The Wire - Season 5, Episode 10
#60 -30-
- 邦題:「了」
- 脚本:David Simon
- 原案:David Simon, Ed Burns
- 監督:Clark Johnson
- 初回放映:2008-03-09
“… the life of kings.” – H.L. Mencken
概要
ホームレス連続殺人に関する真相を知らされたカルケッティは、ボンドとロールズとともに対策を話し合い、真相を隠蔽して闇に葬ることが一番の得策だろうという結論に達する。ロールズは難色を示したものの、「カルケッティが知事になれば州警察の長官に任命する」という条件で同意する。ダニエルズは事を公にし、関わった刑事たちを訴追すべきであると怒るが、事態が政治的になればパールマンが犠牲にされるおそれがあるとわかり、矛を収める。
ドゥーキーはエドワード・ティルマン中学に元担任のローランド・プレズビルスキ(プレズボ)を訪ね、住む場所とGED(一般教育修了検定)を得るために数百ドル貸してほしいと頼む。プレッズはドゥーキーの話を疑わしげに聞きつつも、結局は200ドルを貸し与える。ドゥーキーはその金を持ってアラバーの所へ行ってしまう。
ボルティモア・サン紙では、ルビーがテンプルトンの記事をチェックし、誇張や捏造がいくつもあったことを報告。ヘインズはその結果をひとまず保留。
リヴィはマーロと面会。マーロ、クリス、モンクの保釈は無理で、かろうじてチーズは保釈できそうだった。2人は改めて、時計の暗号を誰が漏らしたのかを考えるが、逮捕された幹部以外、暗号はおろかマーロの携帯番号すら知らないはずだった。2人は、警察がワイヤータップを使ったことを確信する。マーロはチーズに対し、マイケルを始末するよう指示する。マイケルがスヌープを射殺したことで、物資補給のタイミングをリークしたのはマイケルだと確信したのだ。
その後、マクノルティは、ホームレス誘拐未遂の報を受けて出かけて行く。通報したのはテンプルトンで、「白人の男がホームレスを捕まえてグレーのバンに乗せようとした」と言う。だがマクノルティは、現場に張り込んでいたアンダーカバーの警官からその話はまったくの嘘だと知らされる。サン紙では、テンプルトンの目撃した「誘拐未遂」事件を報じるべきか否かでヘインズと編集長が対立。
バンクとグレッグスは新たなホームレス殺害事件を担当。被害者の左手首には白いリボンが巻かれていた。バンクは連続殺人の模倣犯が現れたと判断する。その現場に呼び出された後、署に戻ったマクノルティは、ロールズとダニエルズからの追及を受け「これが最後の事件だ」と引導を渡される。マクノルティは証拠品の中から名刺を発見し、犯人が以前に聞き込みをした別のホームレスであることを知る。
フリーマンは、大陪審からの情報流出源が検察官のゲイリー・デパスカルであることを突き止め、証拠の録音テープをパールマンに渡す。一方リヴィは、警察が違法のワイヤータップを行っていたことをパールマンに仄めかす。
パールマンは事件を法廷に持ち出すことができなくなったため、デパスカルの証拠テープを持ち出して取引を切り出す。クリス・パートロウは殺人で有罪、モンクとチーズも有罪で答弁。マーロは不起訴にする代わり、麻薬取引からは一切手を引くことが条件だった。マーロは不承不承同意するが、これだけ大量の麻薬を押収した組織のボスを不起訴にさせるという快挙にリヴィは大いに満足し、「貢献者」であるハークを食事に招待する。
マクノルティは白いリボンを持っていたホームレスを探し出して逮捕する。その人物は最新の件と、以前に「関連なし」と判断されていた別のホームレス殺害事件の2件については犯行が明らかだった。警察はその2件については確実、マクノルティが偽装した他の事件については「容疑者」という発表に留め、いずれにしても精神疾患があるため然るべき病院に収容することで強引に決着をつける。カルケッティは事件解決の記者会見で、ダニエルズを警視総監に昇進させ、ロールズはいずれ市の要職に就けると発表する。
