Dexter - Season 1, Episode 12
殺人課のデボラ・モーガンが行方不明になった、しかもどうやらアイストラック・キラーに拉致されたらしいとわかり、マイアミメトロ警察は総出でデボラの行方を追う。
デクスターは、アイストラック・キラーがデボラを連れ去った場所の手がかりを求めて自分の部屋を探し回り、“Born Free” というメッセージを発見する。デクスターは、それを「現在の自分」が誕生した場所、すなわち母親が殺された犯罪現場と解釈する。その場所を探しているとラグェルタとドークスが現れ、デボラはどうしたかと聞く。2人はマスオカの話を聞いて病院のエンジェルを訪れ、ルディの件を聞いていたのだ。
その後、デクスターは自分の母親が殺害されたコンテナを割り出して出かけて行くが、そこにはただ普通のコンテナがあるだけだった。がっかりする暇もなく尾行してきたドークスと争いになってしまう。ドークスは、デボラの失踪に関してデクスターが何かを知っているという確信を持っていた。
一方、降格されたラグェルタの後任パスカル警部補の指揮の下、マイアミ警察はデボラの捜索とルディのオフィスおよび自宅を家宅捜索する。ドークスとデクスターも一時休戦して捜査に合流。
ルディの自宅には “Born Free” のレコードと “Home Sweet Home” の服を着たバービー人形があった。デクスターは、それが自分の生家を意味していると判断し、ローラ・モーサーの住所を調べて出かけて行く。そこで自分を出迎えたルディの姿を見て、デクスターは「バイニー」とつぶやく。3歳の頃、デクスターは「ブライアン」の発音ができず、いつも彼をそう呼んでいたのだ――ルディの正体はブライアン・モーサー、デクスターの実の兄であった。ブライアンはデクスターとともに、母親がチェーンソーで惨殺される場面を目撃した。そしてハリーに助け出されるまで2日間、血の海の中に座り込んでいたという。
弟のデクスターは当時3歳。まだ物心がつくかどうか、事件を忘れて普通に成長していくことがぎりぎり可能な年齢だった。だが兄のブライアンは、トラウマを負ったため普通の生活を営むことができず、成人するまでずっと病院に収容されていた。そして「回復した」との判断で社会に出た時――彼は殺人鬼になっていた。そして幼い頃に生き別れた弟が同じようにシリアルキラーになっていたことを知り、一連の「アイストラック・キラー」事件を計画したのだった。指を1本ずつ違う色のマニキュアで塗るのは、母ローラがそうしていたからだった。
ブライアンはデクスターをガレージへ導く。そこには薬で眠らされたデボラが、デクスターのいつもの「処刑スタイル」で、台の上にラップで拘束されていた。「ニセモノの妹を殺し、ハリーの掟を葬り、実の兄弟として本当の人生を始めよう」と言うブライアン。だがデクスターは拒否する。しびれを切らし、ブライアンは自らナイフを振り下ろそうとするが、デクスターに止められる。その瞬間デボラが目を覚まし、さらに警官たちが突入して来る。ブライアンの指紋は犯歴者として登録されていなかったが、病院の記録には残っていた。エンジェルの発想で彼らはブライアン・モーサーの身元を割り出していたのだった。
ブライアンは秘密の脱出口から逃走し、デボラは無事に保護される。デクスターは「ルディに呼び出され、1人で来なければデボラを殺すと脅された」と嘘をつく。ドークスはまだ疑っている様子だが、デボラは「兄さんが助けてくれた」と感激する。だがデクスターは「ありのままの自分を受け入れてくれた実兄を拒絶し、真実を知ればきっと自分を拒否するであろう義妹と自分を裏切った義父を選んだ。自分は裏切り者だ」と複雑な思いを抱えていた。
その夜、ルディ=ブライアンはデクスターの家に忍び込む。そしてベッドで寝ているデボラにナイフを突き刺した――つもりだったが、それは彼自身が製作した人体パーツだった。驚くブライアンの背後からデクスターがワイヤーで襲う。
