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Law & Order - Season 5, Episode 7
#95 Precious
- 邦題:「私を愛して」
- 脚本:René Balcer, I.C. Rapoport
- 監督:Constantine Makris
- 初回放映:1994-11-09
事件概要
People v. Eileen Willach and Martin Willach (判事:Manuel Leon)
公園でマーティ・ウィラックという男性が「娘のエミリーがさらわれた」と警官に助けを求める。エミリーはまだ赤ん坊で、公園で少しうたた寝をしていたすきにさらわれたという。ただちに捜索体制がしかれ、怪しい男性を目撃したという母親が現れるが、その男は子役を探していたコマーシャルエージェントだった。
だが調べを進めるうちにマーティの供述に不自然な点が発見され、ブリスコーは彼を疑い始める。2人はマーティを呼んで取り調べ、ついにマーティはクーラーボックスに赤ん坊を入れて埋めた場所を自供する。死因は窒息だが首を絞めたわけではなく、鼻と口を塞がれたか、あるいは突然死症候群の可能性もあった。
マーティは「明け方に目が覚めると、エミリーはすでに死んでいた。妻を守るために遺棄した」と主張。母親のアイリーンは「子どもが突然死ぬと、いつも親が非難される。それが怖かった」と言う。
アイリーンは「子どもが病気だ」と何度も病院に通っていたが、医師の話ではエミリーには特に異常がなく、アイリーンはただ神経質なだけだろうと判断していた。刑事たちはそこで、ウィラック夫妻には他にも子どもがいたことを知る。エミリーの前に生まれていた息子と娘はそれぞれ5ヶ月と3ヶ月で、いずれも突然死症候群で死亡。主治医は「遺伝性の代謝異常」と診断していた。その医師はウィラック夫妻に養子を取ることを勧め、実際に夫妻は健康な子どもを引き取って育てようとしていた。だが、アイリーンが子どもを窒息させようとした疑いがあり、子どもは再び施設へと戻されていた。
殺害を直接証明する根拠はなく、キンケイドは立件をためらうが、結局アイリーンはエミリーの殺害で、マーティは犯人隠避罪(hindering prosecution)で逮捕される。
専門家の話からは、枕で顔をふさげば突然死症候群を偽装することは簡単にできることや、アイリーンが代理ミュンヒハウゼン症候群と思われることなどがわかる。マーティの姉はアイリーンが子どもを殺しているとずっと疑ってきたと話す。だが、すべてを知っているはずのマーティはあくまでもアイリーンを庇う。
結果、9名の陪審員は有罪と判断するが、3名は「十分な根拠がない」と意見が分かれる。シフから弁護側と取引しろと言われたマッコイは、アイリーンが避妊手術をするなら応じても良いと口にする。キンケイドは「政府が個人の身体に干渉する権利をいったん認めたら、際限なく差別を認めることになりかねない」と、ナチスの例を出して反論するが、マッコイは「これは例えば民族浄化のような物ではなく、連続殺人犯が新たな犠牲者をうまないようにするための措置だ」と主張。
判事はもちろんこれを認めるはずもなく、条件抜きで取引を行うか、でなければマッコイを事件から外すと言い渡す。だがマッコイは、供述書を書いた医師が産科医であったことから、アイリーンが現在妊娠中であることに気づき、「1年後、また別の子の墓前に立っていることになっても良いのか」とマーティに迫る。マーティはようやく「妻には治療が必要だ」と認め、エミリーが死んだ夜にアイリーンが枕を手にして立っていたことを話し始める。
感想
怖い! アイリーン役の女優さんの演技がものすごく怖いエピソードだった。ちょっとシーズン1の「Indifference(親失格)」を思い出させるような怖さ。代理ミュンヒハウゼン症候群(関心や同情を集めるために子どもなど身近な人間を傷つける)を扱ったエピソードは他のシリーズにもあったが、見るたびに「どこまで自覚があるんだろう?」と思う。健康な子どもをわざわざ傷つけているということをわかっているのだろうか。今回のアイリーンの例で言うと、枕で窒息させているその瞬間、我が子を殺害しているという自覚を持っていたのだろうか。
今回のエピソードには、警察・検察パートの双方に印象に残る場面があった。前半部では、ローガンと役割分担をしながらマーティを徐々に説き伏せて自供を得たブリスコーが「本当のことを言ってくれた、君は良い父親だ」と言った直後、部屋を出ると同時に “son of a bitch.” とつぶやく場面。そして後半ではアイリーンの避妊をめぐる検事たちの会話。
ケヴィン・クーリエとスーザン・グリーンによる解説書 "LAW & ORDER - the unofficial companion" によると、マッコイを演じているサム・ウォーターストンは、リベラルな立場から当初このマッコイの主張に難色を示したという。脚本家のバルサーは「政府はすでに個人の身体に干渉している。政府は個人が自分の身体に薬物を打つことを禁じ、個人の身体を徴収して軍服を着せて危険な場所へ送り出しているじゃないか」と言って説得し、最終的にその時の会話がそのままマッコイたちの台詞として採用されたのだそうだ。このような議論を繰り返して、ジャック・マッコイという人物像が少しずつ確実に造られていくのね。
TV.comにはこのエピソードの元ネタとして「Mary Jane Boot事件」が挙げられていたが詳細不明。Mary Jane Bootでぐぐっても、靴(ブーツ)のブランドしか出てこないし。1942年のスキナー対オクラホマ (Skinner v. Oklahoma) 事件については、CSI:NY シーズン1の「三世代で終わりに…」を参照。
— Yoko (yoko221b) 2010-04-16