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Law & Order - Season 7, Episode 12
#146 Barter
- 邦題:「悪魔との取引」
- 脚本:René Balcer, Eddie Feldmann
- 監督:Dan Karlok
- 初回放映:1997-02-12
事件概要
People v. Enrique Flores (判事:Louise Castillo)
ファイナンシャル・プランナーのシェリー・ガンツが駐車場で射殺される。シェリーは離婚歴があるが前夫はユタ在住。仕事関連で何かトラブルがないかと聞き込みをするうちに、同じビルに住むタシュジアン夫妻が犯行現場になった駐車スペースを使っていることに気づく。夫人のスーザン・タシュジアンはシェリーと同じ年頃で外見も車もよく似ていた。タシュジアンは広告代理店を経営しているが、負債を抱える一方でスーザンには多額の生命保険がかけられていた。
スーザンは「私を殺す人なんているわけがない」とその話を一笑に付す。刑事たちはなおも「誰かに尾行されたり、不審な人物が現れたことはないか」と聞き、スーザンはようやく「留守中に封筒を届けようとした人が来たらしい」と思い出す。管理人から人相を聞き出し、自動車修理工のエンリケ・フロレスが逮捕される。
フロレスは犯行を否定。直接的な証拠はないので、刑事と検事はどうすべきかを話し合うが、その途中でスーザン・タシュジアンが射殺される。刑事たちは夫のスティーヴンを取り調べるが、スティーヴンは犯行を否定し、証拠もないので釈放せざるを得ない。
彼らはスティーヴンとフロレスの接点を探し、2人がブルックリンの同じローン会社「ビーチウッド・ローン」から借金をしたことを突き止める。また、他の保険会社がスーザンの死亡証明書を請求したことがわかるが、その保険の受取人はスティーヴンではなく、ビーチウッド・ローン社だった。ビーチウッドは顧客全員に生命保険をかけており、前年には顧客が4名死亡していた。保険金額は合わせて300万ドルを上回る。経営者のバニー・ルッソは暴力的な取立てを行った過去があった。
亡くなった4名のうち1名は心臓発作で後の3名は射殺され、いずれも未解決。マッコイは以前の事件を調べ直す。そのうちの1件で、フロレスが扱った車が目撃されたことがわかり、彼らはその件でフロレスを追及する。フロレスは取り調べの最中に心臓発作を起こす。
フロレスは病院に運ばれ、そこで医師に「私は人を2人殺した」と告白する。ルッソの名前までは言わなかったが、マッコイはそれで十分と判断してルッソを逮捕させる。だがルッソは犯行を否定し、フロレスもルッソを恐れて「絶対に証言はできない」と拒む。
フロレスの弁護人は、「殺人の告白は医師に対して言ったものであり、守秘義務があるので証拠にはできない」と排除を要求。第三者がその場にいる場合には守秘義務を根拠に排除はできないはずだが、判事は弁護側の言い分を認めて自白を排除する。
マッコイとロスは他の殺人事件を調べ、被害者のひとりエドワード・カイザーの照会先がスティーヴン・タシュジアンであることに気づく。カイザーが死亡した2週間後、タシュジアンはローンを減額されている。それがカイザーを殺害した「報酬」ではないか。
タシュジアンは免責と引き換えにルッソとカイザーの面会をセッティングしたことは認めたが、カイザーを殺してはいないとあくまで否定する。タシュジアンは「その日は妻と一緒にいた」と主張するが、それは水曜で、スーザンはジムに通っていたはず。マッコイはタシュジアンの偽証を知りつつ「ルッソとタシュジアンのどちらを有罪にするかではない、ルッソか無かだ」と免責に同意する。
タシュジアンは証言台に立ち、「ルッソがカイザーを殺した。私は彼のやり方を知っている」と述べるが、判事から具体的に「何をどう知っているのか」と追及されて立ち往生してしまう。そこでマッコイが「本当は君がカイザーを殺したのではないか」と聞き、タシュジアンはついに犯行を認める。
