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Dearly Devoted Dexter
ジェフ・リンジーの小説デクスター・シリーズ第2弾。アイストラック・キラーの事件を解決したデクスターは巡査部長のドークスに一挙手一投足を監視され、裏の仕事もままならない日々を送っていた。そんなある日、事件の連絡を受けたデクスターとデボラが現場へ行ってみると、そこには今まで見たこともないような「被害者」の姿があった。デクスターの捜査は、ワシントンからやって来た捜査官のチャトスキーとドークスの隠された過去を暴き出す。
書誌情報
Dearly Devoted Dexter
- 著者:Jeff Lindsay
- 発行:2007-05-22
- ISBN:978-1400095926
デクスター 闇に笑う月
内容・感想
2作目にきて、小説版デクスターのキャラにも馴染んできたかな。相変わらずTV版とは別キャラで、マイケル・C・ホールの顔も声も浮かんでは来ないのだが、これはこれでいい、という気がしてきた。何より今回の事件はTV版には登場しない(そもそも映像化できそうにない)ので、完全にTVとは別物として楽しめた。
このシリーズの死体描写は、バラバラ殺人だったりするわりに、1滴残らず血を抜いて、文字通り血の通わないオブジェのように加工したりするせいか、映像化してもそれほどグロくないという印象だった。
しかし今回はグロ! 被害者が死んでいないので殺人事件ではないのだが、身体のあらゆる部分を切り落とし生きながら完全に無力化してしまうというとんでもない猟奇事件である。手足はもちろん、耳も鼻も目蓋に至るまで、切り取れる部分はすべて切り落としてしまう。しかも、出血や痛みでショック死しないよう、麻酔や鎮痛剤をふんだんに投与して、傷口を治療しながら少しずつ、目の前に鏡を置いて自分の姿を見せつけながら身体を切り刻んでいくという、とても映像化できないような犯行。
この難事件を解決するためにワシントンから特別捜査官のカイル・チャトスキーが派遣されてくる。マシューズ警部はリエゾンとしてデボラを組ませ、これ幸いと丸投げ。デボラはカイルと恋に落ちる。成り行き上捜査に加わったデクスターは、被害者とドークスとカイルが、かつてエルサルバドルで特殊任務に従事していたことを突き止める。一連の犯行の手口は、Dr. Dancoと呼ばれた男のもので、彼は自分を裏切ったかつての仲間たちをひとりずつ手にかけているのだった。
……という事件の真相、ほとんどはカイルの口から事情が語られ、どういう事件かはストーリーの中ほどで大体わかってしまう。後半はそのDr. Dancoとの追いかけっこがメイン。カイルが拉致され、Dr. Dancoを発見して追跡するうちにデボラが負傷、デクスターはドークスと組む羽目になる。囮になったドークスが拉致され、デクスターはGPS信号を頼りにアジトを発見し、あっさりカイルを奪還。デクスターはそれまでドークスに見張られていたせいで、裏の仕事に支障をきたしていたところだったので、はなっからドークスを救出するつもりなんてなかった(ひどい)のだが、デボラとカイルの説得でしぶしぶ救出に向かう。そこでデクスターも捕らえられてしまうのだが、すでにデボラに連絡した後なので、デクスターがどうなるの? という緊張感は別になかった。助けに来るんでしょ、と思ったタイミングでちゃんと2人ともやって来たし。まぁドークスが今後どうなるんだろうと思った程度かな。
この小説で面白いのはやはり、猟奇――何と言えば良いのだろう、殺人じゃないし、治療しているから殺人未遂とも言いがたいし、猟奇傷害事件?――事件の描写かな。この事件自体がすごくユニークでインパクトがあった。それから、事件以外のところでリタの息子コーディとの関係だろうか。
デクスターは、近所の犬がいなくなったことでピンとくる。コーディは(アスターも?)薬物中毒でDVな父親のいる家で育ち、幼少期にトラウマを受けたせいで、殺人衝動を内側に芽生えさせていた。そのことを知ったデクスターは、かつてハリーが自分にしたように、子どもたちを正しい殺人鬼の道へ導こうと決意する。これまで「感情がない」と繰り返し述べてきたデクスターが、ここにきて己の中に父性を感じている――ということで、このシリーズはデクスターの成長物語という道を進み始めたようだ。
— Yoko (yoko221b) 2008-07-09