前日談となる映画「ツイン・ピークス – ローラ・パーマー最期の七日間」についてのQ&Aです。
全部で26項目の質問があります。長いので2ページに分割しました。目次も各ページに表示されます。
F1. 「劇場版ツイン・ピークス」って何ですか?
TVシリーズが放映された後に公開された、TPの劇場版映画のことです。この映画は、テレサ・バンクス殺害事件と、ローラ・パーマーが殺害される前の最後の一週間の出来事をカバーしています。したがって、TVシリーズの「前日談」になるわけです。
映画での出来事はTVシリーズより前の時点のことになりますが、やはり映画より前にTVシリーズを観ておいた方が良いでしょう(TPをオリジナルの公開順に観て、筋書きのポイントを前もって知りたくなければ)。映画を最初に観てしまうと、混乱してTVまで観たくなくなってしまうかもしれません(もっとも、「映画が最初」という人でTPの大ファンになった人も少なくないのですが)。
※訳注: 原文ではFWWMという略語が使われています。これは劇場版の原題、”Fire Walk With Me”の頭文字をとったものですが、日本語版の副題は「ローラ・パーマー最期の七日間」だったので、原則として「劇場版」と表記することにします。
F2. 劇場版のビデオ/レーザーディスクはありますか?
「DVD/Blu-ray」を参照してください。
F3. リンチはなぜ前日談を作ったのですか?
1991年の夏にTVシリーズが打ち切られた後、リンチは、まだツイン・ピークスと街の人々に別れを言いたくないと言って、ほとんど即座に映画の制作を始めました。
劇場版の脚本を共同執筆したロバート・エンゲルスによると、映画に関してはさまざまな段階の複数の筋書きが作成されたそうです。TP映画をシリーズにするための第一の目的は、おそらく、ローラ・パーマーの生と死に関する詳細な情報で「穴を埋める」ことであったと考えられます。
ファンがもっとも知りたがっていたのは、TVシリーズの最終話で見せられたクリフハンガーの続きであったことは疑いありませんが、リンチは急いで結論を出すつもりはなかったようです。
F4. 評論家がこの映画を黙殺しているのはなぜですか?
ダグラス・プラットは、”Laserdisc Newsletter”の93年8月号で、劇場版についての(熱心な)レビューの中でこう書いています。
『ツイン・ピークス』とデイヴィッド・リンチのファンの一部のそのまた一部にしか受けない。この映画は物語としては大失敗だ。ずっと登場人物を紹介したり、その人物について言及し続けているが、その人物は姿も声も二度と現れない
要約すると:
- 「普通の」映画を期待していた人は失望したり、怒ったりした
- 恐怖や血の匂いに満ちた映画(十代の市場にはそのように宣伝された)を期待していた人は失望した
- TVシリーズの繰り返しやその解決を期待していた人は失望した
- TVシリーズに見られたユーモアを期待していた人は失望した
- TVシリーズについてよく知らない人は混乱した
理由の一端を担っているのは、これが典型的なデイヴィッド・リンチの素材だということです。また一部は、映画が大幅にカットされたということです。公開された撮影台本(「書籍その他」のP2を参照)よりも、実際に撮影されたものよりもかなり短くなっています。撮影されたシーンの多くがカットされました(シリーズの登場人物にとっては、それが唯一の出番という場面もありました)。
映画を「市場に耐える」長さにするために、他のシーンを理解するために必要な多くのシーンがカットされました。そのため、TPのストーリーを理解していない評論家たちは、ほとんどが完全にこの映画を無視したのです(シェリル・リーの演技を評価したのは1~2人いましたが)。
この映画は、シリーズのもうひとつのエピソードというよりは、ツイン・ピークスのダーク・サイドを厳密に考察するためのものと言った方が良いでしょう。
F5. 何がカットされたのですか?
沢山のものです! この映画を観たら、撮影台本でカットされたシーンを確認するべきでしょう。
※訳注: カットされたシーン集は、TWIN PEAKS ONLINEにあります(FWWM Missing Scenes)。
撮影台本は、リンチが意図した「聖典」ではありません。彼は撮影中に何度も台本を変更することで有名だからです。とはいえ、台本にあるシーンのほとんどが実際に撮影されたということは確かなようです。これは、映画の撮影中、スノークォルミーを訪れたTPファンの話に基づいています。
F6. 「ディレクターズカット」はありますか?
