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Law & Order - Season 6, Episode 14

#125 Custody


事件概要

People v. Jenny Mays (判事:Lisa Pongracic)

児童福祉を担当するソーシャルワーカーのローレンス・ベロが殺害される。死因は階段の角で頭を打ったことと思われたが、誰かと争った形跡があった。福祉局の記録を調べると、ベロは事件当日にコービン夫妻という養親の記録をダウンロードしていたことがわかる。だがその書類はベロのデスクにも所持品の中にも入っていなかった。

ブリスコーとカーティスがアラン・コービンの自宅を訪ねると、そこには既に他の刑事がいた。コービン夫妻の養子アレックスが誘拐されたのだ。アレックスは母親が少し目を離した隙にさらわれ、その1時間後に「子どもを預かった」という電話がかかっていた。だが身代金の金額など具体的なことは何も言わなかったという。カーティスは、アレックスの実の親が子どもを取り返そうとしたのではないかと思いつく。

アレックスの実母はジェニー・メイズといい、麻薬常習者だったため養育権を剥奪されていた。父親は不明だが現在はマイケル・ウォルターズという恋人がいることがわかり、刑事たちはウォルターズを逮捕。

ウォルターズはジェニーから頼まれてベロと接触し、争いになったが事故だったと主張し、ジェニーの居場所と引き換えに第2級故殺での最短刑を要求する。ジェニーはマサチューセッツへ向かうバスの中でアレックスとともに発見され逮捕される。アレックスを手放した当時、ジェニーは麻薬を常用し、とても育児のできる状態ではなかったが、現在は麻薬を断って仕事も得て真面目に暮らしている。

ジェニーは重罪謀殺 (felony murder) で起訴され、元検事のポール・ロビネットが弁護に就く。ロビネットは、ジェニーはベロの件には無関係であり、また誘拐ではなく我が子に会いたい一心で思わず連れ去っただけだとして養育権の侵害 (custodial interference) と執行猶予を主張する。

ジェニーが誘拐を「事前に計画していた」ことを証明するため、キンケイドはジェニーの職場を訪ね、彼女が給料をスプリングフィールド(マサチューセッツ州)に送金させていたことを知る。スプリングフィールドには彼女の実家があるが両親はすでに死亡。これは街を離れる準備であると思われたが、それでもまだ状況証拠に過ぎない。

そこで、その事実をウォルターズに突きつけると、彼はジェニーが自分のもとを去るつもりだったと知って驚き、ベロがコービン夫妻の住所と引き換えに金を要求したことを話す。ジェニーは苦労して金をかきあつめたが、その後で値段を吊り上げられたため怒り、ベロを脅してでも聞き出そうとしたのだ。

ロビネットは、ベロ殺害の時点ではジェニーは誘拐を考えていなかったので、重罪謀殺ではなく別々の事件だと主張。それに対し、マッコイは「脅してでも居所を知るというのは、ただ顔を見たいだけの態度とは言えず、また街を出ることも計画していた」と反論。判事はマッコイの言い分を認めようとするが、そこでロビネットは「オフレコ」としてメトカーフ判事に事件の担当を外れるよう要求。判事は3年前に「麻薬常習者は全員集めて断種すべきだ」と発言したことがあり、被告人に対して偏見を持っているというのがその理由だった。メトカーフは自ら担当を降り、代わって社会福祉に積極的なポンラシック判事が着任する。

公判が始まり、ロビネットはジェニーではなくNY州こそが誘拐犯であると主張する。州の権力は黒人のジェニーから息子を奪い、白人であるコービン夫妻の養子にすることでアフリカ系の文化を剥奪して白人化しようとしているというのだ。白人家庭に育った黒人の子は、自分に誇りを持つことができず、犯罪や自殺傾向を見せるという。養子縁組は同じ人種間が優先されるが、常にそうなるとは限らない。ジェニーは妊娠中から麻薬を常用していたため子どもの健康状態がひじょうに悪く、一刻も早く養父母を見つける必要があったので、人種の違いは二の次になっていた。養父母になるには厳しい資格審査があり、合格するのは白人家庭の方が多いため、形式上は黒人の夫婦が白人の養子を取ることもできるが、その実例はない。また、コービン夫人が鎮痛剤を常用していたことを持ち出し「ジェニーは薬物依存を理由に子を奪われているのに、この差は何だ」と糾弾する。

マッコイはそれに対し、ジェニーが子どもを手放すことに同意したこと、合法的に親権を取り返す方法があったこと、子どもを連れて街を出る計画をしていたことなどを持ち出して対抗。

陪審員は「殺人で有罪、誘拐は無罪」という評決ができないのであれば、評決は不能という結論に達する。罪状が重罪謀殺である以上、重罪(この場合は誘拐)が無罪であれば殺人も自動的に無罪。マッコイはアレン説示 (Allen Charge) を要求するが、判事はそれを却下し、審理無効を言い渡す。


