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CSI - Season 6, Episode 5
#122 Gum Drops
- 邦題:「生きる定め」
- 脚本:Sarah Goldfinger
- 監督:Richard J. Lewis
- 初回放映:2005-10-20
- It was not your day to die. When it's your day, it's your day, you know ?
- I don't think it was Cassie's day.
事件概要
ジュード・マクブライド他3名(殺人、殺人未遂ほか)
ボディ・ファームへ出張に出かけたグリッソムを除く全員で担当。
ラスベガスから車で2時間以上離れたリンカーン郡の街ピオシェで、一家惨殺と思われる事件が発生。その家の住人はジュード・マクブライド、妻ニーナ、高校生の息子ジェレミーと小学生の娘キャシーの4人。家の中にはいくつもの血溜まりがあったが、遺体も生存者もなかった。血に染まった、家族の以外の足跡が3人分。血液の乾き具合、コーヒーメーカーの設定、娘のスケジュール表から考えて、犯行が行われたのは金曜の夜と考えられた。
マクブライド家の電気料金は異常に高かったが、それは地下室で蛍光灯を使ってマリファナを栽培していたためだった。地下室の鍵は銃弾で破壊されており、それが犯行の動機と思われた。
ジュードの携帯電話には、日曜日に6回の着信があった。かけたのは医師のマルコム・パーカー。パーカーはマリファナを買おうとしており、マクブライド家に行った時に血溜まりを見て匿名で通報したのだ。パーカーの靴のサイズは現場に残るものと不一致で、金曜の夜には勤務についていた。
キッチンで発見した指紋のひとつは、予備役訓練兵に登録されているマーク・ホーヴァティンの物だった。マークの車のトランクからは大量のマリファナ、後部座席からは風船ガムが発見される。また、マリファナを包んでいたポリ袋が、マクブライド家にあったものであることもわかる。しかしマークの父親は弁護士で、それ以上の捜索に異議を申し立てる。
その頃、ベガスのラボではキャサリンが現場の血痕を分析し、犯行の順序を割り出していた。まずジェレミーが玄関の近くで撃たれる。その後、キッチンから出て来たジュードが撃たれる。そして2階から降りてきたニーナが逃げようとした所を後から撃たれる。血液はこの3人のもので、末娘キャシーの物はなかった。ニックはキャシー生存の希望を持つ。
マークの車から発見されたATMのレシートは、水泳部のピーター・ロックが使った物だった。ロック家のボートには、マクブライド家の近くに落ちていた物と同じ種類の藻と、風船ガムが落ちていた。ニックは、「ヘンゼルとグレーテル」でグレーテルを演じたキャシーが、パンくず代わりにガムを落として行った――キャシーは生きていると確信する。
マークの車のガソリンの減り具合から割り出された移動距離内には、イーグルバレー貯水池があった。マクブライド家の3人――ジュード、ジェレミー、ニーナの遺体はそこで発見される。しかしキャシーの姿はなかった。遺体からは22口径の銃弾が発見される。それはピオシェ在住のクリス・ダニエルズが所有していた銃だった。その息子ルークは血液反応の残るナイフを所持していた。
マーク、ピーター、ルークの3人は、ジェレミーの口からマリファナのことを聞き、金曜日の夜にマクブライド家を訪れる。その時は父親が在宅だったので、今日は駄目だとジェレミーは断った。そこでルークが銃を出し発砲、一家惨殺へと発展してしまった。ピーターが2階へ行ってキャシーを拉致、あとの2人が地下室でマリファナを盗んだ。ただ、ピーターはキャシーを殺すことがどうしてもできず、争いになった。そしてルークがナイフを出したのだった。
ニックは地元の警察とともに貯水池での捜索を続け、ついにキャシーを発見する。喉を切られ、意識を失っていたが生きていた。キャシーはその手に風船ガムを握りしめていた――。
感想
素晴らしい! 文句なしに傑作エピソード! 涙なしには見られなかった
今回、グリッソムはボディファームへ出張講義のためお休み。1度も登場することなく、現場に佇むニックの姿から始まる。這うようなカメラの視線と風のうなりで始まるところはシーズン5「禁断の味」を、幸せな一家がごく普通に暮らしていそうな家と、突然の惨劇を思わせる血溜まりはシーズン1「惨劇の家」を思い出させた(そういえば、タイトルも似ているしキャサリンが血痕分析する所も共通している)。だがその2件と違うところは、遺体がないことと、時折挿入される女の子の台詞。かすれたようなささやき声は、冥府より聞こえくる死者の声、といった印象でいかにも不気味だった。
舞台は郊外の小さな街。保安官は「リンカーン郡ではここ10年間殺人は起きていない」と言っていた。ラスベガスがあるのはクラーク郡なので、はるばる隣の郡まで出張したということか。殺人事件が10年ぶりというぐらいだから、専属のCSIも必要ないのだろう。保安官がたずねて来ても、未成年の飲酒事件くらいにしか思われない、そんな静かな街。
そういえば郊外に遠出して地元の警官と捜査する、という点はシーズン4「埋められた秘密」でもあった。この時は主任が1人で出張してキャサリンがラボでサポート、若手はほとんど登場せずだった。今回はその逆で、若手4人が出張して主任は不在、キャサリンはやはりラボでサポートだった。
この郊外の風景がいつもとはまったく違った感じで良かった。アメリカの典型的な田舎ってこんな感じなのだろうか。静かで清涼な空気を感じさせる情景描写。皆の服装が半袖やノースリーブだったから、寒くはないのだろうが、都心から郊外へ出た時のような、ひんやりとした少し湿っぽい空気が鼻腔を刺激する、そんな感触が画面から伝わってきた。
そしてニック!