訳注: この項の情報は古い物ですが、資料として載せておきます。
まだありませんが、その話はでています(リンチからではありませんが)。
この情報は劇場版の脚本家のひとりであるボブ・エンゲルスからのものです(マーク・フロストは劇場版には関与していません)。
From: Paul Hagstrom
Newsgroups: alt.tv.twin-peaks
Subject: Robert Engels at the Mpls premiere of FWWM
Date: 1 Sep 92 00:32:39 GMT
このNGの人は、誰もMplsでロバート・エンゲルス(劇場版の脚本家の片方です、念のため。名前の綴りは合ってると思うけど間違えたかも)の話を聞かなかったみたいですね。エンゲルス氏は、Internet接続がダウンしてから人々が疑問に思っていたことを明らかにしてくれましたので、その話をお伝えしようと思います。
まず、映画はカットする前の段階では3時間40分でしたが、劇場公開されたバージョンは2時間分しかありませんでした。最終的にはカット前バージョンをレーザーディスクで公開したいそうですが、担当者はそこまで長い映画をうまく扱えないだろうということです。「担当者」が誰かはよくわかりませんが、ロバート・エンゲルスでないことは確かです。
…
いずれにしても、3時間40分バージョンはとてもとても見たいですね。
…
[エンゲルスのコメントの完全版については、FWWM “missing scenes”ファイル(F5)を参照してください。]
“Video Watchdog”誌(「書籍その他」のP2を参照)の93年3月/4月号で、ティム・ルーカスはこの映画について優れたカバー記事を書いています。彼のレポートによると、編集者メアリ・スウィーニー(リンチの現在の妻)の最初のカットは5時間だったということです! オリジナルのカットをケーブルTVのミニシリーズやホームビデオ・リリースで公開するという考えもあるらしい。
特別バージョンのレーザーディスクについての話もあります。
From: rud
Newsgroups: alt.tv.twin-peaks
Subject: FWWM Special Edition
Date: Sun, 02 Feb 1997 14:57:46 -0500
「ツイン・ピークス」ファンの皆様へ、重要なお知らせ
Image Entertainmentは現在、特別版のレーザーディスクを制作してオリジナルの長さに復元しようと考えているが、十分な利益を上げられるかどうか確信がないようです。「ツイン・ピークス」ファンの方は要望を寄せてあげてください。電子メールの宛て先は、以下です。
(メールアドレス削除)
LDプレーヤーがなくても、リリースを期待していることを伝えてあげましょう。
「ツイン・ピークス」のファンで電子メールが使えないという知り合いがいる方は、FWWMのスペシャル版レーザーディスクを要望する手紙を送れるように、Image Entertainmentの住所を教えてあげてください。
(住所削除)
F7.サウンドトラックに対するリンチの特別な指示とは?
リンチは常に、自分の映画の音響効果やサウンドトラックをとても大事にしてきました。リンチとアラン・スプレットが『イレイザーヘッド』のサウンドエフェクトについてどれだけ考案し記録したかを考えればわかると思います。
したがって、劇場版のクレジットにサウンド・ディレクターとしてリンチの名前が挙げられていることや、フィルムのプリントに特別な指示を入れたことも不思議ではありません。
From: Chris Campbell
Newsgroups: alt.tv.twin-peaks
Subject: FWWM projectionist trivia
Date: 2 Sep 92 12:52:52 GMT
Organization: NSDD, Data General Corp.
この映画は、私が時々映写技師を務める劇場で上演されています。フィルムプリントとともに、以下のようなメモが New Line Distribution から送られてきました。
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To: 映写技術者各位
Re: Twin Peaks: Fire Walk With Me
Twin Peaks: Fire Walk With Me の監督デイヴィッド・リンチ氏より、映画のサウンドレベルについて連絡があります。リンチ氏は「ツイン・ピークス」のサウンドトラックにはひじょうに力を入れており、サウンドのレベルは通常よりボリュームを2デシベル上げるとベストの状態で再生できると考えています。リンチ氏の要請に合わせていただけますと、お客様にもご満足いただけ、興業収入にも良い結果になると思います。
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興味のある方もおられるかと思います。
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Chris
また、サウンドトラックを注意深く聞くと、リンチが特別に追加した詳細がわかります(F21を参照)。
F8. クーパー捜査官が映画にほとんど出てこないのはなぜですか?
理由のひとつは、クーパーがストーリーにまだ関っていないからです。劇場版はローラの死より前の話になるので、彼はまだツイン・ピークスに来ていないのです。ただし、FBIオフィスの場面と、テレサ・バンクス事件の捜査場面はあります。
別の理由は、カイル・マクラクランが劇場版への出演に難色を示したことです。クーパー捜査官という役柄に固定されてしまうことを恐れたため、彼は制作前は関っていませんでした。彼が手を引いたため、劇場版の企画全体がつぶれてしまうのではないかと危ぶまれましたが、リンチは計画を進め、マクラクランも最終的には出演に同意しました。彼が最初から関っていた場合、役柄がどの程度増えていたかは、定かではありません。
F9. ドナ役の女優が違うのはなぜですか?
