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Law & Order - Season 5, Episode 13
#101 Rage
- 邦題:「ブラック・レイジ」
- 脚本:Michael S. Chernuchin
- 監督:Arthur W. Forney
- 初回放映:1995-02-01
You're nothing but a thief and a murderer hiding behind your race.
事件概要
People v. Benjamin (Bud) Greer (判事:Michael Callahan)
証券会社に勤務するウォレス・ホルブルックが自宅で死亡。一見、拳銃で頭を撃って自殺したように見えたが、調べてみると死因は首の骨を折られたこと。頭を撃ったのは偽装だった。ホルブルックの部下でトップトレーダーのバド・グリアーは、当初「事件当日はオフィスで仕事をしていた」と言うが、調べてみるとホルブルックの自宅へ行ったことがわかる。
グリアーの犯行であれば、血痕の付着した衣類があるかもしれない――と、自宅を捜索すると、彼自身の不正取引に関する報告書が発見される。それはホルブルックが調べさせたもので、日付は殺害の2日前。また、ホルブルック家の浴室からは、グリアーの部分指紋が発見され、グリアーは逮捕される。
グリアーの弁護人は、報告書の押収は違法であると訴える。捜索令状は、血痕の付着した衣類を探すためであって、報告書のためではないので、第4修正条項違反だという。検事は、「令状は衣類および犯罪を立証する物(tend to establish the elements of the crime)」を対象としている」と反論するが、報告書は「犯罪の動機」に関わるものであり、犯罪そのものを立証しない。判事は弁護側の言い分を認め、報告書を証拠から排除する。
グリアーの父親は「息子は大学に出願する際、自分が黒人であることを申告せず、人種による優遇措置ではなく実力で合格した」と言う。グリアーはクイーンズ地区で育ち、友達は白人のケネス・プライスのみ。同じ学校に通っていた生徒たちのうち、白人の子は「自分より頭が良いから」とグリアーを嫌い、黒人の子は「白人とつるんでいるから」とやはりグリアーを嫌っていたという。グリアーが以前に勤務していた会社の上司に話を聞くと「成績優秀なので雇ったが、自分の学歴に胡坐をかいて仕事をしないので解雇した」という。そこでマッコイは、「グリアーの業績は不可避的に捜査の対象になったはず」だと主張し、報告書は再び証拠として採用される。
グリアーの弁護人として、人種問題で活動するジェローム・ブライアントが加わり、事件は人種問題に発展する。ブライアントはまず「グリアー氏が容疑者になったのは黒人だったからであり、捜索全体が違法である」と主張するが、ローガン刑事が「グリアー氏は被害者と親密であり、また逮捕歴があったため捜査対象になった」と証言し、その主張は却下。次にブライアントは、「ブラック・レイジ」を主張。
公判ではグリアーの同僚や経営者が証人となり、人種が原因でグリアーが笑いものになったり冷遇されたりしていたことを証言する。専門家は「アメリカの黒人は、労働力として売られてきたという歴史的経緯を持ち、ハイテク化で『自分は不要になった』という意識から自己嫌悪や疎外感を持ちやすい。その感情が、自分を苦しめる象徴的な相手に対して噴出する」と証言する。
グリアーは証言台に立ち、ホルブルックから不正の証拠をつきつけられた時のことを証言する。ホルブルックは「ニガーにこんな業績が上げられるわけがないとわかっていた。ジャングルに帰って、サルからココナツを盗むがいい」と言ったという。
それを聞いたシフは取引を命じ、マッコイは渋々話し合いを持つが決裂。だがその後、グリアーには有罪の評決が下される。
感想
前回に続いて、またもや重量級のエピソード。法廷での緊迫したやり取りは見ていていささか疲れるが、これぞ Law & Order! な手ごたえを感じるわ。
そしてこれも前回と似ていると思ったのは、被告側(=マイノリティ側)の主張する「正当性」の根拠を徹底して奪い、抽象的な議論を排除して、あくまでも「事件」を描こうというストーリー展開。前回のマッコイとキンケイドのやり取りを使って言うなら、ホルブルックは黒人を侮辱したために死んだのではなく、グリアーが首の骨を折ったから死んだのだ、ということになるだろう。
グリアーがホルブルックに言われたという罵詈雑言は確かにショッキングだし、職場での嫌がらせがあったこともわかる。でも、やっていることは何かという事実だけを見ると、彼は不正取引で架空の業績を上げ、事実を突き止めた上司を殺害したわけで、これは普通に考えて同情の余地のない冷酷な犯行なんじゃないかと思う。ホルブルックの暴言も、他に聞いていた人がいるわけじゃないし、「ここまで言えば黙るだろう」的な計算に見えなくもない。
敢えてこのようなストーリー展開にしたことで、人種問題を正面から論じることを「避けている」という批判もあるかもしれないが、Law & Orderの主役はやはり「事件」であるし、裁かれるのは何よりもまず殺人事件であるべきだと思う。それにグリアー自身についても、単なるずる賢い男としては描かれていない。生い立ちに言及し、それなりの背景を抱えているのだということが明らかにされている。
今回の事件の元ネタになったのは、NYの電車内で銃を乱射して6名を殺害、19名に怪我をさせたコリン・ファーガソン事件とのこと。Colin Ferguson で検索すると、同名の俳優の記事ばかりヒットするので調べにくい。この事件は1993年の12月に発生して、有罪判決が出たのが1995年2月17日。このエピの放送が1995年2月1日だから、けっこうすごいタイミングだ。「英雄たちの軌跡(White Rabbit)」に本人役で登場したウィリアム・クンスラー弁護士も、当初は弁護人になっていたらしい。
グリアーが主張した「ブラック・レイジ」はファーガソン事件で提唱された考え方で「白人優位の差別的な社会で黒人は精神的にダメージを受けており、それが異常な行動を取らせる」というものらしいが、結局ファーガソン事件では、被告人が自分は無実だ(銃を撃っていない)と主張したためお蔵入りしたとのこと。
被告人のグリアーを演じたCourtney B. Vanceは、その後スピンオフのCIに検事役でレギュラー出演(マッコイの同僚ってことじゃないか!)。弁護士役のWendell Pierceは The Wire のバンク役なので、どうもイメージに落差があって困る。
ラストシーンでは、黒人の紳士を避けてマッコイの前でタクシーが止まる。マッコイは順番を譲ったかな。
— Yoko (yoko221b) 2010-06-16