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Dexter in the Dark
ジェフ・リンジーの小説デクスター・シリーズ第3弾。恋人のリタと婚約し、結婚式の準備を進めながらも「裏稼業」に精を出すデクスター。そんな時、マイアミ大学の構内で女子学生2人の無残な遺体が発見される。全身を焼かれ、首を切り落とされ、頭があったはずの場所には陶器でできた牛の頭を置くという儀式のような現場。程なくして、デクスターの中に潜む「ダーク・パッセンジャー」に異変が起き始める。
書誌情報
Dexter in the Dark
- 著者:Jeff Lindsay
- 発行:2007-09-18
- ISBN:978-0307276735
デクスター 夜の観察者
内容・感想
原作デクスターの第3作。殺人事件物語からオカルト方向へと大きく舵を切り、いきなり “dark passenger” (面倒くさいので以下DP)の素性から入る本作は、賛否両論――いや、「賛<<<否」な受け止められ方をしているように思う。私自身もどちらかというと「否」かな……。
事件は相変わらずのグロ猟奇事件。マイアミ大学で2人の女子学生が殺害されるが、2人とも首を切り落とされて全身を焼かれ、頭の代わりに陶器でできた牛の頭が置いてある。その儀式めいた様子から調査を進めたデクスターは、邪神 Moloch の存在に行き当たる。その途端、デクスターの中にいたDPは突然家出。残された「空っぽのデクスター」がひとりで邪神に対峙する。
この「犯人」に行き着くまでに、大学の先生が疑われたり、マスオカの紹介でデクスターの結婚式の料理を頼もうとしていたカリスマ・ケータラーが殺害されたり(しかも生きている彼に最後に会ったのはデクスター)、いろいろあるのだが、結局「犯人」を探り当てたのはデクスターのリサーチであって現場から始まる「犯罪捜査」ではない。いやもちろん捜査もしているのだが、描写として扱いは軽い。このシリーズは「誰が、どうやって犯行を行ったか」を解き明かす「推理小説」ではなく、デクスターというシリアルキラーを描く「犯罪者の物語」なのだろうと思う。そういうアプローチで読んでみると、今回のような非現実的な路線も「あり」なのかなぁ。
今回の話で重要なのは、デクスターのDPが邪神 Moloch の末裔であったという「種明かし」と、コーディの殺人デビューだったのだろう。DPが家出して突然ひとりにされたデクスターは、殺人事件を前にしてもいつものカンがはたらかず、またコーディとアスターを立派な殺人鬼に育て上げる(?)のも自分だけでは無理ではないかと思い悩む。そして最後の場面でDPが戻って来て、またこれで殺人ができるね! という所でおしまい。ドラマ版も最初の設定を崩して「新生デクスター」を語り直すようなエピソードがあったが、小説版もこの作品で設定を語り直した感がある。
そもそも「殺人鬼デクスター」が誕生したきっかけは、幼少時に母親が目の前で惨殺されるというトラウマであり、それを養父ハリーが少しでも害の少ない方向へ導こうとした結果、現在のデクスターになった、というのが小説とドラマに共通するデクスターの「根っこ」であったと思う。共通の根っこを持ちながら、ドラマ版と小説版は別々に枝分かれしてそれぞれ発展して行っていると思っていたのだが、ここに来て小説版には別の根が生えるし、ドラマ版はドラマ版で後付けくさい設定で独自の根を育てているようだ。
また、ドラマ版との違いとして小説版の事件には「血が流れない」という特徴があるように思う。1作目では遺体の血をすべて抜いて遺棄していたし、2作目は止血して治療しながら切断。今回は遺体を焼いている。この点も、デクスターの行動が「捜査」ではなく「リサーチ」に終始する理由かもしれない(何せ専門は血痕分析だ)。デクスター自身の犯行ではかなり血が流れているはずだけど。
また、メインのストーリーには絡んで来なかったが、ドークス巡査部長の復活も気になるところ。前作で酷い目にあったドークスだが、車椅子でようやく復帰。ドークスは今後、デクスターだけでなくコーディとアスターにとっても脅威になるのだろうか。そしてカイルは、デボラと順調に交際を続けている様子。
— Yoko (yoko221b) 2011-04-24