ララ・フリン・ボイル(ドナ)とシェリリン・フェン(オードリー)は2人とも、劇場版の制作時に別のプロジェクトに入っていました。リンチは撮影時期を遅らせるように交渉せず、2人抜きで進めることにしました。台本からオードリーの出番を削ることは簡単でしたが(いずれにしろ、彼女はローラとほとんど関りがなかったので)、ドナの役はローラのストーリーには不可欠だったため、代わってモイラ・ケリーが演じました。
F10. ~が映画に出ていないのはなぜ?
元々は、出演していました。TVシリーズの登場人物は、ほとんど全員劇場版の台本にも出番がありました。オリジナルのキャストメンバーは、ララ・フリン・ボイルとシェリリン・フェンを除き(上記F9を参照)、ロケ地に登場して撮影していました。しかし、これらのシーンは、映画の上映時間を短縮するために(F5を参照)ほとんどがカットされてしまいました。いつの日か、「ディレクターズ・カット」に復活することを祈りましょう(F6を参照)。
F11. TVシリーズ/映画/本/テープ/カードの内容の矛盾とは?
ほとんどのTVシリーズと同じように、劇場版とシリーズ、劇場版と他のTP製品の間には多くの時間的/連続性関連の間違いがあります。現在、これらの間違いをリストにまとめようという動きがあります(訳注: その後どうなったかは未確認)。
劇場版に、シリーズのエピソード(および本、テープ、カードなど)で言及された出来事と矛盾する描写があることは疑いがありません。また、シリーズ内(特にパイロットと第1話)で描写された出来事の中に、劇場版に登場していないものがあります。たとえば、列車の車両に血で書かれた”Fire Walk With Me”という言葉や、日記の最後の記述、ハロルド・スミスへの最後の訪問などです。
映画の制作にあたり、リンチは編集者を雇ってこの種のエラーをチェックし、シリーズに忠実になるようにしようとしました(詳細な記憶力を持つTPファンの方が良い仕事ができたことは明らかだと思いますが :^)。
また、撮影台本の中にあった、TV版との整合性を示すシーンがいくつかカットされている(最後の晩にジャコビー医師がローラに架けた電話、ノルウェーのビジネスマンの来訪を準備するリーランド、トルーマン保安官とジョシーの逢い引き)ことにも注意してください。
このような矛盾点を探すことも面白い作業ですが、それは、この映画に対するリンチの意図や視野を損なうものではありません。
F12. ゴードン・コールの暗号にはどういう意味があるのですか?
一説では、これはシリーズのあらゆるディテールを読み解こうとするTPの熱狂的なファンに対するリンチの注釈であると考えられているようです。ティム・ルーカスが”Video Watchdog” 誌に書いた記事では(「書籍その他」のP2を参照)、リンチは映画全体も同じように解読できると示唆しています。撮影台本には、もっと現実的な理由も書かれています。
デスモンド捜査官がコールのメッセージを解読するシーンは、一部がカットされています。
(チェットとサム、道を車で移動中)
デズモンド: ゴードンの言ったとおり、優秀だな。あつらえた服は麻薬の暗号だ。服に何が付いていたか、気がついたか?
スタンリー: 青い
バラ デズモンド: そのとおり。だが、それについては何とも言えない。
スタンリー、しばらく沈黙する。
削除された台詞
スタンリー: ゴードンのネクタイの意味は?
デズモンド: 意味? あれは単にゴードンの趣味が悪いってことだよ。
スタンリー: なぜ、単に言葉で伝えないんだ?
デズモンド: 奴さんは声がでかい。それに暗号が好きなんだ。
スタンリー: なるほど。確かに声はでかいな。
デズモンド: ゴードンが俺達をディア・メドウに派遣するってことは、この事件が重要だと考えてるに違いないな。
スタンリー: きっと重要に違いないね。
削除された台詞・終わり
F13. チェット・デズモンド(クリス・アイザック)はどうなったのですか?
撮影台本には次のように書かれています。
デズモンド、トレーラーに近づく。ドアをノックするが答えはない。トレーラーの下をのぞきこみ、頂上に窪みのある土盛りを見つける。窪みにはテレサの指輪。デズモンドが手をのばして指輪に触れた瞬間に、彼の姿が消える。
これだけではよくわかりませんね。クーパーは後でデズモンドの車に”Let’s rock”という言葉を見つけます。これは明らかに、ロッジの住人(特に第2話で同じ言葉を言ったLMFAP)が関っていることを示しています。
おそらく、このシーンは2つのことを示しているのでしょう。
- 指輪には特別な力がある(F19を参照)
- 失踪したFBI捜査官はジェフリーズだけではない(F15を参照)。