Homicide - Season 3, Episode 21
People can't trust the police and we can't trust each other. So who's left to rely on?
高層住宅(テラス)から黒人の若者が転落死し、ルイスとケラマンが現場へ向かう。住人たちは日ごろから警察への不満を抱えており、大騒ぎになるが、そこへムスリム指導者が現れて場を収める。彼らはテラスの治安維持のため、市と契約を結んでいたのだ。実際、テラスでの殺人事件は数ヶ月ぶりのことだった。
死亡したのは、麻薬の売人をしているアントワン・ジャイルズ。ルイスとケラマンは母親に話を聞こうとするが、ムスリムのガードが固く、母親は警察には口をきこうとしない。事件の前の夜にムスリムの男がアントワンと口論していたという情報が麻薬課から入り、ルイスらは彼らの指導者イシュマエル・アルハージを連行する。
バーンファーザーは政治的な理由からジャデーロに「ルイスとケラマンを事件から外し、ムスリムを釈放しろ」と命じる。ジャデーロは一連の経緯をマスコミにリークし、新聞には「殺人事件の捜査に政治的圧力で横ヤリ」という記事が載る。バーンファーザーはルイスとケラマンを事件の担当に戻し、イシュマエルは警察への全面協力を了承する。ただし彼自身のアリバイは仲間たちにより裏付けられる。
イシュマエルはあくまでも犯行を否定。ジャデーロは「お前でないにしても、犯人が誰か知っているだろう」と食い下がり、イシュマエルはようやく犯人の名を言うが、踏み込んでみるとそこはもぬけの殻。ムスリムの契約は結局更新されず、彼らはテラスを退去して出て行く。
ラッサート、マンチ担当。14歳と18歳の少年が銃で撃たれて死亡する。パトロール警官のガーティは「お互いに銃で撃ち合って2人とも死んだ」と言い、マンチはそれで事件解決にしようとするが、主任担当のラッサートは「まだ結論づけるのは時期尚早」と納得せず、通報した近隣住人や家族に話を聞く。
ラッサートは通報の録音を聞き、最初の通報からガーティが現場へ行くまで30分以上かかっていることを不審に思う。ガーティは現場で銃声を聞き、銃撃戦が治まるまで車の中で何もせず待っていたのだ。彼は54歳で、あと6ヶ月で内勤に異動できることになっていた。白人警官の自分が黒人の少年を射殺すると大騒ぎになるので、その危険は冒せなかったのだ。ラッサートは、ガーティの行動を本人もマンチも悪いと思っていないことに苛立つ。
検死の結果、ダナムはほとんど即死だが、ハーモスは10~20分ぐらいで失血死したことがわかる。ガーティが対処していれば、助かったかもしれなかった。ラッサートは内務調査に報告を出す。
査問会が開かれ、マンチとラッサートは現場の状況を述べる。ガーティは「動転しており、応援を呼んだかどうか記憶にない」と証言。ガーティが応援を呼んだ記録は確かになかったが、同時に2人の警官が同じ周波数で交信し、片方がブロックされてしまうこともあり得る。
終わった後、ガーティは応援を呼ばなかったことをラッサートだけに打ち明ける。応援が来れば、突入しないわけにはいかないからだ。結局、委員会はガーティの行動を問題なしと判断する。
前回はルイスの結婚がメインで事件は二の次、という感じだったが(ジャデーロにとっては重大な事件)、今回はシリアスな事件が2件という、いかにもプロセジュラルなエピソード。だが事件を通じて見えてくるパートナーのあり方、仲間同士の loyalty の問題が興味深い。
「テラス」と呼ばれる高層住宅は、The Wire シーズン1の舞台にもなっていた。麻薬の売人が根城にしている治安の悪い場所だったのが、ムスリム(イスラム教徒)の自警団組織が入ってから、このジャイルズの件まで殺人が1件も起きていなかったとのこと。これが、市と契約して治安を任されているというのだから驚きだ。ただし、やはり賛否両論があったようで、近々住宅都市開発省 (Department of Housing and Urban Development) の監査が入ることになっていたらしい。なので上部から横槍が入ったりして、このへんの話は政治的でちょっとややこしい。
さて、アメリカのムスリムについては少々記憶があやふやなので、『現代の国際政治』でちょっとおさらい。もともとは1960年代に、白人支配社会に対する激しい抗議のメッセージとして広まったものであると理解している。なぜ(他の宗教ではなく)イスラムであるかというと、奴隷として連れて来られる前の彼らの先祖はアフリカのイスラム教徒であったから。イスラム教徒になることは「改宗」ではなく先祖への回帰であり、白人に奪われたアイデンティティを取り戻すことでもあった。
で、こういった過激でメッセージ性の強い団体にはありがちなことだが、やがて内部での分裂・対立が起きる。中東で「本場」の教義に触れたグループが、より穏健な主張を目指して離れていく一方、それに対抗するようにルイス・ファラカンというカリスマ指導者が、残った攻撃的なグループを率いていく。今回テラスを仕切っていたのは、こちらのグループの方だろう(たしかファラカンの名前が台詞で言及されていたと思う)。
彼らが来て確かに治安は良くなったのだろうが、一種の恐怖政治のようだ。ケラマンはその点を批判するが、ルイスは「少なくとも人は死んでいない」と、一定の理解を示している様子(しかし事件が場所を移しただけではないかという話も……)。
さて、ジャデーロのメディア工作で何とか協力を取り付けられそうになったものの、上記のようなグループなので、白人のケラマンに対して露骨に敵意を見せ、ルイスとジャデーロには話しても良いがケラマンには話さないと言いだす。ここでケラマンが出て行こうとするがそれを止めるのがルイス! この2人のパートナーシップはまだ少しケラマンの片思い的な(爆)面はあるものの、良いコンビになってきたじゃないかと思う。
一方、ラッサートとマンチは別の高層住宅で起きた銃撃事件を担当(こちらはムスリムの管轄ではなかったのか)。通報を受けてガーティ巡査(The Wire の判事だ)が現場へ向かうが、銃声を聞いてパトカーの中に退避。応援を呼ぶのかと思ったら何もせず、車の中でじっとしている。
で、事態が治まってからようやく連絡を入れてマンチとラッサート登場。「2人の若者がお互いに撃ち合って2人とも死んでしまった」という事件なので、それ以上捜査のしようもなく、マンチはさっさと解決済みにしようとするが、主任担当のラッサートは納得がいかず捜査を続け、ガーティがすぐ現場に向かわなかったことを突き止める。
ガーティの取った行動は、警官としては許されないものだが、危険を考えれば無理からぬ判断のようにも思える。「秘密」の女医さんではないが、今ここで助けたところですぐにまた誰かと戦って同じことを繰り返すのではないか。ラッサートも最後には、一方的にガーティを責められない気持ちになった様子。そもそもあのお年の警官を1人でパトカーに乗せるのが間違いだとも言える。
ここでラッサートが相談する相手がハワード。巡査部長だから当然といえばそうなのだが、やはりこの2人には、警察という男社会の中でのマージナルな存在として、Blue Wall の内部に入りきれない潔癖さがあるような気がする。このあたりの皮膚感覚は例えば、前シーズンのプラット事件でマンチが見せたものとは少々異なるのではないか。
マンチといえば今回は、もうすぐボランダーが帰って来る! と浮かれていたが、結局帰って来ないようだ。マンチのバーに来ると言っていたのに、結局姿を見せなかった。今回の様子を見ていると、ガーティの件と思い合わせて、マンチという人は相手が負担に思うくらい愛情深い人なんじゃないかと思った。そしてそれこそが、結婚が長続きしない理由なのではないかと……。