Law & Order - Season 1
- What gives you the right to decide how I should live the rest of my life?
- Unfortunately, you did. Not once, not twice, but three times.
ボビー・ホランドという若者が、自宅で後頭部を銃で撃たれて死亡した。部屋は荒らされ、強盗の仕業かと思われたが、被害者には銃創以外の怪我がなく、現金の入った財布も現場に残されていた。
交友関係を探るうちに、被害者がゲイで、事件の少し前に「ジャック」という新しい恋人ができたことがわかる。グリーヴィは以前に類似の事件があったことを思い出し、サンフランシスコで起きた射殺事件の記事を探し出す。被害者はやはりゲイで同じような手口で殺害され、その次の週にも類似のゲイ射殺事件がLAで発生していた。
被害者3名の交友関係に共通の人物ジョン・カリーが逮捕される。カリーはその3件について、自殺を手伝っただけと主張。被害者はAIDS患者で自殺を望み、カリーは家族に知らせないため、あるいは保険金がおりるようにと他殺に見せかけたのだった。ボビーの父親は「息子は自殺したがっていた、カリーへの処罰は望まない」と言うが、母親は「息子は治療に通い、生きようとしていた」と言う。検察はカリーを第2級謀殺、第1級共同謀議、第1級故殺、過失致死、自殺幇助、第2級無謀危険行為で起訴。
ストーンは「これは慈悲殺を装った謀殺である」という意見であった。ボビーが本当に死を望んでいたか、そうだとしても引き金を引く寸前に気が変わることはなかったのか、カリーがそう誘導したかどうか、それは誰にもわからない。カリーはあくまでも慈悲殺を主張する。ゲイの活動家は検察がカリーを起訴したことを非難し、ストーンは「ゲイをなめるな!」と罵倒され殴られる。
その後カリー自身もAIDS患者であるとわかる。ストーンは裁判が報復劇のように見えることを恐れ、起訴を却下するための材料を探すが、模倣犯が現れたことで公判を継続せざるを得なくなる。弁護側はローガン刑事を証人として要請し、ストーンが起訴を却下する材料を探せと言ったことを証言させる。
判決は、第2級謀殺:無罪、第1級共同謀議:無罪、第1級故殺:無罪、過失致死:無罪、自殺ほう助:無罪、第2級無謀危険行為:有罪。
ゲイのエイズ患者に対する自殺幇助。90年当時の世相を思い出させるエピソードだ。当時は薬害エイズや様々な感染経路の詳細もまだ知られておらず、エイズといえば同性愛者か麻薬常用者の病気、といったイメージが先行していたと記憶している。
このエピソードの元ネタになったのは、ジャック・キヴォーキアンの事件であろうと言われている。元ネタといっても、事件をドラマ化したわけではなく、着想のヒントを得たという程度だと思うが。キヴォーキアンは医師で、自殺装置(自らスイッチを押すことで、苦しまずに死ぬことができる装置)の考案者として知られる。同医師はこの装置を使用して、80年代から90年代にかけて終末期患者の自殺を幇助した。下にリンクした「キヴォーキアンの運命」によると、この装置が最初に使用されたのは90年6月。このエピソードが放映される4ヶ月前である。キヴォーキアンは99年に起訴され、ミシガン州の刑務所に収監されたが、07年6月に刑期を終えて出所したらしい。
だが患者自らがスイッチを押す装置と銃で撃つのは事情が異なる。ストーン検事は「引き金を引く直前に気が変わらなかったとどうしてわかるのか」と言う。また、上掲の「キヴォーキアンの運命」には「いつでも自殺装置を使えるという安心感から、もう少し闘病しようという気持ちを取り戻した」患者の話が紹介されている。ボビー・ホランドは自分で何もできないほど衰弱していたわけではないし、自殺の是非は別としても、ジョン・カリーを殺人罪で起訴すること自体に無理はないように思える。
だがその後、被告人自身が患者であると公表するやら模倣犯が現れるやらで、話がややこしくなっていく。被告人の行為は犯罪か否か、ということだけでなく、被告人に刑罰を科すべきか、社会への影響は、ということまで考えなければならないとは検事も大変だ。で結局、起訴することで潜在的な模倣犯への警告とし、一方でカリー個人に対しては弁護士に密告電話を入れ(たんだよね、あれは。きっと)て、うまく負ける方向へ持って行ったということなのだろうか。
「エイズと闘うゲイの会」事務所にキース・ヘリングのポスターがあった。ストリートアートの先駆者とされるヘリングは、AIDS対策に熱心であったが、自らも患者であり、このエピソードが放映される半年くらい前に亡くなっている。
— Yoko (yoko221b) 2007-01-04, 改訂 2008-03-05