Twin Peaks FAQ – E: TVエピソード

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E10. 「ヨーロッパ版」パイロットとは何ですか?

TPをシリーズとしてABCに売りこむ前に、リンチ/フロストは、パイロット版を作成する資金を得るため、ワーナー・ホーム・ビデオ社と契約しました。その契約で、ワーナー・ホーム・ビデオ社はパイロット・エピソードをビデオ版映画としてヨーロッパに販売する権利を得ることになりました(ワーナー社はパイロットがシリーズ化されることを知らず、確実に利益を回収できるようにしようとしたのです)。映画として売るため、パイロットがストーリーとして「完結」し、ローラ・パーマーの殺害事件が解決されるということが契約書に記されました。

リンチ/フロストはパイロットをシリーズ化するつもりだったので、パイロット版には解決部分を付けていませんでした。撮影の途中で契約内容を思い出し、以下のようなエンディングを撮影して、ワーナー・ホーム・ビデオ社に「完結した」ヨーロッパ版として引き渡したのです。ただし、このエンディングはあまり重要ではなく、TVシリーズの出来事とも一致していません。

ヨーロッパ版のエンディングは、一部編集されて第2話の終わりの夢の場面に使用されました(第3話の冒頭でクーパーがルーシーとハリーに聞かせる夢の内容には、ヨーロッパ版のエンディングにあって第2話のクーパーの夢には出て来ない出来事も含まれています)。

リンチは、赤い部屋の場面を自分が手掛けた映像の中でも最高傑作のうちに入ると考えていました。おそらくそのために、第2話のラストに入れたのでしょう。第2話のオリジナルの脚本は、実際に放送されたものよりも、さらにヨーロッパ版のエンディングに近いものでした。コピーされた部分は編集され、クーパーの実体験ではなく夢/ 幻であるということが明確になっています。そのため第2話では、トルーマンなどのリアクションのシーンがクーパーが何度も寝返りをうつシーンに差し替えられています。

ABCがシリーズを買い取った時、放映されたシリーズをビデオ化する権利はワールドビジョン社(スペリング・エンタテイメント社の系列で、ABCとも関係が深い会社)が獲得しましたが、パイロット版ビデオの権利はワーナー・ホーム・ビデオに残されました。このため、市販されているパイロット版はヨーロッパ版なのです。「レモンからレモネードをつくる」ために、ワーナー・ホーム・ビデオ社はパイロット版を、ローラ殺害事件に対するTV版とは別の「もうひとつの解決篇」として販売しています。

ヨーロッパ版エンディングの映像の多くはTVシリーズに採用されていますが、TPファンの意見としては、このエンディングは貴重な歴史的財産ではあるけれども、TVシリーズで放映された「本物の」TPストーリーとはあまり密接に関連していない、という意見が優勢です。

TVシリーズを最初から観たという場合、ヨーロッパ版のエンディングは観なくてもかまいません。しかし他に方法がないという場合もあります。TVの第1話を観る前には、やはりパイロット版を見て重要な背景の事情や状況を把握しておく必要がありますが、TV版パイロットはビデオ化されていない(訳注: 日本版はあります)からです。録画されたTV版のパイロットを誰かに借りることができなくても、ビデオ版から「編集」することは簡単にできます。次の説明をごらんください。

  • 始まって90分ぐらいの場面: トルーマン保安官がルーシーの用意した一面のドーナツをクーパーに勧め、ジェームズとボビーとマイクが留置場にいるという場面があり、その後、保安官がジョシーのもとを訪れる。
  • 「ゆうべのちょうど今頃に起こったんだな」トルーマンがジョシーに言う。
  • 「こわいわ」とジョシーが言う。
  • 次に、信号機が風に揺れている場面。
  • ローラの母親が、ソファでひとり煙草を吸っている場面でビデオを止めてください。ここまではTV版とまったく同じです。
  • ヨーロッパ版にない場面が1ヶ所だけTV版パイロットに追加されています。ローラの母親が手の幻を見ます。その手は、ドナとジェームズが埋めたハートのネックレスを掘り出しています(後の話を見れば、どのネックレスのことかはわかります)。

