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Law & Order - Season 6, Episode 9
#120 Blood Libel
- 邦題:「学園の傷」
- 脚本:I.C. Rapoport
- 原案:René Balcer, I.C. Rapoport
- 監督:Constantine Makris
- 初回放映:1996-01-03
事件概要
People v. Matt Hastings (判事:Horace Busey)
高校の美術教師サラ・アロンソンが夜の学校で絞殺される。サラはその夜、同僚の教師と食事をする予定だったが、妻の帰りが遅いことに気づいた夫がその教師に電話すると、サラは現れなかったという。そこで学校に電話し、用務員が美術室でサラの遺体を発見したのだった。現場には犯人の物らしい血痕が残されていた。
サラはしばらく前から無言電話を受けており、数学教師のコヴァックスとの間に何か問題があったらしいとわかる。当初は恋愛問題かと思われたが、実はコヴァックスは生徒から賄賂を受け取って良い成績をつけていたのだ。それをサラに知られ、コヴァックスは「もう賄賂は受け取らない」と約束していた。実際にコヴァックスは生徒たちに「サラに知られたから」取引はやめると言い渡していた。サラは脅迫を受けるようになったのはその後のことだった。
ブリスコーとカーティスは学校のロッカーを捜索し、サラへの脅迫文や殺害を示唆する絵を発見。絵のタッチから、描いたのはエドワード・キャマリロと思われたが、エドワードには犯行時刻のアリバイがあった。
ブリスコーは高校の年鑑を見て、エドワードや他のレスリング部のメンバー4人の紹介欄に「LKI」「KES」などのアルファベットが書かれていることに気づく。それらの文字を抜き出し、生徒の苗字のアルファベット順に並べ替えてみると「KILL ALL KIKES」というメッセージになった。kike はユダヤ人に対する蔑称であり、サラはユダヤ人であった。
4人は暗号メッセージについて「冗談だ」と主張するが、全員コヴァックスから成績を買っていたのでサラに対する動機はあった。アリバイのあるエドワードを除く3人は容疑が濃厚だが、判事が令状にサインしないため脅迫文の指紋を比較することもできなかった。現場にあった血液から犯人は糖尿病であることがわかっていたため、マッコイはドラッグテストを口実に尿を調べることを思いつく。4人はレスリング部の選手であり、Vernonia 判決によって運動選手に対する令状なしの尿検査は合法とされていたためだ。
検査の結果、マット・ヘイスティングスが糖尿であることがわかり、マットは逮捕される。マットの指紋も脅迫文にあったものと一致する。だが弁護人は、Vernonia の件とは状況が違うことを理由に結果の排除を申し立てる。Vernonia はあくまでも麻薬使用を調べる「ランダムなテスト」であり、特定の選手に狙いを定めた殺人の捜査とは状況が違うというのだ。判事はこれを認めて血液検査の結果を排除。これでマットに到達する証拠はなくなったため、事件は棄却されてしまう。
血液検査は排除されたが、まだ脅迫文などの証拠があるため、キンケイド検事は背景調査を行う。マットの部屋は反ユダヤ的な文学や音楽にあふれていたが、その一方で以前の恋人はユダヤ人。元彼女は、マットはユダヤ人を「知的だ」と褒めそやしていが、それは「ユダヤ人女性を恋人にして、他のユダヤ人少年より優位に立つため」だったと言う。彼はそうやって自尊心を保ち、自分の印象を良くしてクラス委員になり、プリンストンの早期入学と奨学金を得た途端に彼女と別れていた。彼女の話からエドワードが学校のカギの複製を持っていたことがわかる。エドワードはマットに鍵を渡したことを認め、マットは再び逮捕される。
今回はマットの主任弁護人として、KKKの弁護を行ったロイ・ペインが就任。ペインは、真犯人はコヴァックスであり、マットは「ユダヤ人の陰謀」により犯人に仕立てられたのだと主張する。公判が始まると、尋問では執拗にブリスコー刑事を標的にし、「コヴァックスがサラを殺害し、ブリスコー刑事が証拠を細工してマットを陥れた」という図式を描き、ヒステリックに騒ぎ立てる。ブリスコー刑事の父親はユダヤ人だったが母親はカトリックで、ブリスコー自身もカトリックとして育っていた。
マットは自ら証言し、学校でユダヤ人生徒たちにいつも貶められていたことや、彼らが邪魔をしたせいで恋人と別れたことなどを証言する。反対尋問に立ったマッコイは、名門大学への進学が決まったライバルたちの名前を挙げ「賄賂のせいで君は奨学金を失った、次は誰を非難する? 君自身の愚かしさが招いたことをユダヤ人のせいにするのか?」と挑発的に尋問。激昂したマットは「あのユダヤ女が僕を破滅させたんだ!」と口走ってしまう。
陪審員の評議は難航し、ついに評決不能という結論に至る。十分に売名の目的を果たしたペインは次の裁判には参加しないため、元の弁護人は取引を切り出す。その後陪審員のひとりがインタビューに応じ、評議は11対1で有罪だったと明かす。
感想
校内の不正問題かと思っていたら、実はヘイトクライムだったとは。
アルバムに載せていた謎のアルファベットを並べ替えて “KILL ALL KIKES” という文章が出来上がった、この場面はゾッとさせられた。この、年鑑に差別的なメッセージを仕込むというのは実際の高校であった話が元ネタらしい。
そして被告の弁護人がこれまた怖そう! KKKの弁護を務めた弁護士が自ら希望して弁護に就くが、これがいかにも「冷酷なナチの将校」といった感じの風貌で、キャスティングが見事だ。
公判が始まると、ブリスコー刑事をあからさまに敵視して強引に「陰謀の構図」を描き出そうとする態度でその印象はいっそう強化される。この攻撃があまりにも執拗なので、かえって逆効果になるのではないかと思っていたら、難航した挙句に評決不能、それが11対1だったとは。こういう事件なので検察側も弁護側も気合を入れて陪審員を選んだとは思うが、12人に1人くらいは陰謀論に染まっている人もいるということかな。
しかし肝心の弁護人は売名するだけしたら後は知らん顔で地元へ帰ってしまったというから何ともはや。引っ掻き回された挙句に放り出されたような形で気の毒といえば気の毒だけど、まぁこれは自業自得か。
マッコイの台詞に “Bill Kunstler is spinning in his grave.” という一文があったが、ビル・クンスラーは実在した弁護士で、シーズン5「White Rabbit(英雄たちの軌跡)」には本人役で登場している。
— Yoko (yoko221b) 2011-11-06