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Law & Order - Season 3, Episode 13
#57 Night and Fog
- 邦題:「ホロコーストの生き残り」
- 監督:Ed Sherin
- 脚本:Michael S. Chernuchin, René Balcer
- 初回放映:1993-02-03
There's no Supreme Court of Ethics, my friend.
事件概要
People vs. David Steinmetz (判事:Rebecca Stein)
アーシュラ・スタインメッツという年配の女性が自宅の寝室で死亡しているところを発見される。そこへ、散歩に出ていた夫のデイヴィッド・スタインメッツが帰宅し「私が妻を殺した」と言う。アーシュラはMS(多発性硬化症)を患い、夫に「死にたい」と言ったため、デイヴィッドは自分の睡眠薬を飲ませ、いたたまれずに外出していたという。
だが検死報告により、アーシュラが摂取した薬剤は死に至るには少なすぎることがわかる。さらに聞き込みを続けると、デイヴィッドがいったん外から戻り、その後再び外出したこともわかる。家の物置には新しい血のついたクッションが隠されていた。夫人が床に倒れて鼻血を出し、夫がクッションで窒息させた可能性があった。
スタインメッツ夫妻は洋服の仕立て屋を経営しており、従業員によると夫婦仲は円満だった。だが、ある時ポーランドの新聞でヤコブ・スクルマンというナチスの戦犯に関する記事を読んで夫人が怒り、口論になったことがあったという。2人はポーランド出身で、第2次大戦中はナチスの強制収容所に入れられていた。
スクルマンは強制収容所に収容されたユダヤ人だが、軍服の縫製工場を任されていた。そこではユダヤ人にユダヤ人を支配させるというシステムが使用されており、スクルマンは「ユダヤ人に労働力としての価値があることがわかれば生存の可能性も高まる」と思い、他のユダヤ人を酷使する傾向があったという。スクルマンとスタインメッツは同年代。同時期に同じ収容所におり、任されていた仕事も同じだった。アーシュラは別の収容所にいたが、同じ境遇の仲間が集うグループセラピーに行き、そこで戦犯のスクルマンが実は自分の夫なのではないかという疑いを抱いた可能性があった。それはスタインメッツに殺害の動機があったことを意味する。
スタインメッツは逮捕され、ユダヤ系の有名弁護士ローエンタールが弁護人に就任。
入国管理局とユダヤ人ソサエティの記録をつき合わせて見ると、スタインメッツとスクルマンは明確に同一人物だと特定はできないものの、別人だと証明することもできなかった。さらに司法省からは「スタインメッツをポーランドに引き渡せ」という横槍が入る。
スタインメッツが有罪になれば、彼は妻殺しの罪で収監される。年齢から考えて獄死するであろうことは目に見えており、彼が50年前に犯した罪は世界から忘れられる。無罪になればポーランド政府が別人を戦犯として送還しようとしているという主張に根拠を与えることになる。どちらにしても大量殺人の隠蔽に手を貸すことになるとストーンは悩む。シフは「我々の管轄内で一人の女性が殺害された。最優先で考えるべきはその事件だ」と助言する。事件はマンハッタン地裁で扱われることになる。
アーシュラは、夫の正体をどう考えていたかをラビに話していた。娘の同意により秘密保持の特権が破棄されたため、ラビは「夫人は夫とスクルマンが同一人物だと確信していた」と証言する。
だが、娘のマーラは法廷に立ち「母は病気を苦にしており、死ぬ数日前に私に遺書の保管場所を告げた」と証言する。マーラはそれまで遺書のことは何一つ言わず「自殺を思わせる言動はなかった」と供述していた。ストーンは、父親をかばうための偽証と判断し、マーラを偽証罪で起訴しようとする。
スタインメッツは、娘の起訴を取り下げることと裁判記録を封印することを条件に、第2級謀殺罪で25年の刑に服すことを受け入れる。記録を封印することでマーラが本当に守ろうとしたのは、父親ではなく自分の息子だった。
感想
タイトルの “Night and Fog” は文字通り「夜と霧」(Nacht und Nebel)すなわち、第二次大戦中にヒトラーの密命により、ユダヤ人や反体制活動家が密かに連れ去られたことを意味する。だが「夜と霧」というとやはり、ヴィクトル・フランクルの著作が思い浮かぶ。もっとも、これは邦題がそうなだけで原題は全然違うのだが。これを読んだのは高校生の時だが、その夜ショックで一睡もできなかったことを覚えている。
最初はシーズン1「The Reaper's Helper(死神の使い)」のような話かと思った。妻への愛から自殺に手を貸した70歳の老人を罪に問うつもりか、と聞かれたストーン検事が「不起訴にすれば同じような慈悲殺を装った殺人が起きるおそれがある」と答えていたが、そういえば「死神の使い」でも模倣犯が現れたことで起訴を維持せざるを得なくなったのだった。
だが、起訴の方針を継続したことで思わぬ真相が明らかに。
スクルマンが被収容者を虐待した件は、あの時代にあの状況に置かれていたことを考えれば、後の時代に生きる者が軽々しく非難してよいこととは思わない。だが、スタインメッツとして夫人を殺害したことは話が別だ。これはやはり、利己的な動機による殺人罪ではないだろうか。何の罪もない女性の命が不当に奪われたことは、たとえ結果としてスクルマンの罪が忘れられたとしても、決して軽い事件として考えるべきではない――ストーンとシフの会話の場面からは、そのような主張が感じられた。
それにしても、何と重いテーマの作品であることか。WAT で似たようなテーマのエピソードがあった時は、作品は作品として楽しめたのだけど、このエピは骨太すぎるというか、展開を追うだけでぐったり疲れてしまう感じ。
弁護人のローエンタールが「スクルマンは少数を犠牲にして多数を救ったのではありませんか」と聞いた、その非情な尋問に対して、証人が何も答えずに弁護人をねめつけた表情が強い印象を残した。
— Yoko (yoko221b) 2008-07-14