『殺しの仮面』
ドイツでの任務で心身に傷を負ったキャロルは古巣のブラッドフィールドに戻り、重大事件を主に担当するチームを率いることになった。そこで幼い少年が続けて行方不明になった事件と、街娼の殺人事件を担当。後者の件では以前に類似する事件が発生していたが、すでに容疑者が逮捕され病院に収容されていた。
- 著者:ヴァル・マクダーミド
- 翻訳:森沢麻里
- 発行:2006-04-20(集英社文庫)
- ISBN:978-4087605013 (上)/978-4087605020 (下)
- 著者:Val McDermid
- 発行:2004-05-24 (HarperCollins Publishers Ltd.)
- ISBN:978-0312339197
マクダーミドの原作はとにかくボリュームが大きく、最初の『殺しの儀式』から文庫としてはかなりの厚みがある本だったのだが、4作目でついに上下巻構成になった。前作で示唆されていたジャッコ・ヴァンスの後日談は語られなかった。
前回の任務でひどい目に遭ったキャロルは以前の上司ジョン・ブランドンに誘われてブラッドフィールドに戻り、重大事件班を率いることになる。彼女の下につくのは、元部下のケヴィン・マシューズとダン・メリックに、ポーラ・マッキンタイア、サム・エヴァンズ、ステイシー・チェンが加わり総勢5名。
ここで注目したいのがポーラ・マッキンタイアというキャラクター。TV版ではおなじみだが小説ではここで初登場のはず。つまりTV版の方に先に登場していたことになる。原書の発行日とTVシリーズ放映時期を時系列順に並べてみると
- 1995年11月:小説『殺しの儀式』
- 1997年11月:小説『殺しの四重奏』
- 2002年8月~9月:TV版シリーズ1
- 2002年9月:小説『殺しの迷路』
- 2003年12月:TV版シリーズ2
- 2004年5月:小説『殺しの仮面』
- 2005年2月:TV版シリーズ3
- 2006年8月:TV版シリーズ4
- 2007年7月:TV版シリーズ5
- 2008年9月:TV版シリーズ6
…となる。ポーラはS2からの登場なので、登場は小説より約半年早い。
小説とTVの両方に登場し、なおかつフルネームが両方同じなのは、今までトニー、キャロル、ブランドンの3名だけだった。あとはケヴィン・マシューズ(小説)/ケヴィン・ジョフリーズ(TV)、ダン・メリック(小説)/ドン・メリック(TV)と微妙に名前が変えられている。
ポーラはTVでも小説でもポーラ・マッキンタイアであり、かつ登場はTV版の方が早いということで、これは逆にTVから小説に取り入れられたキャラだろうか?と思うのだが、執筆に必要な時間などを考えると、TV版のスタッフとマクダーミドの間で話し合って同時に生まれたキャラのような気がする。ただ、名前と髪の色以外の人物造形としてはかなり別物。
そしてTV版のドンはシリーズ2で降板するわけだが、小説版のダン・メリックも今回がラストとなった(涙)。
さて内容は今までと同じく二本立てで、Aプロットが街娼の連続殺人事件、Bプロットが男児の連続誘拐事件になっている。Aプロットの方はTV版「ボイス」(シリーズ4)の原作で、これは大体原作どおりだった。ただし、本作では犯人本人が最後まで否認し続けており、「人を操る」という行為や街娼をターゲットにした理由などプロファイリングに関する部分はTVとはかなり異なっている。
このBプロット部分は、わりと描写もあっさりしていて、この事件必要?と思ってしまった。地質学者のジョナサン以外はあまり印象に残っていない。両方の事件に関わるキャロルが「どちらを優先しよう」と迷い、結果的に部下を死なせてしまうという展開は2作目の『殺しの四重奏』を想起させる。ていうか殉職多すぎない?
ジョナサンが現れたことで、トニーとキャロルの関係にもさざ波が立ち始めて行くのだが、このへんはあまり興味をひかれない……。これはTV版でキャロルが降板してアレックスに替わったせいかもしれない。
ジョナサンがキャロルに手渡したアリス・シーボルドの『ラッキー』は日本でも翻訳出版されている。これはシーボルドがレイプ被害を受けた後、自暴自棄になりながらも犯人を訴えて戦い続けて行くという話らしいのだが、何と事件から40年経った2021年に、レイプ犯は実は別人だったことがわかり、有罪評決が取り消されるという大事件が起きている。
- 『ラッキー』(アリス・シーボルド)
- 女性作家レイプの罪で収監の男性、米裁判所が有罪評決を取り消し 16年服役 (CNN)
マクダーミドの「トニー・ヒル&キャロル・ジョーダン」シリーズはこの後も続いているが、残念ながら邦訳は出ていない。原題のみ以下にリストアップしておく(リンク先はAmazonのKindle版)。
- Beneath the Bleeding (2007-08-01)
- Fever of the Bone (2009-09-03)
- The Retribution (2011-09-01)
- Cross and Burn (2013-10-10)
- Splinter the Silence (2015-08-27)
- Insidious Intent (2017-08-24)
- How the Dead Speak (2019-08-22)
2025-06-30