ここで、TV版は見たけれどヨーロッパ版は見ていないという方のために、追加された場面を簡単に説明しましょう。

  • サラ、その日の朝にローラのベッドの下に“ボブ”がうずくまっていたことを思い出す。サラ、悲鳴を上げ、リーランドに自分の思い出したことを話す。
  • ルーシーとアンディがこれからベッド(!)という場面。リーランドがルーシーに電話をかけ、サラが思い出したことを告げ、保安官の居所を訊ねる。ルーシー、保安官の自動車に電話をする。保安官、ホークをパーマー家に行かせ、サラが思い出した人物の似顔絵を描かせるよう指示する。
  • クーパー捜査官、ホテルの部屋で眠っていたところを電話で起こされる。電話してきたのは片腕の男マイクだった。マイクはクーパーに、ローラを殺した男が病院にいると告げる。その後、ルーシーがクーパーに電話し、パーマー家のことを話す。クーパー、保安官にスケッチを持って病院に来てもらうよう頼む。
  • クーパーと保安官、病院でマイクを発見する。マイク、詩を朗読して告白する(第2話のクーパーの夢)。クーパー、マイクに犯人の似顔絵を見せて確認する。マイクは犯人を確認し、“ボブ”が病院の地下室にいると告げる。
  • 火のともされた12本のろうそくの輪のそばに“ボブ”がいた。“ボブ”は彼らを招きいれ、マイクも一緒なのかと訊ね、第2話のクーパーの夢に出て来る会話を繰り返す。「おれは死でおまえを捕らえる!」
  • 保安官が“ボブ”に文字の意味を訊ね、“ボブ”が答える。
  • “ボブ”: Robert、おれの本名だ。テレサの時はTにした。
  • クーパー: そのとおりだ。
  • “ボブ”: おれが狂っていると思うか、だが約束しよう、おれはまた殺す!
  • マイク、部屋に駆け込んで来て叫ぶ。「やめろ!」
  • マイク、“ボブ”を2回撃つ。“ボブ”、床にくずおれる。マイク、床に倒れて苦しむ。
  • クーパー「願い事を」と言い、ろうそくが消える。
  • 赤い部屋の場面。「25年後」という字幕。
  • その後の場面は第2話のクーパーの夢に出て来るシーンと同じ。小人が踊り、エンド・クレジットが出る。

すでに述べたように、このエンディングは、第2話のクーパーの夢に出て来る部分を除いて、シリーズの他のエピソードとの関連がありません。

E11. 第2シーズンのビデオ/レーザーディスクはありますか?

「DVD/Blu-ray」を参照してください。

E12. 配役のリストはありますか?

TWIN PEAKS ONLINEにありますが(Cast List)、IMDb等で直接検索した方が確実かもしれません。

E13. 出演した俳優さんは、他にどんな番組に出ていますか?

上記E12を参照。IMDb等での検索をお勧めします。

E14. デイヴィッド・リンチ本人が監督したのは、どのエピソードですか?

  • the pilot (1000)
  • episode 2 (1002)
  • episode 8 (2001、第2シーズンの第1話にあたる2時間のエピソード)
  • episode 9 (2002)
  • episode 14 (2007)
  • episode 29 (2021-Part 2、シリーズの最終話)

各エピソードの脚本と監督については、両方のエピソード・ガイド(E4を参照)に記載しています。

E15. 第2シーズンの話は、なぜつまらないのですか?

そんなことはないでしょう :^)

いや冗談はさておき。TPはストーリーが連続しているので、エピソードをすべて見なければ、話の内容がつかめません。今までのソープオペラとは違い、TPではメロドラマ的な展開を何度も繰り返すということはしませんでした。今までの見方では駄目だったのです

この問題に対処するため、第2シーズンではイントロの部分に短いストーリー紹介が入りましたが、実際にはこれがかえってシリーズの魅力をそぐと感じた人も多かったようです。

この問題については、TPの雑誌”Wrapped in Plastic”(「書籍その他」を参照)の1号に編集者の意見が載っています。第2シーズンが第1シーズンの質を上回る理由が述べられ、例として4つの場面が挙げられています。

第2シーズンのエピソードにはリンチが直接関っていないものがあるからだと、いう意見も一部にはあります。おおぜいの監督がいるのは事実ですが(詳細はエピソード・ガイドを参照)、それがシリーズの統一性を欠いた原因であると考える人は少ないようです。

E16. 映画や有名人のもじりがいろいろあるそうですが?

TPには、他の映画やTVドラマのパロディや引用がふんだんに隠されています(隠されていないものもある)。映画/ドラマでは”Laura”、”Vertigo”、”One Eyed Jacks”、”Double Indemnity”、”The Manchurian Candidate”、”Sunset Boulevard”、”The Fugitive”(「逃亡者」)、”Dallas”など多数、他にも実在/架空の有名人の名前(D・B・クーパー、ハリー・S・トルーマン、へスター・プリンなど)も出てきます。

※訳注: D・B・クーパーはハイジャック犯の名前、ハリー・トルーマンは33代大統領、へスター・プリンはホーソンの小説『緋文字』のヒロイン。

TPに登場する人物、地名、プロット、テーマの元ネタについての詳細は、”Allusions”リストを参照してください。このリストはデイヴ・プラットが編集したもので、TWIN PEAKS ONLINEから入手できます(Allusions List)。

E17. ローラ・パーマーを殺したのは誰?

