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Law & Order - Season 5, Episode 18
#106 Privileged
- 邦題:「悪夢と現実」
- 脚本:Jeremy Littman, Suzanne O'Malley
- 監督:Vincent Misiano
- 初回放映:1995-04-05
事件概要
People v. Steven Alan Smith (判事:Simon Mikelson)
デイヴィッド・ラーナーと妻のアイリーンが自宅の寝室で惨殺される。血痕の状態から、まず妻が襲われ、目を覚ました夫が犯人と争って殺害されたものと思われた。凶器は発見されていないが、台所から傷の形状に一致する包丁がなくなっていた。貴重品は何も盗られておらず、夫妻の命を狙った犯行か居直り強盗かは判然としない。夫妻は善良で職場でも慕われており、殺害の動機を持つ者はいなかった。
夫妻は前年に引っ越して来て家を改装中だったため、寝室からは大量の指紋が検出されるが、ベッド枠と窓枠に付着していた血染めの指紋は身元不明。ブリスコーとローガンは犯人が不便な場所から出入りしていることに疑問を抱くが、現場を調べるうちに、犯人の侵入経路が改装前の警備システムを避けていることに気づく。夫妻の前にそこに住んでいたのは、離婚専門の弁護士ウォレン・バートレットだった。
刑事たちはバートレットを恨んでいそうな人物に話を聞くうちに、大学生の息子が薬物の問題を抱えているらしいことを知る。バートレットには実子がなく、スティーヴン・スミスという里子を引き取って育てていた。調べてみると、スティーヴンは事件当日、飲酒運転して現場近くで軽い事故を起こし、その後断酒会のミーティングで「両親を殺す悪夢を見た」と話していたことがわかる。寝室の血染めの指紋が一致し、スティーヴンは逮捕される。
弁護人は、指紋を取った根拠となる断酒会のミーティングは、医者と患者の関係のように秘密が守られるべきであり、それを侵害して得た指紋は排除されるべきだと主張するが、判事はそれを却下。弁護人はそれを聞いて、無罪答弁を「心神喪失により無罪 (not guilty by reason of mental defect)」に変更する。
スティーヴンはオリヴェット医師の面接を受け、事件の記憶がないと主張する。オリヴェットはそれを信用するが、アルコールによる記憶喪失は弁護側の主張する心神喪失とは異なる。弁護側の主張はあくまで「スティーヴンは犯行当時、自分が何をしているか自覚していなかった」ということなのだ。マッコイは、実際のところどうだったのかを知るため、スティーヴンに催眠術をかける。
スティーヴンは催眠状態で、母親から虐待を受け彼女を殺したことを思い出す。つまり、スティーヴンには自分のしていることの自覚があり善悪の判断もついていたので、心神喪失を主張できないことになるが、弁護人は今度は正当防衛を主張。スティーヴンは飲酒と事故のショックで12歳当時の少年に戻ってしまい、その状態で母親を殺害したのだ。だがマッコイは、事件当時ラーナー夫妻は就寝中だったので正当防衛は成立しないと判断する。
弁護人は、被虐待児の精神分析に関する専門家とバートレット夫人を召喚。夫人は、スティーヴンを虐待し、包丁を振りかざしたことを証言する。
マッコイは、弁護側が夫のバートレット氏に証言させなかったことを不審に思い、バートレット氏を召喚。バートレットは「自分は仕事が忙しく妻の虐待に気づいていなかった。自分はスティーヴンを守ってきた」と証言。であるなら、スティーヴンには父親(実際にはラーナー氏)を殺害する理由はなかったことになる。父親による虐待はなく、事件当時のラーナー氏も無防備な状態なので正当防衛は成立しない。マッコイは、アイリーン・ラーナー殺害の起訴を取り下げ、デイヴィッド・ラーナー殺害の事件のみ維持すると表明。判事はマッコイの言い分を認め、陪審員には「正当防衛の主張は考慮しないように」と説示する。
スティーヴンは第2級謀殺で有罪の評決を受ける。
感想
冒頭に「架空の事件ですよ」の注意書きテロップが出ていた。エンドクレジットの時でなく冒頭(オープニングナレーションの前)に出てくるのは珍しい。何か特に強調したいことでもあったのだろうか。シフとマッコイの会話にメネンデス兄弟のことがちらっと出て来たが、それを意識してのことなのだろうか。この兄弟は両親を殺害した後、虐待を受けたという理由で無罪を主張しており、このエピソード放映当時は、最初の裁判が評決不能になり2度目の裁判が行われる予定になっていたらしい。あるいは、この事件は実際にNYのウェストチェスターで起きた事件(人違い殺人)を基にしているらしいので、そっちの方かも。
さて、今回は状況に応じて弁護側が証拠を排除して無罪から心神喪失、さらに正当防衛へとくるくる主張を変え、マッコイもあの手この手で応戦。マッコイとて「何が何でも有罪」というわけではなく、本当に心神喪失なら病院へ収容するべきなので真相をはっきりさせたい、ということなのだろう。その言葉に嘘はないと信じる。でも、このエピの流れを見ていると、人を裁くってどういうことなんだろうと考え込まずにはいられない。
弁護側の主張に対抗してマッコイが最後に仕掛けた発想の大転換。それまでとまったく異なる「事実」が展開されてしまうことに驚くとともに恐ろしくなった。それまでは「正当防衛」ということで、被害者2名の殺害を同じように見てきたはずなのに、「母親殺し」の事件を棄却して消滅させると、無実の父親に対するまったく正当性を持たない殺人だけが残る? ええー、そんなのあり? だって弁護側の主張では、スティーヴンは「殺さなきゃ殺される」と思い込んで殺したわけで、その途中で邪魔が入れば当然応戦することになると思うのだけど……。
養父のバートレット氏が「私もスティーヴンを虐待した」と言っていれば、正当防衛は認められたのだろうか。実際のところ、父親は直接虐待はしないまでも、見て見ぬふりだったのじゃないかな……という気がする。スティーヴンは「ママを殺さなきゃ僕が殺される」と思ったかもしれないが、「パパ助けて」とは一言も言ってないんだよね。
ところで、今回のエピでは「血痕分析」がちょっと詳しく説明された点にも注目。CSIの放送が始まる5年前の作品だが、科学捜査も少しずつ浸透してきているのかな。
それにしても、人違いで殺されたお二人には、本当に何の落ち度もなかったわけで、お気の毒としか言いようがない。
判例(詳細は未確認):
- Rock v. Arkansas:催眠状態下での証言について
— Yoko (yoko221b) 2010-06-29