ルッソは仮釈放なしの終身刑になり、タシュジアンは証言した3ヶ月後にオフィスの外で射殺される。
感想
冒頭からはちょっと予想できない展開。殺人事件の聞き込み捜査をしているうちに、実は被害者の隣に住むスーザンが本来のターゲットだったのではないかという可能性が浮上する。金を借りる時に保険に加入させ、返せなくなったら殺して保険金をゲット、殺害は別の借り手にやらせて自分の身は安泰だなんてひどすぎる。借り手同士につながりがなければ捜査の手も及ばないという計算だったのだろう。これは想像だが、おそらく同じ分署が続けて担当しないよう、殺害現場も離れた場所になるように仕組んで「殺人指令」を出していたのではないか。
実行犯のフロレスは、署に連行されて取調べを受ける途中で心臓発作を起こして病院に運ばれ、パニックになりながら「私は人を殺した」と告白。そばにいたカーティス刑事は棚ぼた自供に喜ぶが、例によって弁護士から横ヤリ。患者が医師に言ったことは秘匿特権にあたるので供述を排除すべきだというのだ。
この排除要求というのももうすっかりお馴染みの展開になってきた感じ。弁護人はそれが仕事だともいえるが、本当に毎回手を変え品を変えていろいろ言ってくるよなーと思う。なかでも「秘匿特権(守秘義務)」と「令状の不備」が二大排除理由だと思うが、今回は医師と患者の会話だから秘匿特権が適用されるという、かなり強引な理由。だって診察室とかじゃなく、大勢の人が行きかうERだよ。取調べ中に倒れて警察から運ばれて来たのだから、刑事が同行しているのは2人ともわかっていたはずではないのか。
で、ここで判事がどうするのかと思ったら弁護側の言い分を認めて自供を排除してしまう。こうして毎回排除するというのも、ストーリー展開上の都合があるとはいえ、だんだん「またですか」という気になってきた。リアリティ重視のL&Oだが、いくらなんでも現実ではここまで排除されないと思いたい。
検察パートでは、偽証をめぐるロスとマッコイの対立も印象深い。タシュジアンが嘘をついていることは明らかで、ロスは嘘の証言をさせることに抵抗を見せる。だがマッコイはあくまでもルッソを標的としてタシュジアンの免責を認める。嘘であることを知りつつ証言させ、また実行犯であると知りつつ免責を認めるというのは、倫理的に少々意見の分かれるところだろう。手続きの公正さが結果の正しさを担保するというのが刑事手続きの原則であると思うが(実際にそうなっているかはともかく)、マッコイは相変わらず結果としての正義を求めるあまり手続きを軽視する傾向があるように思う。「無罪にするためになりふりかまわない」弁護人に失望して検事になったロスにとっては、辛い現実を見せられる事件になったかもしれない。
さて、タシュジアンに対して弁護側が反対尋問を始めると、案の定証言は矛盾をきたし、ボロボロと崩れ始める。
そこでマッコイがもう一度尋問を行い、そこでようやくタシュジアンは、社長の命令で自分が殺害を実行したことを認める。この証言場面がこのエピソードのヤマ場だったと思う。マッコイはここまで見越して証言を強行したのかもしれないが、それにしても危ない橋を渡ったものだと思う。ルッソが無罪放免になりタシュジアンも取引で罪を逃れてしまう可能性もあったわけだから……。
そしてタシュジアンは証言の3ヵ月後に射殺されてしまう。ということは証人保護を求めなかったということか。おそらく証言台で罪を認めた時、死を覚悟したのではないかと思う。自分の借金がもとで妻を死なせたわけだから、消極的な自殺だったのかもしれない。結末がテロップで示されるのも久しぶりだ。
というわけで、エピソード全体としては面白かったと思うが、上述した自供の排除がいささかルーティン化しているし、保険金ネタも2話連続だ。言うなれば日替わり定食のようなもので、好物が入っていた(=証言場面が面白かった)のでラッキーだけど、料理自体はいつもの、みたいな感じ。
今回言及されていた判例は、おそらく↓これ。患者を守るために警官の立会いが必要な場合を定めた判例?
— Yoko (yoko221b) 2012-07-07