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Law & Order - Season 7, Episode 23

#157 Terminal


I'm doing criminal justice. I'm not doing politics.

事件概要

People v. Henry Coburn (判事:Lisa Pongracic)

港で発砲事件が起き、3名が負傷、1名が現場で死亡する。さらに1名の遺体が水中から発見される。混乱の中で海に落ち、そのまま溺れたらしい。ユダヤ系団体のカクテルクルーズで、近くには差別的な落書きが残されていた。

当初はヘイトクライムかと思われたが、目撃者の話を総合すると、犯人の動きがテロにしてはおかしい。そこで特定の誰かを狙った犯行を仮定し、死亡したトッド・ウェクスマンを中心に調べ直した結果、銃弾は負傷したスーザン・ベックナーの身体を貫通してウェクスマンに当たっていたことがわかる。

スーザンは旅行代理店勤務で飛行機のチケットを販売している。その日彼女がパーティに参加することを知っていたのは家族や数名の友人に加え、ブルガリア行きのチケットを買った顧客のみ。チャーター機が飛べなくなり、替わりのチケットを至急欲しいということで、日曜日に出勤したのだ。

その顧客、ハンク・コバーンはスーザンからチケットを買い、同時にパーティに50ドルの寄付をしていたが、その小切手は翌日不渡りになっていた。しかし3日後にスーザンが現金化した32000ドルは問題なし。月曜日、コバーンの口座の残高は50ドル未満だったが、その2日後にカナダの旅行会社から入金があったのだ。スーザンが月曜に銀行に行っていれば、小切手を現金化できず、スーザンはチケットをキャンセルしたはず。そうなればコバーンは信用を失い、旅行業界で商売ができなくなっていた可能性がある。それを阻止するためにコバーンが銃撃したというシナリオが浮上する。

さらに、犯行に使われた銃がコバーンの恋人の銃であったことが判明。コバーンは彼女から銃を借り、アリバイの偽証を頼んでいた。恋人はコバーンをかばおうとするが、彼が金持ちではなく資金繰りに困っていたことを知るとたちまち態度を変えて警察に協力し、コバーンは逮捕される。

マッコイは第2級謀殺で起訴しようとするが、そこへ司法長官補佐のヴィクター・パナッティから横槍が入る。知事は「犯罪に対して厳しい」態度を示すために、第1級謀殺で死刑の求刑を望んでいるというのだ。

この事件では2名の死者を出しているが、死刑を求刑するにはその両方に対して殺意がなければならない。結果的に殺意のなかった相手を殺したとはいえ、発砲自体が殺意をもって行われているため、ウェクスマンの方は該当する。しかしもう1人は溺死なので証明は簡単ではない。

ロスはもう一度発砲当時の状況を調べなおすが、コバーンはスーザンを撃った後は、特に人を狙ったわけではなく、逃げるために発砲しただけなので殺意は証明できない。ロスは強盗殺人で死刑を求刑することを思いつく。不良小切手でチケットを購入したことは窃盗罪にあたり、小切手を現金化させないために銃撃したことで強盗罪になる。しかしシフは「その論理には無理がある」として、知事の意向に背いて第2級謀殺を指示する。

知事はシフを事件から外してパナッティを特別検察官として任命。シフはそれに対抗し「知事はニューヨーク郡で犯罪者をどう訴追するかに口を出す権限はない。それは地方検事の権限である」と、訴えを起こす。パナッティはマッコイを担当に指名するが、マッコイがコバーン事件を降りてシフの側についたため、パナッティは後任としてロスを指名して公判に臨む。

コバーンは不良小切手でスーザンに支払った後、前倒しで支払いをして欲しいと顧客に頼み込んでいた。その客は「支払いを早めることはない」と断言していたので、コバーンは「現実的な金策の努力をしなかった」と見なされていたが、旅行先によっては特殊な事情があり、例外的に前払いをすることもあった。弁護人はその点を突き、コバーンが口座への入金を期待できたという証言を引き出す。ロスは陪審員の反応を見て「陪審員は強盗の線を信じていないと思う」と取引を示唆するが、パナッティはそれを退け「次からは私が尋問する」と言い渡す。

コバーンは自ら「小切手が不渡りになったことを思うと不安でどうしようもなかった。殺すつもりはなかった」と証言。パナッティは反対尋問に立ち「スーザンに小切手を支払った後、その日の予定を聞いたのは単なる社交的なおしゃべりだったのか? 金策が失敗した後、恋人が銃を持っていることを突然思い出したのか? 誰か分別のある人間 (reasonable person) でそれを信じる者がいると思うか?」と聞く。すると弁護人は再尋問に立ち、最初の罪状が第2級謀殺だったことを持ち出し「パナッティ氏は、誰か分別のある人間がそれを信じるかと尋ねた。シフ地方検事こそが分別ある人物である」と言い、「強盗殺人で第1級謀殺とするために十分な証拠は認められない」というシフの宣誓供述書を読み上げる。