デクスターはブライアンを彼の自宅に運び、処刑スタイルで台に拘束して泣きながら喉をかき切った。ブライアンの死は、退路を立たれたアイストラック・キラーが自分で自分の喉を切って自殺したものと判断された。
かくして一連のアイストラック・キラー事件は解決し、デボラは無事、デクスターの生活には平穏が戻った。だが、ドークスは相変わらずデクスターを不審に思ってストーキングを続けている。また、刑務所に逆戻りしたポールも「デクスターが自分をハメたのだ」と主張、リタはその主張を一部裏付ける証拠を見つけてしまう。
充実のフィナーレ! あー満足満足。面白かった。ラスト3話くらいの、たたみかけるようなスピード感が(でも駆け足な感じはしない)たまりません。ドークスやポールの件が次シーズンにつながりそうではあるけど、アイストラック・キラーのエピソードとしてはきっちりカタがついて、良い終わり方だなと思った。
ストーリーの語り方も良い。たとえばデクスターがカーゴコンテナを割り出して探しに行く場面。「あの場所」を目前にするデクスター、幼い彼を助け出すハリーの幻、現在と過去が交錯して時間の流れが少しいびつになるような演出でどんどん感情が高まっていくのだが、次の場面でバナナの山が現れて一気に力が抜ける。その後も、ルディの自宅捜索で、おどろおどろしい舞台装置を映すねっとりとした映像と、その緊張を破るマスオカさん。そして3度目の正直でモーサー家に到着したデクスターを出迎えるルディ。この緊張と弛緩のタイミングが実に心地よい。
2話以降、大胆に原作を離れて独自の世界を作ってきたシリーズだが、最終回でまた原作に戻って来た。原作どおりでない部分がいろいろあるが、これまでに構築してきた世界のあれこれを考えると、いずれも納得のいく改変だったと思う。
1話でデクスターの冷凍庫に入れられたバービー人形、兄から弟への「遊ぼう」というメッセージ、それがこんな結末を迎えてしまうなんて。ブライアンのたどってきた人生を思うと、連続殺人犯とはいえ、あまりに気の毒すぎるような気もする。
謎かけ遊びのような、兄からのメッセージの最後は “Born Free” だった。映画「野生のエルザ」のテーマ曲。野生が命ずるままに獲物を狩ってきたライオンと、ハリーの掟を守り決められたエサだけを獲ってきたライオンの再会。それが、それがこんな結末を迎えてしまうなんて……避けられないことではあったけれど、あの場面のデクスターは涙なしでは見られなかった。
ところで2人の母親はドラッグディーラーだったのか。ブライアンの被害者が売春婦ばかりなので、てっきりママもそうなのかと思っていた。実父との関係とかまだよくわからない部分もあるのだが、これも次シーズン持ち越しだろうか……もう関係者が生き残ってないから無理かな。
さて、そんなわけで未解決のあれこれを残しつつも、アイストラック・キラーの一連の事件は解決し、最後はデクスターの変な妄想場面で終わっていた。
この “Go Go Dexter!” な妄想シーン、すごいなぁ。あの喧騒がぶちっと途切れて現実に戻って終わるのかと思ったら、そのまま最後まで行ってしまった。SHOWTIMEのサイトにあるプロモーション映像(Videoセクション)はリアルでそんな感じだったけど1)。でも私としては「英雄デクスター」に目覚めるより、「殺人鬼デクスター」のままでいてほしいなという気がする。
デクスターがやっていることは、動機が何であれ結果がどうであれ、凶悪犯罪には違いないのだ。デクスター、あなたは英雄ではなく犯罪者だということを忘れてはいけない。犯罪者である以上、賞賛を求めてはいけない。あなたは人間の darkest dreams の中に生きるべきである。私はそう思う。
— Yoko (yoko221b) 2007-11-07