総監になったダニエルズは、カルケッティの選挙のために統計値を操作することを拒否。マクノルティとフリーマンは逮捕もクビも免れるが、同時に「法廷に出す証拠に関わる捜査活動」は一切できないと言い渡される。マーロは麻薬の仕入れコネクションをスリム・チャールズらに売り渡す。
刑事たちはアイリッシュ・バーで開かれたジミー・マクノルティの「生前葬」に集まり、盛大にマクノルティを送り出す。
ダニエルズを意のままに操れないとわかったスタイントーフはキャンベルに相談し、キャンベルはダニエルズのスキャンダルを持ち出してマーラ・ダニエルズを間接的に脅す。カルケッティを知事にするために統計値を操り、次期市長(になるはずの)キャンベルに従うか、あるいは辞職するか。統計値を操作して体面を保つこと、それこそが警察を腐敗させてきたと確信するダニエルズは辞職の道を選び、最後の仕事としてカーヴァーたちを昇進させる。
スリム・チャールズ他、主だったディーラーたちは、マーロから権利を買うための金策を話し合う。そこへチーズが割って入り、金を出そうと言うが、スリム・チャールズがチーズを射殺。「これはジョーの分だ」
フレッチャーはバブルスの記事を書き上げるが、当のバブルスは掲載に迷いを感じている。自分を悪く書かれることは気にしないが、好意的な評価を得ることに戸惑っているのだ。だが結局その記事は、バブルスの同意を得てサン紙に掲載される。アルマはテンプルトンのノートが白紙だったことを編集長に報告したために左遷。
マクノルティはリッチモンドへラリーを迎えに行く。シドナー刑事はフェラン判事のオフィスで、かつてのマクノルティのように不満を述べる。リヴィは新しく「実業家」になったマーロを、名士の集まるパーティに連れて行く。パーティを途中で抜け出したマーロはストリートに戻るが、オマーが伝説と化す一方でマーロの存在は既に忘れられていた。マイケルはかつてのオマーのように、マーロの残党を襲って麻薬を強奪。
マクノルティはラリーをボルティモアへ連れて帰る。引退したフリーマンはドールハウスの家具を作る。ハークは刑事たちに酒をふるまう。テンプルトンはピューリッツァー賞を受賞。スリム・チャールズらはヴォンダスと取引を始める。カルケッティは知事に当選してアナポリスへ。ヘインズは左遷されるがフレッチャーの成長に満足する。キャンベル市長はヴァルチェックを総監に任命。ドゥーキーは馬小屋で麻薬を打つ。パールマンは判事に、ダニエルズは弁護士になる。刑務所ではクリスとウィーベイが親しげに言葉を交わす。ロールズは州警察の長官に就任。バブルスは地下室を出て、妹たちと食卓を囲む。ケナードはオマー殺害の罪で逮捕される。
感想
あ~……終わった……。
シーズンフィナーレであるだけでなく、The Wire というシリーズがこのエピソードで終わっていくのだ、と思うと感無量。最後のクロージングモンタージュを見ていると、涙腺が緩んで仕方がなかった。終わりが来たのは寂しいが、終わりを惜しむことができる安堵感のような気持ちも同居している。このシリーズに出会えて良かった、最後まで見届けることができて良かった、素晴らしいドラマをありがとう。今はそんな気持ちで胸がいっぱいになっている。
マクノルティもフリーマンも、あれだけやらかしておいて逮捕もクビも免れるとは、なんてラッキーな人たち。それもこれもカルケッティが知事選挙を控えてイメージを落としたくないから、というのだから2人ともアナポリスに足を向けて寝られないわね。模倣犯の現場、報道陣のカメラが回っているのにバンクとマクノルティが堂々と話しているので、音声を拾われていたらどうしようと、ひやひやしてしまった。
あれだけ苦労したワイヤータップも、結局は証拠として使えなくなってしまう。確かにこれは、どう見たって違法収集証拠。マーロの携帯番号と時計の暗号は(逮捕された)幹部しか知らなかったことなので、合法的な捜査を通じて不可避的に到達する可能性も、どうやらなさそう。
ハークは自分が何をやったか、気づいていないのかな。リヴィも情報の漏洩源が自分のオフィスだとは思いつかないのか?
