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Law & Order - Season 5, Episode 10
#98 House Counsel
- 邦題:「顧問弁護士」
- 脚本:Michael S. Chernuchin, Barry M. Schkolnick
- 監督:James Quinn
- 初回放映:1995-01-04
事件概要
People v. Vincent Dosso and John Furini (判事:Andrew Barsky、Maria Gance)
デイヴ・ランパートという男性が、帰宅途中で何者かに射殺される。目撃証言から、障害の前歴があるジョン・フリーニが現場にいたらしいことがわかるが、ランパートは市の職員でギャンブルや飲酒の問題などもなく、マフィアとの関わりは見つからない。だがその後、ランパートが殺人事件の陪審員を務めていたことわかる。それはマフィアの親玉ヴィンセント・ドッソがジョン・オマリーという人物を殺害したとされる事件で、フリーニはドッソの手下だった。
その裁判は評決不成立 (hung jury) で再起訴もされておらず、殺害の動機にはならないはず。何か背景事情があるのでは、と刑事たちは裁判所の職員を説得して他の陪審員の氏名を聞き出す。どうやら他の陪審員たちに1人で反対して評決不成立に持ち込んだのがランパート自身であったらしい。ランパートが買収され、その後口封じに殺害された可能性が生じる。
ランパートの元妻プリシラに話を聞いたところ、娘の学費の工面で困っていたことを認めた。そして、ランパートが陪審員になっている時に「自分たちのことを何でも知っている」男が現れ、裁判が終わった後にランパートが娘の学費を払ったという。プリシラは、フリーニが訪ねて来たことを認める。
ヴァン・ビューレンは、ドッソのクラブを組織犯罪課(OCCB)が盗聴していることを思い出し、それらしい会話を拾い出す。彼らも盗聴には気づいているので会話は隠語でなされていたが、その示す内容は明らかであり、ドッソとフリーニは逮捕される。
ドッソの弁護に就いたコペルは、マッコイの旧友。コペルは「盗聴の根拠となった令状は、フリーニの電話に対して発行されたものであり、ドッソの名前は令状に記載されていなかった」と、録音テープの排除を申し立てる。フリーニの弁護人のマーフィは、「この令状はジョン・オマリー殺害事件のために発行されたので今回の事件とは無関係だ」と、やはり排除を申し立てる。判事は「テープはドッソに対しては却下するが、フリーニに対しては証拠として認める」と決定する。
証拠からフリーニの関与は明らかだが、ドッソにはつながらない。マッコイはライカーズにフリーニを訪ね、「ドッソはお前を見捨てるつもりだぞ」と説得して協力を取り付ける。そこで改めて盗聴を行い、ドッソを再び逮捕。だがコペルは、今度は「弁護士と依頼人の会話の秘匿特権」を理由に排除を申請。その会話にはコペル自身が加わっており、ドッソとその会話相手ジェナロは2名ともコペルの依頼人であった。判事はコペルの言い分を認め、テープを排除する。
People v. Paul Kopell (判事:Carol Bonelli)
テープの他に有力な証拠はなく、行き詰ったかに思われたが、マッコイは録音された会話でランパートの私生活に言及されていることを不審に思い、「そもそもドッソはなぜランパートを選んだのか」を考える。コペルは陪審員を選ぶ質問で最も買収しやすい陪審員を選び出し、法廷の職員を買収して個人情報を得ていたのだ。
担当の職員は情報を漏らしたことを認め、コペルは殺人の共同謀議で逮捕される。コペルは、証拠品の録音テープはすでに秘匿特権によって排除されていると主張するが、マッコイは、コペルがドッソの犯罪行為に全面的に関わっていることから、「すでに代理人ではなく、事実上は当事者(participant)である」と主張する。
マッコイは、コペルがドッソの法的代理人として機能していなかったことを証明するため、フリーニと取引をして証言させる。フリーニは、刑期を5年に短縮することと「法廷で証言することすべてに関しての免責」を要求し、ランパート殺害の算段をした時にコペルが同席したことを証言。判事はそれを聞いてコペルは「法的代理人の範囲を逸脱している」と判断、マッコイの言い分を認めてテープを秘匿特権の対象外とする。