感想

ソーシャルワーカーが死亡した事件。この事件自体は結局、半分事故みたいなものだとわかるが、捜査や裁判の過程で、アメリカ社会の養子縁組問題や人種問題が取り沙汰される。どちらも日本では馴染みの薄いものなので、共感することは難しいが、その反面いろいろ興味深かった。

まず、里親詐欺の事実が判明。この件は本筋とは関係なかったのであらすじからは省略したが、里子に支給される養育費を目当てに架空の里子をでっちあげ、だまし取った養育費を里親とソーシャルワーカーが山分けしていたという事件だ。ドラマには、養育費を目当てに里子を引き取ってロクに世話をしないというひどい里親が時々登場するが、これだと里子を引き取る必要もないのでラクチン。もちろん審査はちゃんとあるのだが、2人目以降はあまり詳しく調べないらしい。そのシステムの弱点を狙った詐欺というわけだ。

ヴァン・ビューレンとブリスコーの

「バーチャルキッド?」
「バーチャルセックスの後は時間の問題ですよ」

というやり取りには笑った。

さて、しかしこの養育費詐欺は結局事件とは無関係。犯人は養子にされた子の実母とその恋人で、わが子を引き取った養父母についての情報が目的だった。被害者も、養育費詐欺をするような職員なので、養父母の情報を金で売ろうとしたようだが、うっかり欲を出したために争いになって頭を打って死んでしまった。これは犯人の方にも殺意まではなかっただろうし、半分は事故だしもう半分も自業自得だと言えなくもない。

実母はすぐに見つかって逮捕されるが、弁護に就いたのが誰かと思ったら、パイロットからシーズン3までレギュラーキャストだった元検事のポール・ロビネット(リチャード・ブルックス)。

ロビネット検事の降板は本人が望んだことではなく、また人気がなかったわけでもなく、ただ「女性のキャストを入れろ」という局からの圧力に負けてのことだったらしく……女性のキャストを入れないなら打ち切る、とまで言われたらしいので、プロデューサーとしても泣く泣く交代させたのだろう。それもシーズン3の終了後に決まったので、ロビネット検事や同時期降板のクレイゲン警部にはお別れエピもなかった(警部はS5でゲスト出演し、その後スピンオフにレギュラー出演)。

で、ヤメ検弁護士になったロビネットがどんな風に弁護をするのかと思ったら、これがまぁ意地悪!(爆)

まず、判事が3年前に差別発言をしたことを根拠に、担当から外すよう工作する。しかしこの発言が事実だったのかはひじょうに疑わしい――「ベン・ストーンもその場にいて聞いていた」と言うが、当のストーンさんは現在ヨーロッパをご旅行中。ロビネットもそれを知っていたはずなので、何となく「ハッタリ勝ち」な印象がなくもない。

代わって担当になった判事は、「偉大な社会 (Great Society) の永住者」と、少し揶揄するように言われていた。Great Society は、ジョンソン大統領が提唱した社会福祉政策のことなので、弱者寄りで福祉重視の判決を出す判事ということだろう。ロビネットはどうやらこの人選も予め読んでいたらしい。良くも悪くもシステムを知り尽くしている、というわけね。

陪審員の意見は割れ、結局評決不能という結論に達する。ここでマッコイが要求したアレン説示 (Allen Charge) とは、陪審員の意見が割れている時に「もう少し歩み寄ってはどうか」と働きかける説示のこと。具体的にどのような説示かは、以下のWikipediaエントリに全文あり。

この説示は特に少数派の陪審員に対する圧力となり健全な評議を妨げるとして禁じている州も多いが、NY州では可能らしい。重罪謀殺でなく故殺と誘拐で立件していれば結果は変わっただろうか。

現実問題として、人種が異なる養子縁組で引き取られた子どもが辛い思いをするという事例はあるらしい(うまくいっているケースももちろん多数ある)。親と同じ人種の方が心理的なストレスが少ないと言われれば、それはそうかなと思う。WAT で、黒人とアジア人の夫婦が同じ人種の養子をほしがり、ベトナムで生まれた混血の孤児を引き取る話があったのを思い出した。

しかし、では養子を同じ人種だけに限定すれば良いかというと、そういうわけでもないだろう。差別的な制度があるわけではなく、経済的な格差が事実上の人種差別になっているわけだから、人種を限定すればよけいに格差を広げてしまうことにもなりかねない。それに、同じ人種でもエスニックグループや宗教が違う場合は? などと考え始めたらキリがない。

……と、あれこれ考えさせられるエピソードではあるが、だからといってジェニーたちの行動が許されるわけではないと思う。そもそもジェニーが薬物依存でなければ起きなかった問題だし、簡単でないとはいえ合法的に解決できる可能性もあったわけだし。ロビネットさんのような人には、合法的な方向でのサポートを重視して欲しかった。この人は確か、貧しい環境で苦労して検事になったという設定で、以前は黒人の犯罪者に対してむしろ厳しい目を向けていたように思う。ラストの台詞を聞くと、それは自分でも無理をしていたようではあるが、そうは言っても今回のように事件を政治利用する弁護士になってしまったのは、少々がっかりという気持ちを禁じ得ないのだった。

Yoko (yoko221b) 2012-02-21