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Kavanagh Q.C. - Series 1, Episode 2
#2 Heartland
- 脚本:Russell Lewis
- 監督:Colin Gregg
- 初回放映:1995-01-10
事件概要
Jarvis v. West
サンダーランドという街で、自動車泥棒の前歴のある若者ライアンが地元自警団員(元警官)の車に轢かれ、脳を損傷して昏睡状態に陥る。車を運転していたウェストは強盗事件のあった現場近くを走行しており、ライアンを容疑者とにらんでいたが、轢いたのは「事故だった」と主張。検事局 (CPS: Crown Prosecution Service) も証拠不十分で不起訴を決定するが、ライアンの母親ジャッキーは納得せず、カヴァナーに依頼して私人訴追を試みる。カヴァナーは証拠がないと難色を示すが、その後「ウェストはライアンを追跡してわざと轢いた」という目撃証人マルコムが現れる。
カヴァナーはそれでも、有罪にできる可能性は低いと言うが、ジャッキーの決意は変わらない。カヴァナーは結局事件を無償で引き受け、レイ・ウェストは殺人未遂で起訴される。
現場の近くに住む住人は、ウェストがライアンを轢く直前に「スピードを上げた」と証言するが、弁護人の反対尋問に突き崩される。事件(事故)当夜は大雨で、ブレーキ痕などの物的証拠も残っていない。医師は、事故直後に適切な処置ができていれば脳の損傷を防げた可能性があったことや、現在のライアンにはもう回復する可能性がないことを証言する。
出廷する予定だったマルコムは、ウェストの仲間たちに脅されて暴行を受けて姿を消すが、その後、清掃員のふりをして法廷に現れ、証言を行う。弁護人は、ウェストが警官だった時にマルコムを飲酒運転で逮捕し、マルコムがその結果仕事を失い結婚生活も破綻したことなどを指摘する。
ウェストは証言台に立ち、ライアンをわざと轢いたのではないこと、事件当日はパートナーのドン・パークスと行動をともにしていたことなどを証言する。ドンの娘でウェストの恋人でもあるリサは、ウェストの証言を裏付けるが、カヴァナーはリサが何度もライアンを見舞っていたことを知り、「リサとライアンのことでウェストが嫉妬していたのではないか」と厳しく追及。カヴァナーは、リサがつい「レイがライアンを見たはずはない」と口を滑らせたことをきっかけに、その夜実際に何があったのかを芋づる式に証言で引き出していく。カヴァナーが矢継ぎ早に質問を浴びせたため、リサは辻褄を合わせ切れなくなったのだ。
ライアンはその夜、リサ・パークスをパブから自宅まで送っていた。リサが帰宅した時、父のドンは自宅におり、ウェストと同行していなかった。自警団員の単独行動は規則違反なので、ウェストがライアンを轢いた後、ドンが現場へ向かって口裏を合わせていたのだ。
ウェストには有罪の評決が下り、ジャッキーはライアンが回復する可能性がないという事実を受け入れて臓器提供に同意し、生命維持装置を停止させる。
感想
オープニングシーケンスの風景が叙情的で美しいエピソード。
カヴァナー先生、前回で「悪人を野放しにした」と悩み、奥さんから「検察の仕事をもっと請けるようにしたら?」と言われたからなのかどうなのか、今回は検事(訴追側のバリスタ)として法廷に立つ。英国の弁護士は検察側・弁護側のどちらから依頼を受けても良いらしい。英国の刑事裁判のシステム、いまだにどうもピンと来なくて困る。これは歴史的な理由からではないだろうか。つまり革命や敗戦で制度が断絶していない国というものは、システム全体をドラスティックに変えるタイミングがなく、歴史的経緯を重ねるうちに複雑な、というか外国からは理解し難い制度ができあがっているのではないかと想像。しかも、21世紀に入ってからもなお変更が重ねられているので、このドラマ(95年放送)の描写も、もう古くなっている部分はあるだろう。
それはさておき、今回の事件は私人訴追(private prosecution)。日本もアメリカも起訴独占主義を取っており、刑事事件で起訴できるのは検察官に限られるが、イギリスでは一介の市民が弁護士を雇って自ら刑事裁判を起こすという制度がある。まぁ、制度上可能といっても現実には滅多にないことらしいが。民事訴訟を起こさず、敢えて刑事事件にしたのは、「正義を行うこと」が目的だったものと思われる。
カヴァナーは事件を引き受けたものの、事件当夜は大雨で証拠も残っておらず、目撃証人も信頼性はいまいちで苦戦を強いられる。しかし、リサがカヴァナーの追及に対してうっかり口を滑らせた一言がカギになって一気に形勢逆転。ここで矢継ぎ早に質問を浴びせるカヴァナーの台詞のテンポと法廷の緊迫した雰囲気が素晴らしい! 恋人をかばおうとしてウソを言っていたのが、次第に辻褄を合わせられなくなったあげく、限界を超えて事実を口にしたその瞬間から、もう事実を言うしかなくなってしまうという様子が緊迫感とともに伝わってくる。
評決は有罪。しかし被害者はすでに脳死状態で、回復の可能性はない。母親が臓器提供を承諾し、号泣しながら生命維持装置のスイッチを切る場面が悲しかった。
さて、以上のようなメインの事件の合間に、女性弁護士のジュリアと実習生アレックスの奮闘ぶりや、カヴァナー家のプライベートな事情などが描かれる。息子のマットが学校で問題を起こし、それに悩まされる場面も。問題といっても、学業不振とロッカーに落書きした程度だけど(アメリカドラマじゃ学校で銃乱射だよ)。
— Yoko (yoko221b) 2011-05-01