※追記:よく考えると、リヴィは漏洩源に気づいていたというか、ワザとやらせていたのかも。マーロの組織から逮捕者が出ることを「それだけ自分の仕事が増える」と歓迎していたような台詞があった。
盛大に送り出してもらったマクノルティ。やっぱり彼は仲間たちに愛されてるんだなぁと、巡査部長の話を聞いてしみじみしてしまった(バンクのツッコミも最高!)。マクノルティは警察を去って行くけれど、その後を埋めるようにシドナー刑事が判事を相手にマクノルティ化。そしてバンクとキーマが現場へ出かけて行く場面が、シーズン1のバンクとマクノルティの場面にオーバーラップする。殺人課のホワイトボードには、今も変わらず事件名が書かれ続けているだろう。そしてヴァルチェックとキャンベル市長は、阿吽の呼吸で数値のゲームを続けていくのだろう。MCUが続くなら、次の主任はカーヴァー警部補だろうか?
ストリートではマーロの代わりにチャールズたちが麻薬を仕入れ、オマーがいなくなった場所にはマイケルが、そしてバブルスが麻薬を止めたと思ったらドゥーキーが……。このポジションに来るのが、よりによってなぜドゥーキーだったのか、いささか納得し難い部分もあるのだけど、こちら側も世代交代が進んでいく。そしてストリートの売人たちを使い捨てながら生き残るのが、ヴォンダスとギリシャ人、リヴィ弁護士、デイヴィス議員といった人たちなのだろう。時が経ち人が変わりつつも同じことが繰り返されることを象徴するように、BGMは懐かしい第1シーズン版の “Way Down in the Hole” だった。
プレズボ先生が久しぶりに登場したのは良いが、いつまでもひたむきな新人教師ではいられないのね……と、ちょっと甘酸っぱい気持ちになってしまった。前シーズンの先生だったら、あるいはドゥーキーがまだ彼の生徒だったら、違う行動を取っただろうか。「もし嘘なら、もう二度と会うことはないだろう」と、嘘と知りつつそう言ってお金だけ渡して去って行ってしまうなんて。彼を真っ当な道へ進ませようという気持ちはもう持っていないのだろうか。
警察ではマクノルティの大嘘が隠蔽され、表向きの解決で締めくくられた。対してもうひとつの大嘘、テンプルトンの方はというと、こちらも嘘が明るみに出ることなく、嘘を暴こうとした記者や編集者が左遷させられてしまう。表面的にやっていることだけを見るとマクノルティもテンプルトンも大差ないはずなのに、マクノルティは「穏便に済んで良かった」、テンプルトンは「こいつの嘘を許すな」と思ってしまうのは、やはり動機の違いなんだろうなぁ。
……と、あちこちでむなしい気持ちになりかけた所で、バブルスが地下室を出て食卓を囲む場面が一服の清涼剤になってくれた。
フレッチャーがバブルスとの間にきちんと信頼関係を築いているところは、大いに好感を持った。この2人の場面を見ていると、テンプルトンとテリーの場面とやはり比べてしまう。テンプルトンはテリーに会って珍しく取材をしていたわけだが、結局のところテリー個人には何の関心もないのだろう。テリーが抗議して来たときの言い合いからも「こんなホームレスの言うことを信用するのか!?」という傲慢な態度がみえみえだった。ルビーが確認した他の取材先では「自分が考えつくよりずっと気の利いたコメントだった」と言われたらしいが「オレ様が面白い話に仕上げてやったのだから、皆感謝しているだろう」みたいな気でいるのだろうか。
警察とストリートの話はここで終わっても満足するが、新聞社の話はやはり、ちょっと物足りない気がする。あのインチキ記者の嘘っぱちにピューリッツァー賞なんぞ取らせていいのか! ここはやはり、後日談がほしい。誰かがこいつの大嘘を暴いて賞を返上させるべきだろう。
ヘインズの台詞にあった「ブレア、グラス、ケリー」については、以下に詳しい。
— Yoko (yoko221b) 2008-11-23