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Homicide - Season 4, Episode 20
#75 Narcissus
- 邦題:「立てこもり」
- 脚本:Yaphet Kotto
- 監督:Jean de Segonzac
- 初回放映:1997-05-02
事件概要
No.087 Kenya Merchant
射殺事件の容疑者を警察が追跡する。男はアフリカ文化復興運動 (African Revival Movement) の建物に逃げ込む。リーダーのブルンディ・ロビンソンは元警官で「令状がなければ入れない」と警官を追い返す。ペンブルトンが電話を受けるが、解決率が低迷しているマンチが「簡単な事件なら譲ってくれ」と言い、マンチが主任担当となる。
現場へ行ってみると、彼らはバリケードを築いてたてこもり中。現場にはなぜかバーンファーザーがおり「彼らは地域に貢献しているから」と穏便に済ませようとするが、ペンブルトンは「容疑者が逃げ込んでいる以上、ここは犯罪現場に準じる場所となっており、殺人課に指揮権がある」と反論して突入。
容疑者はすでに服を取り替えていたが、追跡していた警官はそれに騙されず容疑者を特定。容疑者ベニン・クラウンは署に連行されるが、そこへ珍しくギャフニーが現れる。クラウンはギャフニーと何事かを話した後「弁護士が来るまで何もしゃべらない」と言い出す。
目撃者のマラウィ・ジョセフは、組織内部での対立からロビンソンが殺害を命じたと主張する。ロビンソンはアフリカ風の名前に改名し、学校でアフリカの文化を教え、麻薬依存症やホームレスを救済するなど地域活動を行っていたが、組織内では少女を性的に搾取しており、被害者のケニヤはそれを公表しようとしたのだという。マラウィは隠しマイクを着けてロビンソンに接触し、話を引き出そうとするが、具体性を欠いた会話しか得られなかった。
マラウィの名は書類上匿名とされていたが、それに気づいたギャフニーが、名前を教えろと命令する。ギャフニーは殺人課の警部であり、逆らうことはできない。
マラウィは再びロビンソンに接触するが、ロビンソンは事件への関与を明確に否定。明らかに情報が漏れていた。
ベニン・クラウンには弁護士が付き、取り調べもできなくなっていた。そこでジャデーロ、マンチ、ペンブルトンの3人はクラウンを取調室に入れて「これは取り調べではないし、君に何も聞くつもりはない」と言いながら「仲間内でのおしゃべり」を始め、「ベニンの妹が妊娠中だ」「父親はロビンソンだろう」などと話し始める。ベニンはそれを聞いて怒るが、「君とは話してはいけないんだ」と蚊帳の外。その後ダンバースも参加し「ベニンの弁護人はロビンソンに雇われているので、奴の思いのままだ。公選弁護人なら今頃は取引しているのに、可哀想に」などと話す。クラウンはそれを聞いて公選弁護人を頼むと言い出す。
マンチとペンブルトンはロビンソンを逮捕しに向かうが、仲間たちが抵抗して暴れ出し、暴動に発展。パトカーは打ち壊され、彼らは建物内にたてこもる。ロビンソンは警察時代に親しかった副本部長のジミー・ハリスを呼んでくれと要求するが、ハリスは突入を許可。ジャデーロは突入を阻止するため、単身で乗り込む。
ロビンソンに情報を流していたのはハリスだった。ロビンソンは辞職する前、ハリスとともに麻薬ディーラーを逮捕し、押収したヘロインを証拠品として保管していた。だが事件解決後、ヘロインは重曹にすりかえられていた。ハリスが証拠品を横流しして売ったのだ。ロビンソンはハリスから分け前をもらい、自分が辞職して事を納めたのだった。
ロビンソンは女性と子どもたちを解放するが、ジャデーロの目前で扉は閉まる。バーンファーザーは反対するが、ハリスに忠実なギャフニーは突入を命令。その後数時間にわたり、建物は暗く静まったまま。何の音もしない。ようやく警官が建物に突入すると、中で彼らは全員、服毒自殺を遂げていた。
感想
ジャデーロ役のヤフェット・コットーが脚本を執筆。コットーはNYの出身、アフリカ系のユダヤ教徒ということで、背景にある複雑な人種事情が本作に反映されているのではないかと推察される。
今回登場したアフリカ系団体、最後に全員で自殺するところは人民寺院を思い出したのだが、直接のモデルになったのは「MOVE」というグループとのこと。これは人権団体というより「自然に帰れ」という生き方をラジカルに推し進めるカルト的なグループだったようだ。自然に帰りすぎて衛生状態は悪く、付近住民からの苦情も相当あったらしい。反文明を標榜するわりに武器弾薬はしっかり蓄えており、1978年には警察との銃撃戦が起きて9名が逮捕。その後1985年にも武力衝突があり、この時はフィラデルフィア警察がヘリで爆弾を投下している。ここまでくるともう戦争だな。この爆撃では、MOVEの建物だけを破壊するはずが、爆発物に引火して、付近の民家60戸以上が全焼するという大惨事に発展。MOVE側は子どもを含め11名が死亡、女性1名と子ども1名だけが生き残った。この女性は現在もMOVEのスポークスパーソンとして活躍中。
それに比べるとこのエピのARMは、教育熱心だし地域貢献もしているし、少なくとも理念的には平和的な団体だったのだろう。とは言っても、内部でやっていることはかなり悪質な洗脳だったのかも……男性メンバーは皆自殺してしまうし。
自殺とはいえ、多数の死者を出した大事件であることには変わりない。ラストで、現場の生々しい様子を伝えるニュース映像に、まったく関心がない様子でTVのチャンネルを変える白人カップルの姿が、何ともいえないネガティブな余韻を残す。
さて、そのARM内部の事件に関わるかたちで警察内部の人脈も垣間見える。ジャデーロがケラマンの件でハリスの力を借りようとした時(「血の婚礼」)、ハリスはそれを拒絶していた。ラッサートを降格させた時に、ジャデーロではなくギャフニーを警部にしたのは「君へのメッセージだった」というのだ。で、実力ではなく棚ぼたで警部になったギャフニーは、あくまでハリスに忠実。バーンファーザーは別系統みたい。
— Yoko (yoko221b) 2013-04-06