通算22話
アレックスのチームは街娼の連続殺人を担当。トニーは実験心理学の学会に出席して旧友と再会。その後、宿泊先のホテルで事件に巻き込まれる。
- 脚本:Charlie Fletcher
- 監督:Richard Curson Smith
- 原作:ヴァル・マクダーミド『殺しの迷路』(The Last Temptation)
- 初回放映:2008-09-26
アレックスのチームにはケヴィンが復帰し、若い女性が撲殺された事件を担当する。被害者はアンナ・ウォルトン、遺体発見現場と服装から街娼と思われた。右側頭部と右目を殴打されていたが、性交渉の形跡はなかった。
トニーは実験心理学の学会に出席し、旧友のレイチェル・ホワイトから部屋に誘われるが、アレックスから電話がかかり、すぐに退出する。
翌朝、現地警察のブレナン警部補とピーターズ巡査部長がトニーの部屋を訪れる。レイチェルが室内で殺害され、最後に会ったのはトニーであるという。トニーは「部屋には入っていない」と主張するが、ブレナンは疑いを隠さない。
犯人はレイチェルの両手首と足首を後で縛り、シャワーのノズルを喉に押し込んで水を出していた。被害者の手首には「KNW」と刻まれ、浴室の鏡に書かれた「Power not Truth(力であり真実ではない)」書かれていた。トニーは犯人が左利きであること、犯行現場が行き当たりばったりではなく念入りに構築されていること、鏡に書かれていたのはニーチェの言葉であることを指摘する。
アンナに続いて、やはり街娼で彼女と面識のあったリリー・クーパーが殺害される。右側頭部と両目の間を殴られていた。
その後、実験心理学者のボーズが殺害される。レイチェルと同じように縛られてシャワーノズルを喉に押し込まれ、部屋には「Power not Truth」の言葉があった。トニーはアレックスに、ブレナン警部補に連絡するよう告げる。
ブレナンは、レイチェル殺害現場で発見した指紋をもとに、トニーを逮捕する。室内には指紋の他に、トニーの血液の付着したタオルがあり、「部屋に入っていないというのは嘘だろう」と追及する。実際、トニーは扉の内側に短時間だけ足を踏み入れていた。グラスを割って怪我をしたので、レイチェルがタオルを持って来たのだ。
次に、やはり街娼のジャネット・クロスビーが同じように頭の右側と目を殴られた遺体で発見される。
留置場に入れられたトニーは、アレックスの口紅とアイライナーを借りて壁に犯行の様態やプロファイリングを書き留める。心理学者を憎むのは、犯人に何か障害があり、治療に連れて行かれたせいではないのか。アレックスが担当する街娼連続殺人と心理学者連続殺人には関連性があるのではないかと思いつく。
次に、心理学者のパトリック・アランが殺害される。やはり後ろ手に縛られていたが、今回は犯人と激しく格闘し、シャワーノズルを入れず庭のプールに落ちて溺死していた。遺体には、トニーが逮捕される新聞記事に「Power Not Truth」と書いたパネルが取り付けられていた。犯行時刻にトニーは取調べを受けていたため、トニーは釈放される。
トニーはアレックスとブレナン警部補に事件の関連を説明する。犯人は街娼を殺害し、その後に心理学者を拷問して殺している。これは「罪と罰」である。犯人にはおそらく性犯罪の前歴があり、収監されている間に心理学者と面談したのではないか。
アレックスはトニーの話を聞いている途中で、4人目の街娼、シャロン・ノートンの遺体が発見されたという報告を受ける。パトリック・アランの方が先に殺されていたことが確認され、トニーは時系列が逆であることに悩む。実は心理学者殺しが先にあったのだと思い直す。
心理学者は北東部全体に広がっているが街娼は全員ブラッドフィールド在住。犯人は心理学者を殺害し、その後ブラッドフィールドに戻って街娼を物色し、しかし性交できないため彼女を殺したのであろう。
そうであれば、アンナ・ウォルトンの前にもう一人殺されていることになる。
トニーはアレックスと会話するうちに、背後にあるのはナチズムだと思いつく。被害者の腕に刻まれていた「KNW」は「Power Not Truth」を意味するドイツ語「Kraft nicht Wahrheit」だった。
ナチスの医師は、主に孤児たちを相手にさまざまな人体実験を行った。その場を生き延びた犠牲者には実験心理学者を憎む十分すぎる理由がある。アレックスは、ホロコースト生存者が近くに住んでいないか調べ、農場を営むマティアス・ストーンを発見。生存者本人であれば70歳は超えている計算になるが、農業は体力仕事なので高齢でも力が強いだろう。
だが行ってみるとマティアスはすでに病死しており、農場は孫のマシューが管理しているという。マシューは幼いころに両親を亡くし、祖父に育てられてきた。家の中からは、マティアスがナチスの医師と同じ方法で孫を水に沈めるという虐待を行っていた記録が発見される。アンナ・ウォルトンの前の死者とは、マティアスだったのだ。
敷地内にマシューの姿はなく、トニーはワナを仕掛けて自ら囮になることを提案。アレックスは反対し、ケヴィンが「事件を調べに来た心理学者」という触れ込みで記者会見を行う。だがマシューは現れず、トニーは張り込みを抜けて帰宅。そこにはマシューが待ち伏せていた。トニーは、実験心理学の学会でマシューと出会い言葉を交わしたことを思い出す。
マシューはトニーを縛り浴槽に沈めるが、出て行くときにアレックスとすれ違う。アレックスはマシューに気づいて殴り倒し、トニーを救出する。
久しぶりの原作付き作品。早い段階から犯人の姿が示され、犯人の回想が事件と並行して語られ、プロファイリングが完了したところであっさりと身元が判明――という流れは、確かにマクダーミドの手法。
ただ、ちょっと被害者多すぎかな……。最初のアンナ・ウォルトンはポン引きに事情を聞くなど捜査している場面があったのに、どんどん描写が少なくなって後半2人はほぼ名前だけ。心理学者の方は、ホテルの部屋、自宅、男性被害者の順で徐々に難易度を上げているのだが、それとペアになる街娼の方はそういうこともなさそう。
最初の事件でトニーは「文字が鏡に書かれた点が重要」だと指摘しているが、結局鏡に書かれたのはその1件だけで、後は別の場所に書かれていた。ということは、この点は別に関係なかった?
さらに疑問なのは、連続殺人の最後で突然「順序が逆」と言い出したこと。発見順に言うと
- アンナ・ウォルトン
- レイチェル・ホワイト
- リリー・クーパー
- ボーズ(フルネーム不明)
- ジャネット・クロスビー
- パトリック・アラン
- シャロン・ノートン
であり、留置場の落書きではアンナとレイチェル、リリーとボーズがペアという発想だったはず。ジャネットが残っていたところでパトリック殺害の報を聞いて、この2人を結び付けていた。であれば、シャロン事件は新しいペアの始まりと解釈するのが普通ではないだろうか。何か説明を見落としたかもしれない。
今回はホロコーストの生存者が自分の受けた虐待を孫に対して繰り返していたという話。その前振りとして、アレックスの息子ベンが学校で友達を殴ったという話が出ていた。どうやらその子の父親がネオナチで、アレックス親子のことを「Gippo(ロマ族の蔑称)」と呼んだらしい。なぜロマなのかというと、ベンの父親が「いつも旅行している」のと、アレックスの外見が異国風だかららしい(演じているシモーン・ラビブの両親はスコットランド人とフランス人)。ベンの父親のこと、そういえば語られたことはなかったと思うが、おそらくは離婚しているのかなと思う。
2025-05-21