Deluge
小説版CSI:NY第3弾、著者は今回もスチュアート・カミンスキー。ニューヨークでは何日も土砂降りの雨が降り続いていた。マックとフラック刑事は、大雨の中で女性が刺殺された事件を担当。その後、似たような特徴を持つ遺体が他にも発見され、事件は連続殺人事件に発展する。ステラとホークスはダイナーが爆破された事件を担当。ホークスは現場に閉じ込められた生存者の救出に尽力する。ダニーとリンジーは、名門の私立高校で教師が殺害された事件を担当する。
書誌情報
Deluge
内容・感想
時期的にはシーズン3の前半あたりと推察。ドン・フラックが負傷したことを生々しく思い出しているのはシーズン2のフィナーレでのことであろうし、ダニーとリンジーはまだカップルになっていないので。ラボのアダムは登場しない(登場したら少々ややこしいことになってしまう)。
カミンスキーの作品らしく、科学捜査が主体というより「NYPDの殺人課刑事たち」を主人公とした面白いミステリという印象だった。でもちょっと事件と遺体が多すぎたかな~。事件が3件、そのうち1件は連続殺人で、もう1件は爆破事件なので、最終的にシド先生が(1人ではないと思うが)検死した遺体は9体、だそうで……そりゃちょっと多すぎじゃないか。
面白かったのは、やはりマック担当の殺人事件かな。最後まで行く前にネタバラシがあって、「彼」が何のために犯行を重ねているかもわかってしまった。そんなわけで、意外性のない展開ではあったけれど、犯人の心理的葛藤や、マック/フラックと追いつ追われつしている描写などは面白かった。この犯人は、自分が外国へ行っている間に、弟が父の友人にレイプされて自殺するという過去があり、そのために「子ども相手の性犯罪者」を狙っていたのだった。ここで直接のレイプ犯ではなく、同種の趣向を持ち犯罪歴のある人間を次々とターゲットにして、そして弟の名(ADAM)を遺体に刻んでいった――というのは、何か象徴的な理由があってのことだとは思うのだが、そのへんがいまいち響いてこなかったのが残念。
ただしこの事件では、最後にもうひとつ別の犯罪が明るみに出る、というプチどんでん返しみたいな構造があって、そこに意外性があったなと思う。
ダニーとリンジーの事件は、現場が学校なので容疑者も限られていて、多少のひねりはあったもののシンプルに絞り込んで解決。証拠から犯行の様子を再現していく手法は、オーソドックスなCSIと言ってよいかもしれない。ただ、ダニーがクラシック音楽好きで、とあるコンサートピアニスト(娘がその学校に通っている)の大ファンだというのは意外。ダニーはロックとかヒップホップを聴いているイメージがあったのにな。
ステラたちの事件では、生存者を救出しようとするホークス先生の活躍が印象に残る。やはりホークスの印象は捜査官というより「ドクター」なんだよなぁ……。そしてステラは事件解決後に、爆破現場で知り合った消防隊員とデート。デート相手とシャーロック・ホームズごっこしてるんじゃありませんって! でも、彼氏は料理が来る前に火災現場に呼び出されてしまって残念ね。そういえば、ステラはシーズン2での出来事(フランキーの事件)を引きずっていなかったような気がする。
そんなこんなで、総評としては「普通に面白いミステリ」というところかな。
CSI:NYの小説はこれで3冊出版されたことになるが、来年には新しいライター Keith R.A. DeCandido 氏による “Four Walls” が出版されるとのこと。ということは、カミンスキーはもうNY小説は書かないのだろうか? だとしたら残念だ。1)
NYの各キャラに対するカミンスキーの描写は、他のライターに比べて少々突き放しているというかクールなところがあって、そこが良いといえば良いのだが、時として物足りなくもあった。また、番組で述べられた事実と明らかに異なる描写(しかも重要なところ)があったりするので、「カミンスキーは番組を見てないんじゃないの?」などとAmazonのレビュー欄に書かれたりしていた。確かに、公式サイトのお勧め作品ページを見ても、CSIは入っていないし、CSI:NYの作品に関するインタビューなのに「私はLaw & Orderのファンで…」とライバル作品を持ち上げたりしていた。そういう点は、CSIシリーズの大ファンを自認するドン・コルテスとは実に対照的で、それがそのままマイアミとNYのカラーに合っているところが面白かったのだが。しかしNYも明るくなったし、いつまでもシーズン1の印象のままというのも変かもしれない。
それでも、小説版CSIの中で最も好きな1冊は、というと私はカミンスキーの第1作 “Dead of Winter” を挙げると思う。
— Yoko (yoko221b) 2007-10-22