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The Killing Jar
小説版CSI第13弾、今回の著者はベガス初登場(マイアミで何作か執筆している)ドン・コルテス。キャサリンとグレッグは、全身ロウまみれで死亡していたハワイ出身男性の事件を担当。被害者は砂漠で行われる「バーニング・マン」という祭典に関わっているらしいとわかる。グリッソム、ニック、ライリー、ブラス警部は、虫を凶器とする奇妙な事件を担当。ラスベガスでは昆虫学会が開催中であり、容疑者には事欠かない状況。やがてこの事件は、さらに奇妙な連続殺人事件へと発展する。
書誌情報
The Killing Jar
内容・感想
グリッソムとライリーが同時にいるので、時期的にはシーズン9の前半あたり。作者のドン・コルテスはマイアミの小説を何作か執筆しており、ベガス版では今回が初登場になる。で、マイアミの時にも思ったことだが、この方の小説はとにかく情報過多だ。だから読むのが大変で、事件について行くだけで精一杯。
キャサリンとグレッグは、全身ロウまみれで死亡していたハワイ出身男性の事件を担当する。被害者は最近、ギャンブルでものすごい大穴を当てて、パーティとドラッグ三昧の日々。だが捜査を進めていくうちに「バーニング・マン (Burning Man)」という、砂漠のど真ん中で行われる大掛かりな祭典に関わっているらしいとわかる。
こちらの事件では、ドラッグ(メタンフェタミン)関連の話や、バーニング・マンという祭典の描写にかなりのページ数が費やされている(こういうカウンターカルチャー系の薀蓄をかたむけるのは、やはりグレッグなんだよね)。結局ドラッグの方はレッドヘリングで、燃焼祭りも関係あるといえばあるのだが、直接関係のない参加者の描写が「これでもかっ」というくらいに登場して、なかなか頭が整理できなかった。だから逆に、本来「本筋」だったはずの、ハワイの火山の女神ペレの話が、少し印象が弱かったかも。火山の石を島の外に持ち出した者は女神の怒りに触れる、という伝説が被害者の命を奪ったという偶然の巡り会わせが、いまひとつピンと来る前に話が終わってしまった感がある。
「バーニング・マン」は実在する祭典で、毎年砂漠のど真ん中で開催されている。「あらゆるアートの祭典」であり、祭りの終わりとともに、祭りの象徴である巨大な人形 (The Man) を燃やすことからこう呼ばれているとのこと。
さて、グリッソム班の事件はもっと複雑!
グリッソムはラスベガスで開催中の昆虫学会に出席中のところを事件現場に呼び出される。モーテルの一室で少年が頭に袋をかぶって死亡しているところを発見された事件で、ニックとライリーとブラス警部が担当していたが、袋の中に毒ガスを発するヤスデ (millepede) が入れられていたため、急遽グリッソムも参加。
で、それがいつの間にか連続殺人事件に発展。次は道端で射殺された男性の遺体に毒蜘蛛が仕込まれており、解剖中のロビンス先生が襲われてしまう。デイヴィッドに呼ばれて駆けつけた主任が見事に蜘蛛を捕獲し、先生の搬送先の病院にも的確な処置方法を伝える。さすがです主任!
虫や蜘蛛を使った犯行で、ラスベガスではちょうど昆虫学会の開催中。つまり全世界から容疑者が集まっているわけで、主任のお友達の皆さんも取調べを受けるものの全員クリア。そして徐々に、犯人の「真の狙い」が明らかになる――そしてそれはグリッソム自身への挑戦でもあった。え、本当に?
最初の事件では、被害者の少年がスポーツの花形選手だったため、ライバル校との間で乱闘騒ぎが起きる。実は犯人の狙いはそこだった――つまり、殺人が直接の目的ではなく、その殺人によって二次的に起きる暴動や混乱が目的だった、というのだ。ちょっとそれ飛躍してませんか主任! と思わないでもないが、これが昆虫の生態と重ね合わせると自然に納得のいく結論らしく、主任は自信満々。第2の殺人の被害者は、有名歌手のアシスタント。その歌手はすでに何度か脅迫を受けており、事件をきっかけに滞在ホテルを移ると言い出す。主任はそれを聞いて「犯人の狙いはそれだ」、つまり新しい滞在先で開かれるリサイタルで毒物を撒くつもりだと見抜く。う~ん、やはりどうも、いまいちピンと来ないかな。
ニックとライリーも、犯行に使われた手術用の糸の出所を探ったりと、しっかり捜査活動。特に、犯人がホームレスを手足に使っていたことから、犯人の潜伏場所を見つけ出すライリーの活躍が素晴らしい。一人で大丈夫か!? 応援を呼ばなくて良いのか? と、ちょっとハラハラしてしまうが、考えてみればTVで元気な姿を見ているわけだから、ここで死んだり大怪我したりするわけはないよね。
一方、前半で取調べを受けた昆虫学者のひとり、ブラジルのクァドロス博士がモーテルで全身ハチに刺されて死亡しているところを発見され、その部屋からは犯行に使われた証拠品などがいくつか発見される。指紋で身元が照合され、どうやら一連の事件はクァドロス博士の犯行で、ハチの扱いを誤って死亡したようだ――と結論付けられそうになるが、博士は薬物を投与され、昆虫学会が始まる前から監禁されていたことがわかる。つまり、真犯人は博士を拉致して入れ替わり、何食わぬ顔で取調べを受けていたということになる。博士とは皆オンラインのお付き合いで、実物に会ったのは初めてだったらしい。まだビデオ会議の時代ではなかったのだ。
主任はクァドロス博士に成りすましていた犯人をうまく見つけ出すが、その犯人は突然苦しみ出し、死亡。どうやら毒を盛られたらしい。犯人は同じく昆虫学者仲間だったソームズ博士。ソームズ博士は虫を使った独自の捜査方法で犯人にたどり着いていた――というわけで、犯人の死によって一連の事件は終わりを告げる。
グリッソム班の事件もキャサリン班の事件も、それだけで1冊にした方が良さそうなくらい、盛りだくさんな内容だった。ストーリーとしてはまぁ面白かったと思うのだけど、私の印象としては主任がちょっと元気すぎるような……。素材が虫だから大活躍するのはわかるのだけど、TVシリーズのこの時期だと、ウォリックの件でかなり精神的に参っていたはず。作中にも、ウォリックの昔の友達が登場して、ちょっとしんみりする場面はあったのだが、全体としてTV版の主任に比べてかなりお元気。この話はもうちょっと別の時間軸に置いて、ウォリック事件以降の主任は前作の “Brass in Pocket” でひっそりと退場させてほしかったかな……という気もする。
— Yoko (yoko221b) 2012-04-13