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Law & Order - Season 7, Episode 1
#135 Causa Mortis
- 邦題:「タフな助っ人」
- 脚本:René Balcer
- 監督:Ed Sherin
- 初回放映:1996-09-18
事件概要
People v. Fernando Salva (判事:Daniel Scarletti)
夜間高校の教師、モーリーン・ランキンの遺体が川べりで発見される。死因はパイプやスチール棒のような細い凶器で頭を殴られたことによる失血死。近くで被害者の目撃されており、カージャック犯がモーリーンを殺害して車を奪ったものと思われた。
モーリーンは自分の授業を録音するためにテープとレコーダーを持ち歩いており、テープは現場の近くに捨てられていた。再生してみると、カージャック犯らしき男に「フェルナンド」と呼びかけ、命乞いをするモーリーンの言葉が録音されていた。教え子に「フェルナンド」の名はなかったが、話の内容から彼がベルモントに住んでいることがわかる。
その後、被害者の車が発見される。乗っていたアナ・ガルベスは「これは私が買った車よ」と主張するが、やがて彼女が「フェルナンド」の婚約者であったことがわかり、フェルナンドは逮捕される。
新しくマッコイの下に就いたジェイミー・ロスは第1級謀殺で起訴しようとするが、マッコイは被告人が銃でなく棒で殴ったことを指摘し「殺意を証明できない」として第2級謀殺に落とす。
車や被害者の所持品から指紋等は発見されておらず、検察側の決め手はテープ。弁護人はそのテープを証拠から排除するよう要求する。テープの状態が悪く、録音された声と被告人の声紋は20~40%しか一致しない。また「フェルナンド」と名を呼ぶ声もモーリーン本人の物と断定できず、確実ではないためだ。判事は弁護側の主張を認めてテープを排除する。
ロス検事は同窓生で連邦検事をしているチャック・ロドマンに声をかけ「連邦のカージャック対策法なら殺意を証明しなくても死刑を求刑できるし、テープを証拠として採用する基準もNY州より低いので、連邦に任せてはどうか」と提案するが、マッコイは連邦検事を門前払い。「私のオフィスではボールの渡し合いはしない。モーリーン・ランキンは我々の管轄で殺されたのだ、訴追するのは我々の責任だ」と言い渡す。
そこで被害者の車が塗装し直されていた点から調べを進めたところ、アナが事件の3日前すでに車の色を選んでいたことがわかる。つまり彼らは犯行を事前に準備していたのだ。マッコイはアナを殺人罪で逮捕させる。
アナは免責と引き換えにフェルナンドが凶器を隠した場所を自供。発見された凶器からはモーリーンの毛髪と血液、フェルナンドの指紋が検出される。だが弁護人は「秘匿特権に抵触する」とこれも排除を要求。アナが凶器の隠し場所を知ったのは、弁護人とフェルナンドとアナの会話の中でのこと。現在アナは自分自身の弁護人を立てているが、その当時はフェルナンドの弁護人が両者の代理を務めていたのだ。判事は弁護人の言い分を認め、凶器を排除。
その後、フェルナンドの弁護人エイブ・マーサーと、アナの弁護人マーシー・ライトマンがオフィスを共有し、個人的な関係もあったことがわかる。つまりマーサーとライトマンはあらかじめ共謀し、まずアナを免責させ、採用されないとわかっていて凶器の銃を提出させたのだ。マッコイは「銃はフェルナンドに対しては排除されたがアナに対しては有効だ。州は免責に応じたが連邦法で訴追することもできる」と言って脅し、アナは、フェルナンドがカージャックを計画していたことを認める。アナは母親のために車を欲しがっており、フェルナンドは彼女のために「絶対に手に入れてやる」と約束したのだ。
陪審はフェルナンドに対し、第2級謀殺で有罪の評決を下す。判決公判では、モーリーンのテープが法廷で再生される。公判の証拠としては排除されたが、判決のための事実を収集する目的では認められたのだ。
感想
“Law & Order” シリーズは1996年9月にシーズン7に突入した。ケヴィン・クーリエとスーザン・グリーンの “Law & Order: The Unofficial Companion”(下記)によると、ここで L&O はその時点での最年長ドラマシリーズになったそうだ(CBSのジェシカおばさんはこの年5月に12シーズンで終了)。シーズン7のプレミアは18-49歳の視聴率が 7.9/22(レーティング/シェア)で、視聴者数は平均1,570万人だったとのこと。7.9/22 というのは現在ではちょっと考えられない数値で、たとえば現在のヒットドラマNo.1といえばCBSの「NCIS」だと思うが、2011年9月に放送されたNCISプレミア回の視聴率は 4.2/12 でしかない。