父親のリーランド・パーマーが“ボブ”に取り憑かれて殺害しました。

E18. 爪の下に入っていた文字の意味は?

リーランド/“ボブ”が”Robert”という文字を綴ろうとしたものです。クーパーはこれを「悪魔の自画像の署名」と表現しました。

多くの人が指摘していますが、彼が名前を逆から綴っていたのであれば(そう明言されたわけではありませんが)、’E’の文字が抜けています。これについては説明されていませんが、’E’の文字は列車の車両内でロネットに使うつもりであったか、または’E’の被害者はまだ発見されていないのではないかと言われています。

E19. “ボブ”って誰/何?

これは「ツイン・ピークス」の中でも最大の謎のひとつであり、果てしない議論のネタであります。視聴者は自分で解釈し、意味を考えなければならないのです。

[注: ここでは、『ツイン・ピークス ローラの日記』の表記に従って、“ボブ”とカッコ付きで表記しています(原文ではBOBと大文字表記。これは、“殺人鬼ボブ”(彼はこうも呼ばれている)とボビー・ブリッグスの区別にもなります。]

明らかになっていることは、“ボブ”とは人間に憑依することのできる、肉体を持たない精神体だということです。彼は、取り憑いた宿主を操って、セックスしたり暴力を振るったり、その宿主の「恐怖」を摂取したりします。彼はブラック・ロッジやホワイト・ロッジにいる精霊たちと何らかのつながりがあります。ブラック・ロッジ(赤い部屋で表現される場所)への入り口は、ツイン・ピークスの外の森にあるグラストンベリー・グローヴです。ロッジについては、E39とE40を参照してください。

超自然的な説明を否定する人々は、“ボブ”はローラまたはリーランドの想像上の人物(近親相姦や姦淫のトラウマに対する精神的な処理)であるか、リーランドの交代人格であると考えています。毒舌家のFBI捜査官アルバート・ローゼンフィールドは、“ボブ”とは単に「人間の邪悪さ」にすぎないのではないかと示唆していますが、TPで体験されるさまざまな出来事を考えると、このような意味付けは論理的に成り立たないようです。リーランドの死後の出来事(ウィンダム・アール篇)や劇場版でも、超自然的なテーマが続いています。

マーク・フロストは、質問に答えて“ボブ”のアイデアはアメリカ先住民族の神話からヒントを得ており、彼は太古の昔からツイン・ピークスに住み着いている邪悪な霊であると述べています。マーク・フロストの小説『リスト・オブ・セブン』を参照してください(詳細は「マーク・フロスト」のM5を参照)。これは、現実と超自然界両方の邪悪な存在、「境界域の住人」、神智学の創始者で「ホワイト・ロッジ」のアイデアの元になったヘレナ・ブラヴァツキーの説などを扱っています。

“ボブ”がロッジに住む他の精霊の「下僕」または眷族(ファミリアー)であるという描写も後から出て来ます。劇場版では、彼が時おりコントロールを離れてロッジではなく自分自身の意思で動いていることが示唆されています。

マイク[第13話]: 「寄生」ということを知っているか。生命体にとりつき、その養分を得る。“ボブ”には人間の宿主が必要なのだ。彼は恐怖と……悦楽を食らう。それが彼の子だ。私は“ボブ”の仲間。かつては、行動をともにしていた。

また、マイクは“ボブ”が彼の「眷族」(ファミリアー)であると述べています(その反対の関係であるという説もありますが、誤りです)。

クーパー: 夢でぼくに話したな……“ボブ”のことを。
マイク: 彼は……私の眷族だった。

魔術でいう「ファミリアー」とは、主人が下僕として使う下級の霊です。一部の伝説では、「ファミリアー」は動物の形をとるデーモンになっています。マレー半島では、フクロウとアナグマが有名なファミリアーで、猫はアメリカでは通常、魔女と結び付けて考えられています。

E20. “ボブ”とは、J・R・”ボブ”・ドッブズのことですか?

違います。“ボブ”を演じたフランク・シルヴァによると、この名前はリンチが何年も同じランチをとりつづけた”Bob’s Big Boy”という店に敬意を表したものだそうです(“Fild Threat”誌92年10月号のインタビューより。

E21. ダイアンって誰/何?

