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Wire in the Blood - Series 5, Episode 3
#18 The Names of Angels
- 邦題:「プリテンド」
- 脚本:Alan Whiting
- 監督:Richard Standeven
- 初回放映:2007-07-25 (UK)
事件概要
レイプされて絞殺された若い女性の遺体が発見される。着衣と身分証はデンマークのソフトウェア会社に勤務するインゲ・カールソンの物だったが、インゲは5年前にコペンハーゲンで殺害されているという。犯人は被害者の衣服を脱がせて持ち物を奪い、他人の服を着せて遺棄したのだ。インゲの殺害方法も同じようにレイプして絞殺するという手口だが、インゲ自身は裸で遺棄されていた。インゲが着けていたアクセサリーはそのまま保管していることから、トニーは「犯人はフェティシストではなく、部分的に似せて警察に対して自慢げなメッセージを送っている」と解釈する。
その後、被害者の身元は証券会社に勤めるモニカ・スティーブンスと判明。モニカは殺害される前、遺棄現場に隣接する「レパード・エレクトロニクス」という会社について検索していたが、犯罪歴のある社員はなくモニカとも無関係。また、防犯カメラに映るモニカの姿が発見され、犯人が奪って行ったアクセサリーのデザインがわかる。
その後、また同じようにレイプされて絞殺された女性が発見される。今回の被害者は、シンツィア・ダースタというイタリア人女性の身分証を持っていたが別人。身元は後に、アートギャラリーに勤務するレイチェル・ヒルマンと判明する。シンツィアは3年前にシチリアで、やはり同じ手口で殺害されていた。トニーは外国の事件とイギリス国内での事件の手口の違いに注目し、犯人は地元の人間で、デンマークとイタリアには旅行で訪れたのだろうと判断する。
モニカのメモから「LEのマイケル・キングに会う」という記述が発見される。マイケル・キングはレパード・エレクトロニクス社の重役で、インゲ事件の当時コペンハーゲンに渡航していた。だがキングは一切の関与を否定し、コペンハーゲンには行ったこともないと主張する。それ以上の証拠はなく、釈放せざるを得なかった。
一方、犯人はモニカの父親に接触して嫌がらせを繰り返した後、スーパーで買い物をするモニカの妹に近づき、カートにこっそりモニカの写真を入れる。犯人は終始防犯カメラに背を向けており人相はわからない。トニーは犯人がカートに入れたものに注目し「人は無意識に馴染みのある物を選ぶだろう」と判断して、そこから人物像の分析に取り組むが、中身はトニーの描く犯人像と一致しない。犯人はビジネスマンたちの集まるクラブに自然に顔を出し、成功しているキャリアウーマンをやすやすと信用させ、外国に何度もでかけている。カートに入っていた安物の紅茶やパンとは無縁の生活をしているはずだった。
事件の合間にトニーは、元患者のジャック・ノートンの訪問を受ける。ジャックは犯罪を犯して施設に入っていた少年で、出所後に名前を変えて暮らしていたが、新しい生活に馴染めず、また「過去を知られたら」という不安から保護監察者のもとを逃げ出していたのだ。
レイチェルの車がホテルの駐車場で発見される。彼女はラウンジで「ロバーツ」という人物を探していた。調べてみると、シンツィア事件当時イタリアに滞在していたドミニク・ロバーツという人物が、レイチェルの遺棄現場近くに勤務していることがわかる。だがロバーツもやはり、イタリア滞在を否定する。
モニカの現場付近ではキングと同型の車、レイチェルの現場付近ではロバーツと同型の車が目撃されている。モニカ-インゲ-コペンハーゲン-ポルシェ-キングがつながり、他方ではレイチェル-シンツィア-シチリア-ジャグア-ロバーツがつながっていることになる。
