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Law & Order - Season 6, Episode 10

#121 Remand


事件概要

People v. Munoz (再審判事:Harold Rockwell)

放火事件で逮捕された男が取引材料として「30年前に起こった傷害事件の真犯人を知っている」と言い出す。その事件では、クッキー・コステロという若い女性がレイプされたうえに刺されて重傷を負い、サル・ムニョスという男が有罪になり収監されていた。だが男は「真犯人はボビー・ファリナという男で、彼が自分がやったと言っていた」と言う。30年前にその事件を担当した検事はアダム・シフ。被害者のクッキーはムニョスの顔を覚えていなかったが、ムニョスは自供して有罪になっていた。

事件の詳細は、「個人的すぎる」ため新聞等では伏せられていたが、ファリナは事件の詳細を知っていたという。刑事たちがファリナに会って話を聞くと「ニック・タラダシュという弁護士から聞いた話だ」という。タラダシュはムニョスの弁護人だったがすでに死亡し、事務所と書類はテリ・マークスという弁護士が引き継いでいた。タラダシュはファリナを含め地元の不良たちの弁護を勤めていたので、彼が話した可能性は十分に考えられた。

クッキーには賭博の前科があり、事件当時は保釈中。調べてみると、クッキーとファリナはともにエディ・マローズというノミ屋に雇われていた。マローズに話を聞いたところ、ファリナのアリバイが明らかとなった。事件が起きた当日、ファリナはニュージャージーで暴力沙汰を起こしていたのだ。

これでファリナの容疑は晴れるが、タラダシュがクッキーの弁護人でもあったことが利益の相反だとして問題となり、テリ・マークスはムニョスの再審を請求する。

ムニョス側は、タラダシュがクッキーの弁護人でもあったことを何も知らされていなかったと主張。当時の判事は両者の合意を得ていたと証言するが、書面はなく口頭での確認のみ。事件の記録はところどころ散逸し、その会話の記録は残されていなかった。

判事はムニョス側の言い分を認め、再審を許可する。

弁護人はまず、「依頼人は自供する前に権利を通知されていなかった」という理由で自供を証拠から排除するよう申し立てる。ミランダ警告が最高裁で認められたのはこの事件の翌年である1966年。したがって、手続き的には合法であると言えるが、ミランダ警告自体は当時すでに提唱され、現場にも周知され始めていた。判事は弁護側の言い分を認めて自供を排除する。

自供が排除されたため物的証拠が頼りとなるが、凶器のナイフは紛失、指紋や毛髪などの証拠もない。当時の検査では精液の血液型がムニョスと同じAマイナスと判っているだけだった。クッキーの父親は事件当時彼女が着ていたドレスを保管していたので、それを調べる一方で刑事たちは当時の目撃者に話を聞く。事件当時、大勢の住人がクッキーの悲鳴を聞いていたが、皆「誰かが通報するだろう」と考えて通報しなかったのだ。クッキーの素行が良くなかったことから「また彼氏とケンカしているのか」と思った住人もいた。

鑑識はドレスに付着した精液を調べ、DNAがムニョスと一致したことを調べるが、別人である確率は1/200。また、ドレスの下腹部からはクッキーでもムニョスでもない第三者のDNAが検出される。クッキーは当時妊娠しており、父親はボビー・ファリナだった。医者はそのことに気づいたが警察には言わず、他に知っているのはクッキーの父親だけだった。ドレスを提出すれば妊娠のことは知れるが、父親が誰かは別問題。クッキー本人が証言することになれば別だが、証言しなければ父親のことを持ち出す必要はない。検察側は父親の件を伏せておくことにする。

公判が始まり、ドレスを調べた鑑識員、当時の目撃者、担当刑事が証言するが、ドレスは警察に保管されていた物ではなく、結果の精度も高くない。当時行われた面通しでも、プエルトリコ出身の被告人の他は全員白人だった。マークスはその弱点を的確に突いて来るため、検察側はクッキーを証人とせざるを得なくなる。

クッキーは証言台に立ち、ボビー・ファリナの子を妊娠したことや賭博の前歴があることなどを証言する。マークスはファリナが当時既婚で暴力的だったことなどを指摘し「クッキーが妊娠をネタにファリナを脅したためファリナがクッキーを襲い、警察は無実のプエルトリコ人を犯人に仕立て上げ、クッキーはファリナの復讐を恐れて口を閉ざした」という図式を導いていく。

古いファイルを調べ直したシフは、ムニョスの恋人が証言する予定だったことを思い出す。30年前は「精神疾患を理由とした無罪」答弁であり、彼女はそれを裏付ける証言をする予定だったが、その直前に姿を消していた。マッコイが探し出して事情を聞いたところ、彼女は「ムニョスは病気ではなくただ残酷なだけだったが、病気だと偽証するよう強要されたので逃げた」と言う。彼女はムニョスに暴力を振るわれており、一度警察に通報しようとするとムニョスは包丁を持ち出して「もう一度やったら腹を切り裂いて子どもを産めない体にしてやる」と脅していた。それはまさにクッキーに行った暴行と同じだったため、マッコイは「犯行パターンが共通する」と主張するが、弁護側は「被害者像も凶器も異なっておりパターンとはいえず、無関係で偏見をもたらす」と反論。判事は弁護側の言い分を認めて証人を不許可とする。

陪審員は無罪の評決を下す。


感想

前回はヘイトクライム、今回はコールドケース。同年に放送された「ホミサイド」と微妙にネタのかぶったエピソードが続くが、テイストが異なるのであまり気にならない。

今回の事件は、キティ・ジェノヴィーズ事件をヒントにした部分はあるものの、「近隣住民は被害者の悲鳴を聞いたが『誰かが通報するだろう』と思って何もしなかった」という部分だけなので、まぁ元ネタというほどでもないかな。このエピで重要なのは30年前と現在(といっても1996年だけど)の手続きやそれをめぐる意識の違いというような所だろうと思う。

捜査や起訴の手続には、65年当時の基準で言えば不備はなかったと思うが、90年代ではとうてい認められないようなもの。ミランダ警告はもちろんのこと、目撃者の面通しでは被告人本人だけがヒスパニックで他は全員アイルランド系の警官だったというのだから。確か前シーズンのエピで、面通しで着たジャケットのデザインがちょっと違っていただけで弁護士が大騒ぎしていたことを思うと隔世の感がある。そして、その90年代ではとても認められない手段で得られた自白があったため、物的証拠はしっかり固めていなかったようだ。したがって、自白を排除してしまうと検察側の主張はとたんに根拠に乏しいものになってしまう。

それを考えると、無罪という評決に至った陪審員の判断も理解できるし、正当な手続を踏んで捜査しなければならない、というひとつの「戒め」としての意味はあったのかなと思う。しかし、ではムニョスは冤罪だったか? と考えると、それは違う……不採用にはなったけれどドレスの証拠を見る限りでは、やはりムニョスが犯人だったと思わざるを得ない。確かに30年経過して劣化しているし、厳重に保管されていたものでもないけれど、でも現実的に考えて、誰かが手を加えてムニョスを陥れるなんて不可能だろう。少なくともレイプに関してはムニョスが犯人と考えて良いと思う。さらに、ムニョスがレイプした後にたまたま誰かが通りかかってそいつが刺した、なんてこともちょっと考えられない。なので、やはりムニョスしかありえない(少なくとも共犯)だろうなぁ。

Yoko (yoko221b) 2011-11-08