劇場版の撮影台本(「劇場版」のF5を参照)には、クーパーがFBI本部のオフィスの入口に立ち、ダイアンと会話している場面がありました。彼女はオフィスの管理者か、あるいは秘書であるようです(この場面では、ダイアンは姿も見えず声も聞こえません)。

第1シーズン当時、ゴシップ・コラムニストのリズ・スミスが「第2シーズンではキャロル・リンレイ(「ポセイドン・アドベンチャー」)がダイアン役を演じる」と報じましたが、これは実現しませんでした。劇場版の場面からすると、リンチは彼女について謎を残しておきたいようです。

それより前にも、ダイアンについてはさまざまな憶測が流れました。いわく、クーパーの「交代人格」である、クーパーの妻である、テープレコーダーに付けた名前である、など。

市販されたテープの”Diane … The Twin Peaks Tapes of Agent Cooper”(ちなみにカイル・マクラクランはこれでグラミー賞を受賞しています)および書籍『ツイン・ピークス クーパーは語る』には、クーパーの独特のメモの取り方に関する背景が記されています(本については「書籍その他」のP1を参照)。

1978年1月10日: 「ダイアン、ぼくがこうして話しかけているのは、実は自分自身にたいしてなのだが、きみに向かって語りかける形をとることを許してほしい。きみのように洞察力の優れた人が、傍聴人としてうしろに控えていてくれると思うと心強いのだ。」

※訳は『ツイン・ピークス クーパーは語る』(スコット・フロスト著、飛田野裕子訳 扶桑社ミステリー)より。

E22. カイル・マクラクランは本当にチェリー・パイが好きなのですか?

いいえ。イギリスの記者に対して、彼はこう答えています。「チェリー・パイは大嫌いだ。今までも、そしてこれからも」

E23. カイル・マクラクランとララ・フリン・ボイルがデートしていたのは本当?

長続きはしませんでしたが、本当です。スーパーのタブロイド誌によると:

「撮影の後、夜になると二人は抜け出して森へ行き、キスしたり月や星を見たりしていました」とツイン・ピークスの関係者は語った。

E24. 赤い部屋の場面での変な声はどうやってしゃべったのですか?

  1. 役者はまず自分の台詞を逆読みで覚え(これをどうやったかはわかりません。自分の台詞を逆録音して逆回しで再生して「音声バージョン」で覚えたのかもしれませんし、あるいは単に印刷された台詞をできるだけ巧く逆向きに読んだ「文字バージョン」かもしれません。場面や役者によって方法が違うようにも聞こえます)。
  2. 役者は逆向きに動きながら逆向きに台詞をしゃべり、フィルムを逆回転させて撮影しました。
  3. 最終的に作られた映像は、撮影したものをすべて逆にしたので、人物の動きもしゃべり方も、一種独特の変わったものになりました。

逆向きの台詞が上手に言えていれば、元の台詞がちゃんと聞き取れたはずですが、実際には聞きずらかったため字幕がつけられました。

MFAPを演じたマイケル・アンダーソンは、TPに出演する前にすでにこの技を身につけており、他の役者の指導にも加わりました。

実際、私はこの逆しゃべりが得意でした。デイヴィッド・リンチも知らなかったのですが、逆しゃべりは中学校の時に覚えました。ちょうど、符牒とか秘密の暗号みたいに、単語を正確に逆向きに言ったりしていたのです。デイヴィッドは逆しゃべりをするよう頼みに来て、その方法をスタジオで詳しく説明しました。私がそれを簡単にやってのけると、彼は私の台詞を増やし、さらに他の役者にも教えてやってくれとか言いました。なんなら、自宅のスタジオでやってみせてもいいですよ。

(ピーター・ムーアの個人メールより)

マイケルは個人用の留守電テープをこの方法で制作していました。

E25. マイク(片腕の男)の詩はどういう意味?

第2話の撮影用台本では、次のようになっています。

Through the darkness of future past the magician longs to see one chance out between two worlds ‘Fire walk with me.’ 過ぎ去りし未来の暗闇をとおして 魔術師は見ようとする 2つの世界を抜け出せる機会を 火よ 我とともに歩め

しかし、このエピソードのクローズド・キャプションでは”chance(チャンス、機会)”の部分が”chants(聖歌、詠唱)”になっており、これがまた果てしない議論を呼んでいます。

  • “chance” であれば、「2つの世界を抜け出す」方法が1つしかないという解釈ができます。
  • ‘chants’ は、コンビニエンス・ストアの場面とローラの夢/幻(劇場版)の場面で使われており、その朗読の後で赤い部屋の場面へと続きます。

ブラッド・スミスは93年のファン・フェスティバルに参加し、アル・ストロベル(マイクを演じた俳優)にこのことを質問しました。

TPFF 93で、アル・ストロベルにchants/chance問題のことを聞いてみました。アルが言うには、この詩はデイヴィッド・リンチの手書きのメモにあったもので、そこには chants と書かれていたそうです。つまりDLはchantsのつもりだったようですね。

デイヴィッド・リンチの写真集”Images”(「書籍その他」のP1を参照)でも、この詩に”chants”が使われていたということで、この説は裏付けられました。

しかし、文字資料が統一されていないため、視聴者たちは別々の言葉を基にロッジでの出来事を独自に解釈しているという現実があります。万人を満足させる解釈は、得られないのではないでしょうか。

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