- TV by the Numbers (2011年9月21日)
そんな数字を出すくらいだから、文句なしのヒット番組でNBCの看板なのかと思ったらそうでもなかった。下記のランキングサイトを見ると、L&Oは27~28位のあたりにいる。TiVo やネット配信の影響もあるとは思うが、この頃の人々は今よりずっと熱心にTVを見ていたのではないか。トップ5をNBCが独占し、「ER」「となりのサインフェルド」「フレンズ」などの人気ドラマが名を連ねているのを見ると、現在の凋落ぶりに涙が出そうになる。
しかしトップ25には入っていないといっても、地道に安定した人気と品質を維持しているシリーズ。7年目に入りベテランドラマらしい貫禄が出てきたように思う。その印象は、新しく登場したジェイミー・ロス検事の存在に負う所が大きいのではないだろうか。キンケイド検事は清楚な優等生タイプだが、ロス検事はいかにも「プロフェッショナル」な感じで、ケリーやボチコの法廷ドラマに出てきてもおかしくない感じ。シングルマザーで、検事になる前は大手弁護士事務所に勤めていたとのこと。
さて事件。普段だと冒頭では、おしゃべりしながら歩いている2人組が遺体を発見して “Oh my God!” と叫ぶのが定番だが、今回は被害者が犯人に対して必死で命乞いをしている場面で始まる。この被害者が高校教師のモーリーン・ランキン。で、その夫がイアン・ランキンって何かの冗談ですか!(ミステリ作家のイアン・ランキンとは関係なさそうだけど)
アメリカではカージャックが連邦犯罪になるらしい。Wikipedia の記述によると、91年にデトロイトで起きた事件をきっかけに「カージャック」が独立した犯罪としてカテゴライズされ(それまでは単に「窃盗」)、翌92年にはカージャック対策法案が議会を通過して連邦犯罪になったとのこと。州ではなく連邦犯罪なのは、奪った車で簡単に他の州に逃げられるからだろうか? 連邦法を適用すると、犯行に及ぶ際に明確な殺意があったと証明しなくても死刑の求刑が可能であり、さらに証拠を採用する基準もNY州よりかなり低いので十分有罪に持ち込めそうに思われた。
- カージャック (Wikipedia)
と思ったらマッコイが門前払い。タンカを切ったのは良いが大丈夫なのか?と心配させられたが、二転三転してようやく一件落着となりホッとした。
というわけで、見た目は事件重視の通常営業で幕を開けたシーズン7だが、シーズン6フィナーレの出来事は、少なからず彼らの心に影を落としているように見える。
たとえばマッコイは、最初第1級謀殺で起訴しようとしたロス検事に対して「第2級謀殺に落とすように」指示する。理由は、犯人が射殺ではなく撲殺しているから、最初から殺すつもりだったとは証明できないというのだ。死刑の執行に立会い、その日の夜にあんな形でクレアさんを亡くしたことがトラウマになっているらしく、その点が「キャピタル・ケース」でやる気満々のロスや連邦検事との温度差になっているようにも見える。ロスの方にも、刑事弁護人だった頃に担当した事件で「被告人が法廷で強姦殺人事件の詳述を聞きながら性的興奮を見せ、無罪になった後にまた人を殺した」という辛い記憶があるようだ(法廷でのくだりは実話らしい)。
ブリスコー刑事も、あの事故のことが重く暗く影を落としている様子を見せる。カーティス刑事の浮気の件は、今回は特に言及がなく、まだこれから……という感じ。刑事の私生活は極力見せないL&Oだが、たまにはこういう描写も入る。時間配分としては微々たる物だが、印象は強かった。
ところでこの事件。元ネタは1996年3月(つまり放送の半年前)に起きたカージャック殺人、Kathleen Weinstein の事件らしい。被害者が女性教師、殺される直前にレコーダーのスイッチを入れて手がかりを残した、など数々の共通点がある。車が日本車なのも同じだ(トヨタだったのがドラマではニッサンになっていたけど)。
- Slain Teacher Made a Tape Of Abductor (NY Times 1996年3月20日)
また作中では事件名がいろいろ言及されていたが、同名の事件がいくつもあって調べるのが面倒なので名前だけ列挙しておく。
- People v. Brown : 出来事の経緯が自然に語られている証拠の採用を許可
- People v. McGee : 名前、住所、同居人の言及があれば同定には十分
- People v. Theriault : 誰の声かわからない状態で言及されただけでは、同定には不十分
- People v. Osorio : 弁護人と依頼人の会話は、第三者が同席している時には秘匿特権の対象にならない
- U.S. v. Holloway : カージャック関連
— Yoko (yoko221b) 2012-06-07