結局、シフの訴えは退けられるが、コバーンへの評決は、第1級謀殺が無罪、第2級謀殺が有罪であった。


感想

ヘイトクライムかと思ったら、死亡した被害者が偽名を使っていたことがわかり、怨恨の可能性が出てくるが、それも無関係と判明。怨恨の線は結果的に事件とは関係なかったので粗筋では省略したが、偽名で二重生活を営み、奥さんがいるのにお見合いパーティに出ていたのだから、こりゃどう見たって怪しい! そして真相がわかってみれば案外セコい動機による犯罪だった。

狙われたターゲットというのは、死亡した男性の前に立っていた女性の方。なぜ狙われたのか? というと、「銀行に行かせないよう、数日足止めするため」だったというのだから、そんな動機であんな大事件起こすな! と言いたくなってしまう。動機があればいいというわけでもないけど。

そんなこんなで、最初は人種差別主義者による無差別テロかと思われた事件だが、第2級謀殺が相当の事件だとわかる。とはいえ結果的に大惨事になったわけなので、NY州の知事は事態を重く見て「第1級謀殺で死刑を求刑せよ」と圧力をかけてくる。そんな無茶な!

しかしその気になれば何とでも理屈はつけられるもので、ロスは強盗殺人で死刑を求刑するという方法を思いつく。だがこれも、はっきり言ってかなり強引。知事からの横槍を良く思っていなかったシフは、結局「その論理には無理がある」と翻意する(無理もない)。それで知事と対立し、司法長官補佐のパナッティがロスとともに事件を訴追し、シフとマッコイは知事と争うことになってしまった。

この事件には元ネタがあって、エンジェル・ディアス (Angel Diaz) 事件がモデルとのこと。TV.com によると、ディアスはNYの警官を撃った容疑で逮捕されたが、ブロンクスの地方検事ロバート・ジョンソンは死刑を求刑しない方針だったため、パタキ知事がジョンソンを事件からはずして司法長官のヴァッコに訴追させた、という経緯だったらしい。ただし、こちらでは公判前に被告人のディアスが自殺してしまったので、そこで中途半端に終わったようだが。

この、現実のディアス事件については詳細がよくわからない。というのも、Angel Nieves Diaz というよく似た名前の犯罪者が別にいて、2006年にフロリダで死刑に処せられているからなのだ。検索をかけても、フロリダの事件ばかりヒットするので、NYの方がなかなか見つからない。もっと気合を入れてキーワードを選んでみれば見つかるかな。

それはともかく、ドラマの方ではパナッティとロスが事件を担当するが、尋問方法をめぐって対立。その結果、パナッティがロスを退けて尋問を主導するが、結果的にはそのせいで致命的なミスを犯してしまう。いい気味! このパナッティを演じた役者は、懐かしいパイロットエピ、シーズン1の「Everybody's Favorite Bagman(消された運び屋)」で地方検事のウェントワース(つまりアダム・シフの前任者)を演じていた。ウェントワースが転職した設定でも面白いと思うのだが、そういうわけではないらしい。

一方、シフの事件も審理が始まる。検事室のセットからほとんど出ることがないシフが法廷でマッコイと並んで座るという図式が新鮮! シフが法廷の、バーの内側に来るというのはシリーズ初ではないだろうか。法廷に来たことはあるが、今までは傍聴席だけだったはず。

結局、こちらのシフの訴えは退けられてしまうが、ここで提出した宣誓供述書が被告人の命を救う(第1級謀殺が無罪)という結果になった。台詞の中で、シフが3件の死刑事件を扱ったと言われていたが、これはシーズン6の「Savages(残酷な罰)」と「Aftershock(余波)」、今シーズンのエディ・ニューマンの件だろうか。

今回参照された判例は以下の4件だが、詳しく調べている時間がないので名前のみ。People v. Dekle は同名の事件が複数あって判別できず。あとの3件はシフの事件で参照されている。

そして、事件と並行してシフ個人の周辺にも大変な事態が起きる。奥さんが発作を起こして病院に運ばれ、命はとりとめたものの植物状態になってしまったのだ。シフは生命維持装置をはずすことを決意する。被告人の命を救ったシフが妻を見送るというこの結末はもう、涙なしには見られない。被告人を救っておいて妻を殺すのか、ということではなく、ここは脚本家バルサーの「運命を神の手に委ねた」という言葉をそのまま受け止めようと思う。時間にしてほんのわずか、台詞もほとんどない場面なのに、この印象の深さ、存在感の強さはすごい。

そんなこんなでシーズン7ももうおしまい。久しぶりにキャストのお別れ会がないフィナーレになったが、やはりこの方が事件に集中できて良いと思う。考えてみればシーズン7と8でようやく、L&O始まって以来初めて「2年間まるまるキャストの入れ替えなし」が実現したわけだ。マッコイ・ブリスコー・カーティスの男子トリオも馴染んできたし、アニタとジェイミーの安定感もあって、シリーズとしての貫禄と円熟味が感じられたシーズンだったと。マンネリとかソープ化とか中盤ではいろいろ文句も言ったが、シリーズが長期化する時期にそういう問題はつきものなのだろう。ダレ場は大抵のドラマにあることだが、それを乗り越えて品質を保つ、ということはそうそうできることではない。

Yoko (yoko221b) 2012-08-21