キャシーの生存を信じて捜査資料を調べるニック。Gum Drops の意味に気づいた時は、「失踪者を探すには失踪者を知ること」というコンセプトを持つドラマ Without a Trace を思い出した。少年を相手に激昂するニック。キャシーを発見し、必死で駆け寄るニック。通常被害者がすでに死亡しているCSIでは、こういう描写は本当に珍しい。そして素晴らしい。見ていて、ディスプレイを両手で掴みそうになった。
発見されたキャシーは青ざめ、動かない。まさか……と思っていたら病院の場面に変わり、ほっと息をつく。そしてキャシーが事件を最初から語り始めるのだが、それが冒頭から時折挿入されていた台詞であること、なぜ声がかすれていたのか、ここで明らかになる。ニックを導く死者の呼び声でも幻聴でもなかったのだ。この構成も素晴らしい。
キャシーに思い入れるニックと、ニックを心配するサラの会話もとても印象ぶかい(以前なら、被害者に思い入れて心配されるのはサラの役割だったのに)。どんなに力を入れても、助けられる被害者と助けられない被害者がいる。努力が報われるとは限らないし、報われなかったことは努力が足りないことではない――冒頭に引用した二人の会話からは、そんなことを感じた。
サラといえば、クリス・ダニエルズとのシーンも印象に残った。息子が銃を持ち出したと知り、クリスが料理用のフォークを握りしめたことにサラは気づいた。おそらくクリスは粗暴な父親なのだろう。サラ自身もDV家庭で育ったことが前シーズンで明らかにされている。前シーズン「CSI“12時間”の死闘」のニックとともに、同じくシーズン5「人形の牢獄」からの連続性があることで、一話完結の形式をとりつつも、物語としての大きな流れが途切れていないことがわかる。
TV.comの注釈によると、このエピソードはもともとはグリッソムが中心になるはずだったが、W.ピーターセンが事情で撮影できなくなったため、急遽ニックが主役のエピソードに変えられたとのこと。だがそんなことは関係ない、詳しい裏事情はむしろ知りたくないと思うくらい、これは完成されたエピソードだと思う(だからコメンタリーも聞いていない。それよりドラマをもう一度見る方がいい)。何事もなく撮影できていれば、それに越したことはなかったし、いずれにしても秀逸なエピソードになったことは間違いないと思う。だが、「この」Gum Drops はニックでなければ表現できなかっただろうから。
ひとつだけトリビア。キャシーが落としていったガム(写真右)は、「CSI“12時間”の死闘」でニックが耳に詰めたガム(写真左)と同じ物らしい。
単語帳
- Taster's Choice:テイスターズチョイス(インスタントコーヒー)
- Mary Jane:マリファナ(俗語)
- ganja:ガンジャ(上質のマリファナ。広義でマリファナ一般)
- habeas corpus:へービアスコーパス(人身保護令状)。違法な拘束を受けている疑いのある者の身柄を裁判所に提出させる令状。拘束が違法であると判断されれば、その場で拘束を解いて自由の身とする。刑事裁判に限らず、強制入院や、監護権のない大人からの児童の保護などに広く用いられる。“habeas corpus” は、“you should have the body.” を意味するラテン語。
— Yoko (yoko221b) 2006-12-30