Table of Contents
CSI - Season 6, Episode 15
#132 Pirates of the Third Reich
- 邦題:「怒りの鞭」
- 脚本:Jerry Stahl
- 監督:Richard J. Lewis
- 初回放映:2006-02-09
I find that people who don't respect books have a general disregard for keeping things whole.
事件概要
ゾーイ・ケスラー/ジャック・ランダース他(監禁、傷害、その他)
ハイウェイ55のそばで若い女性の遺体が発見される。頭髪を剃られ、右手を切断され、身体には「19」の焼印を押されていた。片方の眼球は視神経が切断されており、しかもそれは別人の眼球であった。その眼球の主は性犯罪の前歴を持つジャック・ランダース。保釈中のジャックに会いに行くと、彼は片方の眼球を摘出されてロボトミー手術を施され、腕に「18」の焼印を押されていた(1930~40年代には、眼球位置でのロボトミー手術が行われていた)。
女性の身元は、公開された写真を見た母親――レディ・ヘザーによってゾーイ・ケスラーと確認される。ゾーイは不眠症に悩み、ベッツ・クリニックという病院で睡眠検査を受けていた。
ゾーイの右手は現場では見つからなかったが、歯の間に組織があったことから、ゾーイが自ら手を噛みちぎったと考えられた。ニックとウォリックは現場から捜索の手を広げ、近くの民家で腐敗臭に気づくが、その臭いの元はcorpse flower(死体花)であった。その家の主はベッツ・クリニックでゾーイを担当していたジェイコブ・ウォルフォウィッツ医師だったが、扉をノックするとレディ・ヘザーが応対した。
レディ・ヘザーは家屋に侵入したことを認めた。ウォルフォウィッツが訴えれば犯罪現場として自宅を捜査する口実ができるとふんでのことだったが、ウォルフォウィッツは訴えようとしなかった。グリッソムは別件で令状を取ろうとするが、その矢先、ウォルフォウィッツはクリニックの駐車場で遺体となって発見される。
遺体はいちど冷凍した形跡と「1」の焼印があった。身体を完全に冷凍するには少なくとも2日はかかるが、彼が前日に生きていたことは明らか。さらに、捜査が進まないことに業を煮やしたレディ・ヘザーがウォルフォウィッツと関係を持って採取したばかりの「DNAサンプル」を手にして現れる。
DNAは一致したが、車に残された指紋は元軍人のレオン(ジョン)・スネラーの物だった。つまりスネラーとウォルフォウィッツは双子の兄弟だったのだ。スネラーは軍隊に入りベルリンに派遣されていたが、約1年前に除隊していた。スネラーはウォルフォウィッツを殺して冷凍し、自分が彼になりすまして生活していたものと思われた。
ウォルフォウィッツの自宅には地下へ続く隠し扉があった。地下室にはナチス・ドイツの強制収容所と人体実験を想起させる実験室(あるいは拷問部屋)のような異様な光景が広がっていた。ゾーイ・ケスラーは彼らの言う完璧な人種特徴を備えていたが、ヘテロクロミア(左右の目の色が異なる虹彩異色症)で目が片方だけ茶色いという「欠点」があったため、スネラーは彼女の眼球を摘出して交換した。ゾーイは右手を手錠でつながれたため、右腕を噛みちぎって脱出したのだった。別の隠し扉を開けると、そこには背中を縫い合わされた双生児が監禁されていた。1人はすでに死亡しており、病院に運ばれたがもう1人も結局助からなかった。
グリッソムはレディ・ヘザーのネックレスが床に落ちていることに気づき、ゾーイの遺体発見現場へ向かう。そしてスネラーを鞭でリンチしているヘザーを発見し “Stop” と叫んだ。
感想
うむむむむ。これはいったい何なんだ。もう今回は不満ばかりです。
不満なのは、期待しすぎたせいなのかもしれない。でもね、タイトルの “Third Reich” からはナチス・ドイツの第三帝国(神聖ローマ帝国、ウィルヘルム1世が統一したドイツ帝国に続く第3の統一国家だから)が容易に想像できるし、ゲストはレディ・ヘザーだというし、脚本がJerry Stahlとくればもう、darkでkinkでbizarreな世界を期待するなという方が無理でしょう!
道具立ては確かに登場したし、それ自体はすごく恐ろしい雰囲気があったのだけど――ただ「舞台装置を出しただけ」で終わってしまった感じ。スネラーはいったい何をやろうとしていたのか、彼は現代に蘇ったメンゲレだったのか、それともコスプレワナビーだったのか、そもそも何がきっかけでそういう方面に傾倒してしまったのか、ユダヤ人の養親からどのような影響を受けたのか、殺された方のウォルフォウィッツはどういう人間だったのか。そのへんが何とも描写不足で消化不良な感じ。そこまで掘り下げるのはCSIの仕事じゃないのかもしれないが、それにしても中途半端すぎる。長尺か前後編にして、もっとじっくりと描いてほしかった。このエピソード、ヨーロッパではどう受け取られたのだろうか。
そしてレディ・ヘザーが! こんなのレディ・ヘザーじゃないよう
ヘザー様は虚飾の街、ベガスの闇の世界に君臨する妖かしの女王様だったはずではないのか。最後のあれはSMではない。私怨の暴力だ。SMとは嗜虐と被虐のファンタジーではなかったのだろうか。女王様が自らの君臨する王国を冒涜するとは、何たること。そして、なぜそこで “stop” を口にする、グリッソム。
“say stop” というのはシーズン3「永遠の別れ」でレディ・ヘザーが口にした重要な言葉のはず。単に「やめろ」ということだけでなく、SMでいうセーフワードのような、象徴的な意味を持つ言葉だと思っていた。“stop” を言えるということは、SMのファンタジーを終わらせる力を持つことであって、「Mの方が実は力を持つ」というのは(たしかヘザー本人がそう言っていたはず)そういうことなのかと思っていた。でもこの場合は単に「暴力は止めろ」と言っているようにしか聞こえなかった。あーあーあー、もう何だかなぁ。
それはそうと、グレッグがグリッソムに「ベッツ・クリニックはまるでホテル・カリフォルニアです」と言っていた場面。ここにいる私たちは皆囚われの身、いつでもチェックアウトできる1)けれど、ここを「去る」ことは永遠にできない――というような歌詞がある。ザ・フー(テーマ曲)にツェッペリン(「天国への階段」)、今回はイーグルスか~。
単語帳
- abscess:膿瘍
- necrotizing fasciitis:壊疽性筋膜炎
- streptococcus:連鎖球菌
- chlorpromazine:クロルプロマジン(統合失調症の治療などに用いられる鎮静剤)
- vitreous fluid:硝子体液(眼球内部の液体)
- Briefe an einen jungen Dichter:リルケ『若き詩人への手紙』
- Occam's razor:オッカムの剃刀(複雑な仮説より単純な仮説の方が好ましいとする方針)
- corpse flower:死体花。肉の腐敗臭のような悪臭を放つ。
- catch-22:矛盾する規則に縛られて身動きが取れないこと。ジョーゼフ・ヘラーの同名の小説(映画もある)より。
— Yoko (yoko221b) 2007-04-16