だがマッコイが意図していなかったのは、フリーニがランパート殺害とともに、オマリーと他2名の殺害を証言したことだった。フリーニは4名を殺害しておきながら実刑はわずか5年であり、「ドッソを売らない」と明言していたので、本来のターゲットだったドッソの再起訴はさらに困難になってしまった。マッコイはコペルがドッソを裏切って取引に応じることを期待するが、コペルはそれを拒否し、自ら弁護人となる。
コペルは「刑事弁護人は全力をあげて検察の主張の隙を突く。検察の主張がそれに耐えられて、初めて冤罪の可能性を否定できる。司法制度には『敵』の役割が欠かせないのであり、それを根拠に弁護人を罰してはいけない」と主張する。対してマッコイは「刑事弁護人は、依頼人を無罪にするためなら、事実も証拠も平気で捻じ曲げる。それが彼らの役割ではあるが、コペルが陪審員リストからランパートの名を選び出した瞬間、彼は弁護人ではなくなったのだ」と弁論。コペルは有罪の評決を受ける。
感想
組織犯罪を裁くのは大変だなぁ。マフィアの親玉を仕留めようとすれば、手下と取引するしかない(親分は命令を出すだけなので物証は望めない)が、組織の一員がそうそう協力してくれるはずもない。証言をあっさりOKしたら、何か裏があると思うべきなんだな。
今回はそれに加えて弁護人がマッコイの旧友であるという因縁の対決。このコペル弁護士があの手この手で証拠を封じようとする。有力な証拠がなくなれば検察側の証明は格段に弱くなるので、証拠の排除は常套手段ではあるが、ここまで執拗に攻撃して勝利を収めた弁護人も珍しいのではないか。対するマッコイも負けていないので、だんだん泥仕合のようになってきてしまった。
このエピソードは法廷対決もすごかったが、ジャック・マッコイという人物に対して、ようやく共感できるようになってきたなと実感させるエピでもあった。コペルの妻の「夫は勝つことにこだわりすぎているかもしれない。でも貴方(マッコイ)も逆の立場から同じことをしている。最後には2人とも負けるのよ」という言葉、これがこの2人の対決をストレートに言い表していると思った。
「勝つことにこだわりすぎる(勝ちたいと思いすぎる)」というのは、今までのエピで私自身がマッコイに対して思っていたことで、マッコイへの反感の理由でもあった。ストーン検事の時には、たとえば「検察として罪を見逃すわけにはいかないが、必ずしも有罪は望まない」という理由で、社会の利益のために負けても良いという判断もあった。それを思うと、マッコイの姿勢は時に強引すぎるように思えたし、正義と勝ち負けは別の問題だろうと思ったこともあった。今回にしても、最終弁論の文言だけを見ると(やっていることは別にして)コペルの方がむしろ正論を言っているように思えたし、マッコイに対しては刑事弁護人の仕事自体を否定しちゃいかんだろと思ったほどだ。
今回このエピの中では、その印象や反感がドラマの中でマッコイに対してストレートに投げつけられたわけだが、不思議とマッコイに対して反感は持たなかった。最終弁論のあの言い方は確かにいただけないが、主張の中心は「コペルの行動は弁護士の職務を逸脱していた」ことの方だし、マッコイ自身もこの戦術を好んではいないように見えた。有罪評決を聞いたマッコイの表情が冴えなかったのは、友人が犯罪者だからという理由だけではないと思う。評決は有罪でも、ああいう戦術を取らざるを得なかった時点で、これは一種の敗北ではなかったか。
ジャック・マッコイは決して完璧な人物ではないし、単純に正義を体現するだけの存在でもない。L&Oは最後に決まって正義が勝つドラマでもない。だがマッコイには、正義を希求する彼なりの信念が確かにある。ここまで10話、長かったが、これで安心してマッコイ時代のL&Oに付き合って行けそうだ。
……と、今回はマッコイに大いに注目してみたが、敵役コペルの描写も説得力があった。通常こういう役回りだと、正義の味方である検事に対してただただ邪悪でずる賢いだけの存在になってしまいがちだが、マフィアのボスの弁護人を務めるうちに、彼らの「マッチョな男らしい世界」に魅了されていったというコペルの言葉は、マッコイとは違う意味で人間的に共感できるものであった。むろん、コペルの行為は弁護士の職務を逸脱した犯罪行為であり、それは罰されて当然なのだけど。
判例(詳細は未確認):
- Harris v. U.S. :捜索と令状の範囲に関して
— Yoko (yoko221b) 2010-05-10