トニーは、カートの中身に再び注目。安物の紅茶やケチャップは現実の彼、高級品のアスパラガスやチョコレートは、彼が憧れ装っている人物を表している。自分は成功しているビジネスマンだというファンタジーを作り上げて、被害者たちを誘惑する、自己愛性人格障害と思われる。おそらくは幼児期の母子関係が原因で自我をうまく確立できず、偽の人格を作り上げ、期待ばかりが高く褒められることがなかったため女性に嫌悪を抱くようになり、妻に対しては、自分が母に対してそうだったように絶対服従を強いているのであろう。
その後、レイチェルの携帯電話が使用されたため通話を追跡。また、レンタカー会社では、ポール・マグワイヤと名乗る男性が、車種と色を細かく指定して借りたことがわかる。「ポール・マグワイヤ」を調べたところ、空港で手荷物管理の責任者をしている人物が浮上。彼はプラハでカード詐欺に遭ったことがあり、プラハにもやはり被害者がいた。
トニーは、犯人がキング、ロバーツ、マグワイヤを狙ったのは、自分を不当に扱った復讐ではないかと思いつく。この3人から解雇された者を調べたところ、3社をクビになっているルーク・ハリスの存在が浮上。解雇担当者はキングら3名だった。
アレックスらはハリスの自宅を訪ねる。応対した恋人のメイはハリスからプレゼントされたアクセサリーを見せる。自宅にはモニカやレイチェルの衣服と身分証、ハリス自身が身分詐称に使ったパスポートなどが保管されていた。
ハリスは「彼女に気づかれたから」と母親を殺し、次の犠牲者が待つホテルへ向かう。ハリスが使用した携帯電話から最近の通話相手が判明し、トニーはその相手サラ・ロイドに電話をかける。トニーはサラにトイレに隠れるよう指示し、到着後無事に救出。だが、ルーク・ハリスはその頃、別人の身分証を使って飛行機に搭乗していた。
トニーは何とかジャックの力になろうとするものの、結局ジャックは去り、その後自殺した遺体となって発見される。
感想
犯人が自殺や事故で死亡するという結末は今までもあったけれど、捕まらないまま逃亡するというのは珍しい、というか初めて?
ルーク・ハリス役Tim Matthewsの出演は今回限り。だから後日談もないのかな? とは思うものの、ルークの顔は殆ど映っていない(まともに映ったのは結局最後の身分証だけだったな……こういう出演って、役者さん的にはどうなんだろう)ので役者が交代してもわからないかも。モニカとシンツィアの事件で採取されたDNAは、7件の未解決殺人事件と一致するということだし、続編があってもいいような気がする。
今回の犯人は、犯行自体はすごく暴力的であるし、被害者たちに対するネガティブな衝動やドロドロした怨念のようなものを感じさせるのだが、事後処理などは実にシステマティックに行われていて、そのギャップが興味深い。国内で殺害した被害者、外国で殺害した被害者、そして罪を着せようとした男性がきちんとそれぞれの線でつながっていて、行動に矛盾や混乱がない。無理に話をひっくり返すこともなく、前半から「犯人」として描写されていた男がそのまま犯人だったという展開だが、決して単調なストーリーではない。偉そうなことを言わせてもらえれば、今シーズンは脚本がすごく良くなっていると思う。ストーリーに一貫した説得力があり、疑問や矛盾を感じるところが殆どなく、かつ面白い。キャラクター描写にも幅が出てきているように感じる。
ただし、犯人と母親の関係についてはいささか描写不足で、少々の「取って付けた感」が否めないのが残念だ。これはハリスの人物像が希薄なせいもあるかもしれない。
事件の合間に、かつて凶悪事件を起こしトニーが面倒を見た少年、ジャックの話が挿入される。現実とかけ離れたニセの人格を作り上げて犯行に及んだハリスと対比するように、ジャックは犯罪の結果として自分の名を失い別人として生きていくことを余儀なくされている。ハリスの描写が希薄な分だけ、ジャックの方に感情移入させられ、本来の自分と他者の見る自分を乖離させながら生きるというのはどういうことなのだろうと、考えさせられる。
それにしてもトニーは、前シリーズでカートとカレンが自殺しているし、職業柄仕方ない面があるとはいえ周囲に自殺者が多すぎないだろうか。お祓いでもしてもらってはどうだろう。
— Yoko (yoko221b) 2009-12-29