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Law & Order - Season 7, Episode 3
#137 Good Girl
- 邦題:「恋する二人」
- 脚本:Jeremy R. Littman
- 監督:Jace Alexander
- 初回放映:1996-10-07
事件概要
People v. Danielle Mason (判事:Rebecca Stein)
マンハッタンの大学に通う黒人青年のチャーリー・モンローが自宅で殺害される。被害者はドラッグや銃などに関わっている形跡はなかった。6年前に少年事件で逮捕されたことはあったが、チャーリーはいわば巻き込まれたようなもので、現在は真面目に暮らしているらしい。部屋には女性がいた形跡があった。
現場に残されていた古代ギリシャ美術の専門書を図書館で調べたところ、借りたのはジーナ・トゥッチという女子学生らしいとわかるが、実際には友人のダニエール・メイソンがジーナのカードで借りていた。ジーナとダニエールは、最初のうちは「犯行時刻には2人で一緒に図書館にいた」と主張したが、やがてジーナが「ダニエールにアリバイ工作を頼まれた」と認める。現場近くではダニエールの姿も目撃されていた。
現場にあった指紋が一致し、ダニエールは逮捕される。ダニエールは「図書館でチャーリーに誘われ、アパートで薬の入ったワインを飲まされてレイプされた」と主張する。薬のせいで抵抗できず、その後もう一度襲われそうになったので殺したという。カーティスはダニエールの言い分を信じるが、ヴァン・ビューレンは、デートレイプ薬でよく起きる記憶の欠落がないことや、警察に嘘をつきアリバイ工作をしたことなどから、ダニエールの話を額面どおりに受け取ることはできないと判断し、ダニエールは逮捕される。
大陪審に送るべきかで検事の意見も分かれる。現場には、チャーリーが薬物を使った証拠はなかったが、証拠を始末しなかったともいえない。レイプなら正当防衛であるし、レイプでなく合意であるなら殺害の動機がない。人種間のレイプは感情的な摩擦を引き起こしやすいことから、マッコイは消極的な態度を見せる。ロスは、ダニエールが現場近くに行ったのは初めてのはずなのに、タクシーを拾いやすい場所を知っていたことに注目するが、2人の周辺でいくら聞き込みをしても接点は見つからない。
チャーリーの両親は事態が動かないことに業を煮やし、弁護士を伴ってマッコイのもとを訪れる。そこで初めてマッコイはチャーリーに前歴があったことを知る。それはチャーリーが12歳の時のことで、記録には残らないはずだったのが、指示の手違いで残っていた物だったので、ヴァン・ビューレンは無関係とみなしてマッコイに告げていなかったのだ。しかし軽犯罪とはいえ性犯罪であったため、「被害者の印象を悪くし、さらに検察がその事実を隠したと思われる」とマッコイは不快感を示す。
モンロー夫妻の弁護士はダニエールを強制的に起訴するよう申し立てる。自供があるのだからさっさと起訴すべきであり、正当防衛を認めるかどうかは陪審に任せればよいというのだ。判事はモンロー側の言い分を認め、マッコイに起訴を命じる。起訴するかどうかは本来、検事の裁量のはずなので撤回を申し立てることも可能だが、シフは「被害者遺族を無視しているような印象を与える」ことを良しとせず、起訴を指示する。
公判が始まると、弁護人はあからさまにヴァン・ビューレンを標的として、彼女が「黒人被害者に不利な事実」を隠蔽し、部下の事件を横取りしたように印象付ける。
また、判事のもとには匿名で「陪審員のひとりが人種差別的な発言をした」という手紙が送られる。補充陪審員のトップは黒人女性。ダニエール側は「黒人陪審員を増やそうとする工作だ」と言い、モンロー側は「我々が工作したように見せる工作だ」と言い、お互いに人種を理由に「相手側が圧力をかけている」と主張する。
ロスがダニエールと父親の態度に注目したことで、マッコイは彼女の高校時代の話を思い出す。ダニエールはチアリーダーで黒人のスポーツ選手と交際していたが、事故で骨折してチアリーダーを止め、恋人とも別れたという話だった。だが医療記録を見たマッコイは、事故ではなく父親の暴力のせいだと気づく。「証言すれば、反対尋問でこの件を持ち出す」と脅されたダニエールは証言を取り止める。
評議は長時間に及ぶが、陪審がヴァン・ビューレンの証言を再確認したことから形勢不利と見た弁護人は取引を切り出す。マッコイは「第1級故殺罪で15年」を提示し、何があったのかをダニエールに問い質す。
ダニエールとチャーリーは恋人同士だったが、交際していることを誰にも言わず秘密にしていた。その日も、彼女はチャーリーの自宅で愛し合った後、「ずっといられないから」と帰ろうとした。チャーリーは泊まって行って欲しいというが、ダニエールの父親に知れると大変なことになるので、とてもそんなことはできない。チャーリーは「日陰の身で汚いもののように扱われる」ことに嫌気がさし、ダニエールと別れようとした。ダニエールはそれを拒絶し、自分を追い出そうとするチャーリーに抵抗して彼を殺してしまったのだった。
感想
人種問題の絡む事件。しかもさまざまな視点が交錯して、単に人種の対立という構図ではすまなくなっている。
この事件、殺人事件として見れば黒人男性のチャーリーが被害者で白人女性のダニエールが加害者だが、レイプ事件として見るならチャーリーが加害者でダニエールが被害者になる。捜査する側のヴァン・ビューレンは黒人女性で二重のマイノリティ性を持っているが立場は上。今までは被差別者・被害者として捉えられて来た黒人や女性が差別者・加害者ともなる視点の捩れが生じている。
チャーリー側は「黒人の青年が殺されても検察はまともに動こうとしない!」と騒ぎ、ダニエール側は「黒人警官が黒人の性犯罪を隠蔽している」と騒ぐ。黒人と白人双方が人種差別を騒ぎ立てるという、一種異様な光景になった。
ヴァン・ビューレンが取調べに同席したのは確かだが、これは本人も言うとおり、女性同士の方が取調べを進めやすいからだろう。ブリスコーもヴァン・ビューレンも普段どおり仕事をしているだけなのに、人種対立に巻き込まれていちいちあげつらわれて迷惑なことだ。
公判が始まると、今度は陪審員が標的になり、匿名の手紙が送りつけられたりしてまた泥沼。
色々あって結局レイプは冤罪だったとわかる。ダニエールとチャーリーはなぜ交際を秘密にしていたのか? ダニエールの父親が絶対に許さないから。高校時代に暴力を振るわれたことは、おそらくダニエールにとって大きなトラウマになっていたのだろう。だからチャーリーのことは愛しているけど、どうしても知られるわけにいかなかった。ダニエールの証言からは、チャーリーへの愛情と恐怖の板ばさみになった辛さが伝わってきて、殺人犯ではあるけれど本当に気の毒でしょうがなかった。
そして彼女のこの恐怖と苦しみを、おそらくチャーリーはわかっていなかった。だから彼女の態度が不満だったのだろう。ダニエールは黒人の自分とつきあっていることを恥じているのか? 自分は汚いもののように扱われているのか? チャーリーがダニエールとはもう別れようと思ったのも、ダニエールがそれに激昂したのも無理もないと思うのだが、それだけに悲しい。
人種問題さえなければ、何の障害もなく幸福になれるはずだったのだから、本当にやりきれない事件だ。何がいけなかったのか……って、それはダニエールのパパだよね、やっぱり。
— Yoko (yoko221b) 2012-06-10