃たなかったのか、またハードディスクを残していったのはなぜか。謎は深まるばかりだった。
マックは焼け残ったハードディスクの解析を始める。繰り返し現れる “Three generations are enough!”(三世代で十分だ)というメッセージと、チャールズ・ラングドンなる人物との間に交わしたメールを発見。二人が会う予定だった場所へ行ってみると、そこは廃墟のような部屋で、中には現金、飲みかけのソーダ、空の薬きょうと火薬があった。ソーダ缶からDNAを調べると、それはステラが勾留しているポール・ストリゼスキのものだった。別々と思われる事件に関連が生じたため、全員でもう一度事件を構築しなおすことにする。
ステラ、フラック刑事担当。教会のカウンセラー、トリナ・ロルストンが屋根から落下して死亡した。第一発見者は、雑役夫のポール・ストリゼスキ。飛び降りたにしては落下地点が遠すぎ、遺書もなかった。
トリナは妊娠していたが、未婚で父親は不明。ホークス医師は、仰向けで倒れていたのに前歯が欠けていることに不審を抱く。落下する人間は重力に逆らおうとするため、通常は足の骨を折る。トリナは足を骨折せず、腰椎や尾骨が折れていた。つまり意識のない状態で横向きになって落ちたのだ。さらに後頭部の骨を調べると、落下とは別の怪我で環椎が折れていることがわかる。すなわち殺人。
ステラは教会を調べ、歯の欠片、毛髪のついた燭台、トリナへのラブレターを発見。燭台には複数の指紋があった。また、遺体のそばにあった煙草の吸殻から、ポールが最後に彼女にキスしたことがわかる。ステラがラブレターのコピーを見せると、ポールは突然暴れ出した。服に付着した白い薬の粉末から、彼が精神分裂病であることが判明。さらに、マックの事件の証拠品からポールのDNAが検出され、二つの事件の捜査は合流することになった。
* * * * *
マックは引き続きサットンのハードディスクを解析。相変わらず “Three generations are enough!” という文が繰り返し現れる。それを見ているうちに、マックはサットンのアパートで見つけた最高裁判決文のコピーを思い出す。それは1927年に精神遅滞者の強制的な断種を認めた「バック対ベル事件」の判決で、ホームズ判事による “Three generations of imbeciles are enough.”(痴愚は三世代で十分である)という文言で締めくくられていた。メールのやり取りは、サットンからラングドンに宛てた物だけが残っており、ラングドンから送られたものはなかった。ラングドンとは実在しない、サットンの妄想の中の人物だったのだ。
DNAにより、ルーク・サットンとポール・ストリゼスキは実の兄弟であると判明。燭台の指紋のひとつはサットンのものであり、靴に付着した物質からも彼が教会の屋上にいたことが裏付けられた。ルークとポールの家系は三代にわたって精神疾患を患っていた。ポールがルークにトリナのことを相談した後、ルークは妄想に駆り立てられてトリナを殺害。そして必死で自分に関わるすべてのものを破壊し、データを消去し、だが何かを残したい気持ちからブリーフケースに紙片を入れて、証券取引所に置き去った。そして車に乗って自分を撃ち、幻聴の命ずるままに焼身自殺したのだった。
2つ別々の事件が1つになる。一見自殺だった方が実は他殺で、誘拐されて殺されたかに見えた方が実は自殺だった。
通常、ミステリの謎解きというものは「一見無関係に見える事実を相互に結びつける」ことであったり「無意味に見える事柄の背景の意味をさぐる」ことであったりする。現場の状況から仮説を導き、その仮説を裏付ける証拠を見つける。証拠が仮説と矛盾する場合は、仮説が間違っているか、あるいは証拠の解釈が間違っているのだ。そうして仮説と証拠の検証を経て、一見不可思議な状況から、理にかなった過程が再現されていく。
だが、何度証拠を検証しても理不尽な過程が導かれる場合は、当事者が矛盾した行動を取っていたとしか解釈のしようがない。不可能なことを取り除いていって、最後に残ったものが矛盾した行動であるなら、やはり事実はそうだったのだろう。異常に見える行動が本人の妄想による本当に異常な行動であり、動機が「頭の中の声に命じられた」というのは、ミステリとしてはいささか掟破りに思えるが、現実にはありうることなのだろうし、これはこれで証拠を謙虚に受け止めた結果かなと思う。何度もやられるのは勘弁してほしいが、たまにならいいか。
バック対ベル事件については、知らなかったので調べてみた。この出来事は、1994年に “Against Her Will: The Carrie Buck Story” というタイトルでTVドラマになった。この当時の判断は、現在では無論否定されているものだが、キャリー他おおぜいの人々を苦しめた判事の無情な言葉が、80年経ってもなおルーク・サットンを苦しめ、追い詰めたのかと思うとやりきれない。
1924~27年に、精神疾患/遅滞者の強制断種の合法性をめぐって、ヴァージニア州癲癇および精神薄弱者収容施設に収容されていたキャリー・バックと、所長ジェイムズ・ベルの間で争われた事件。
1924年にヴァージニア州は、遺伝的な精神異常者/痴愚者の強制的な断種を合法化する法律を制定した。その法律に基づいて、上記の収容施設は17歳の少女キャリー・バックの断種(卵管切除)を決定した。キャリーは異議を申し立てて裁判になったが、州の最高裁はキャリーの断種を合法と認めた。キャリーの弁護士は連邦の裁判所にも上訴したが、最高裁はやはり断種を支持した。キャリーとその母親エマ、キャリーの娘ヴィヴィアンは三代にわたる痴愚者(現代の分類では学習障害または精神遅滞障害に該当するが、当時はこのように呼ばれていた)であり、断種することが社会の利益であると判断された。
最高裁判事のオリヴァー・ウェンデル・ホームズは、「明らかに欠陥のある人間が子孫を増やすことを防ぐ」ことは社会全体の利益であり「強制的な予防接種を正当とする原則」を卵管切除にも適用できるとした。同判事はその意見を、「痴愚者は三世代で十分である」という言葉で締めくくった。9人の判事のうち、ただ1人断種に反対票を投じたバトラー判事は、少数意見を書くことを辞退。
キャリーは同じ施設に収容されていた母親エマが生んだ非嫡出子であり、里子に出された家で妊娠した後に施設に収容された。後に明らかになったことだが、キャリーの妊娠は、里親の親戚にレイプされた結果であり、里親は体面を保つためにキャリーを「道徳的痴愚」として施設に送り込んだのだった。キャリーは精神年齢9歳と診断されているが、その根拠はかなりいい加減なものだ。晩年のキャリーに面会したポール・ロンバード博士は「彼女は新聞を毎日読み、クロスワードパズルを楽しんでおり、精神的な疾患や遅滞は見られない」と述べている。「三代目」のヴィヴィアンにいたっては生後7ヶ月で「どこか正常でない感じがある」という曖昧な証言だけで痴愚者とされた。ヴィヴィアンはその後、キャリーの里親の養女となり、普通に学校に通い、算数以外は平均かそれ以上の成績をおさめたが、わずか8歳で病死している。
この判決より以前、断種法を持つ州は多かったが、カリフォルニア州以外ではほとんど有名無実であることが多く、医師たちも強制的な断種には消極的であった。この判決以降、断種法のある州ではその実践、ない州では制定に向かうようになり、その傾向は十年以上続いた。だが1942年のスキナー対オクラホマ州事件で断種措置を妨げる決定が下され、60年代には断種法が適用されることはほとんどなくなった。ヴァージニア州で断種法が正式に廃止されたのは1974年のことであった。
参考文献:
— Yoko (yoko221b) 2005-12-23