『殺しの四重奏』
トニーは若手の刑事たちにプロファイリング技術を教える教官に就任し、十代の少女たちが何人も行方不明になっている事件を課題として割り当てる。キャロルは警部に昇進して田舎の警察署に赴任。そこでは何件も不審火が続いていた。
- 著者:ヴァル・マクダーミド
- 翻訳:森沢麻里
- 発行:1999-06-25(集英社文庫)
- ISBN:978-4087603606
- 著者:Val McDermid
- 発行:1997-11-03 (HarperCollins Publishers Ltd.)
- ISBN:978-0002255912
記事タイトルが何だか冗長で変な感じだが、”Wire in the Blood” シリーズの原作になった小説の2作目 “The Wire in the Blood” という意味。シリーズ名の Wire in the Blood というのは、もともとこの小説2作目のタイトルだったのだ。この小説を原作としたTVエピソードは第2話の “Shadows Rising”(キリング・シャドー)。そして邦題の「ワイヤー・イン・ザ・ブラッド」は第1話 “The Mermaids Singing” の邦題でもあって……。
何だかややこしくなってきたので表にしてみた。
小説 原題 | 小説 邦題 | TV 原題 | TV 邦題 |
The Mermaids Singing | 殺しの儀式 | The Mermaids Singing | ワイヤー・イン・ザ・ブラッド |
The Wire in the Blood | 殺しの四重奏 | Shadows Rising | キリング・シャドー |
The Last Temptation | 殺しの迷路 | Falls the Shadow | |
The Torment of Others | 殺しの仮面 | Torment | VOICE ボイス |
上記以外に、シリーズ外の小説で “Killing the Shadows”(邦題は『シャドウ・キラー』)というのもあるんだよねぇ。タイトルの付け方、もう少し何とかしてほしかった。
さて内容。
前作の内容はTVエピソードとだいたい同じだったが、今回はかなり違う。あらすじを読み返してみて、あれもこれもTVオリジナルだったのか!と驚く。ダウリングとか出てこないし。
小説の方ではキャロルの出番が少ない。キャロルは田舎警察の警部になっていて、担当も放火事件。どうも連続放火事件ではないかと思い、トニーの力を借りることになる。これはこれで重大な事件なのだが、描写の少ない「Bプロット」だった。
トニーは若手の警察官を集めてプロファイラーを養成することになり、この中で最も熱心で優秀なシャズ・ボウマンが前半の主人公になる。彼女は十代の少女たちが何人も行方不明になっている事件を課題として与えられ、その周辺を調べていくうちに人気スターのジャッコ・ヴァンスに注目。だが他の皆は半信半疑だったため、もう少し材料を集めようと少々無謀な行動を起こしてしまう。
後半は、シャズのために奮闘する仲間たちとロンドン時代の上司ディヴァインが中心となって物語が動いていく。今作に限っては、キャロルよりディヴァインの方がキャラクターとしてずっと魅力的だ。ディヴァインがレズビアンという所で、どうしても作者のマクダーミドを思い出してしまうわけだが、このレズビアンという属性にもちゃんと意味(役割)があってそうなっていることがわかる。
まぁでも、この小説をそのままドラマ化したら、単調でつまらない話になってしまいそうなので、脚色過多なのはわからないでもない。腕を頬に変えたのは、映像の視覚効果を狙ってのことだろう(あのシーンは衝撃だった)。
最後は無事にジャッコを逮捕するが、証拠という点ではいまいち。トニーの計略どおり、監禁場所へ入って行く所を押さえられれば良かったが……。刑事たちが別荘へ入って行った口実も、Law & Order だったら証拠排除されるレベルなんじゃないかと心配になってしまった。エピローグが何だか不穏な感じ。
だが次の『殺しの迷路』でもキャロルは職を失っていないようなので、おそらく無事に立件できたのだろう。
2025-04-13