ジェフ・リンジーの小説デクスター・シリーズ第4弾。デクスターとリタは、パリでの新婚旅行を終えてマイアミへ戻って来る。そこへ、遺体をグロテスクに飾り付けてディスプレイするという猟奇事件が発生。デボラはコールトン刑事とパートナーを組んで事件を担当する。デクスターの正体を知る彼女は、「殺人鬼の妹」と「警官」という二つの立場の間で悩んでいた。
前作 “Dexter in the Dark” でオカルト路線に転向した本シリーズだが、4作目でまた現実に戻って来たような気がする。戻って来ただけでなく、警察小説 (Police Procedural) 風味が強くなったのではないかな。デボラとデクスターが聞き込みに出掛けたりしているし……でも血痕分析というデクスターの専門技能は、相変わらず役に立っていない。
本作ではまずプロローグ的にデクスターの新婚旅行の場面から始まる。行き先はパリで、小説版のリタは美術鑑賞が好きらしい。現代美術の展覧会に出かけるが、そこで見たのは “Jeniffer's Leg” というパフォーマンス。実際に片足を切断する所を撮影して、切り落とした足の骨を飾るという「アート表現」がショッキング。
マイアミに戻って来たデクスターを例によって猟奇事件が出迎える。今回は遺体をグログロしく飾り付け、バカンスをテーマにしたグロアート作品のように観光スポットにディスプレイするという事件。同じ遺体のビデオが観光局に送りつけられたことがわかり、デボラは聞き込みにでかけるが、新しくパートナーになったコールトン刑事を置き去りにしてデクスターを連れて行く。小説版のデボラは、第1作のラストでデクスターの正体を知り、その後ずっと兄を野放しにしているわけなのだが、どうもそれが精神的に限界にきているようだ。
さて、観光局で「あやしい人リスト」を受け取ったデボラは1人ずつ調べていくが、最後に訪ねたブランドン・ワイスという男の家で、応対した男がいきなりデボラを刺すという事件が発生。車で待機していたデクスターは驚いて駆けつけ、家の中にいた男性を取り押さえ、緊急逮捕。
デボラの怪我はかなりひどく、恋人のカイルは心配して何日も病院に泊り込む。
逮捕された男(これはワイスではなく別人だった)はその後保釈される。デクスターはデボラの復讐を決意し、男を尾行して自宅で殺害。法で裁かれない殺人鬼のみを相手にし、入念に計画を立てるデクスターには珍しい衝動的な犯行だ。これは何かあるぞ~と思っていたら、案の定。
デクスターの元に、YouTubeのリンクを記したEメールが送られてくる。それを開いてみると、何と! デクスターの犯行の一部始終が録画されているではないか!(文中にはアドレスも記載されていたが、正しいフォーマットではないので実際には開けない。残念)顔は映っておらず、肝心な部分はボカされているようだが、それは紛れもなくデクスター。グロアート事件は単独犯ではなく、2人組の犯行だったのだ。で、ビデオを送りつけるために設置したカメラがそのままになっていたらしい……。これはまったく、デクスターにあるまじき大失態だろう。だから、事前にちゃんと準備をしろとハリーが言ってたじゃないか! しかもどうやら、遺体デコレーションの主犯もデボラを刺したのもビデオを送ってきた男の方で、デクスターは殺さなくても良い共犯者を殺してしまったらしい。ああもう、何ということを。
実は、最初にディスプレイされていた遺体は、そのために殺されたのではなくモルグから盗まれた遺体だった。なぜかというと共犯者が「殺人は良くない」と止めていたから。その共犯者をデクスターが殺してしまったものだから、主犯ワイスの行動はもう止まらない。彼はデクスターに狙いを定め、コーディが所属するボーイスカウトのリーダーを殺し、デクスターを爆殺しようとし(て失敗)、コーディとアスターを誘拐しようとする(これも失敗)。そうこうするうちに、見かけより優秀だったコールトン刑事もデクスターを怪しみ始める。車椅子で復帰したドークスも動き始める。
しかし、もうワイスを警察の手に渡すわけにはいかない。デクスターはワイスの動向に関する情報をつかみ、唯一協力を頼めそうなカイルに相談をもちかける。もちろん「実はワイスの共犯者を殺しちゃったので…」なんて言うわけにはいかないので、デボラを刺した奴なんだぜ、ほっとけないだろう、みたいなことを言ってごまかすが、言い訳としてはかなり苦しい。なのでカイルも最初「警察に任せれば?」みたいなことを言うのだが、ワイスが行く予定の場所が米国内ではなくキューバのハバナであることを知り、またデボラの意見も聞いてデクスターへの協力を了承する。デボラは今回の件で警察を辞めようかとも思ったようだが、逆にデクスターの生き方を受け入れることにしたらしく「パパは正しかったと思う」と、復讐を了承する。ここでハリーの回想シーンが入るが、ハリーはデクスターを殺人鬼にしたことを、必ずしも正しいと思っていなかったようでもあった。
さて、いったん心を決めたカイルはもう殺る気まんまんで、かえってデクスターの方がたじたじとなるぐらい。彼は元CIAだったかな? 国交のないキューバへ入国するために偽のパスポートを用意し(ワイスはカナダ人なので入国できる)、現地では銃を調達してワイスを待ち受けるが、ワイスは彼らに気づいて逃げてしまう。結局2人はそのまま米国に戻って独自に捜査を続けることになった。ハバナ滞在が短かったのが少々残念だ。
終盤でワイスはリタを誘拐し、生身の人間を使ったアートの素材として展示し(冒頭の Jeniffer's Leg がここにつながってくるわけだ)、ノコギリでバラバラにしようと画策するが、そこへデクスター、コーディ、アスターの3人が駆けつけてリタを救出。先に行ったコールトン刑事は逆にワイスに捕まり、殺害されていた。混乱の中でワイスはコーディとアスターを殺そうとするが、それを阻止して逆に彼をノコギリの餌食にした――のは、リタだった。
こうしてワイスもコールトンも死に、デクスターの秘密は守られた。そして最後にリタが何かを打ち明け、デクスターが驚愕するところでクリフハンガー的に終わる。これはおそらく、リタが妊娠したということだと思う。小説のデクスターがどんなパパになるのか、デボラとカイルはどうなるのか、そしてまだ彼を監視しているドークス巡査部長の動向が気になるところだ。
— Yoko (yoko221b) 2012-04-29