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Law & Order - Season 4, Episode 19

#85 Sanctuary


If you're really looking for who is responsible for racism these days, take a good look in a mirror.

事件概要

People v. Isaac Roberts (判事:Rebecca Steinman)

ハーレム地区で黒人の少年がひき逃げされて死亡する。車が逃げるところを目撃した少年は「ユダヤ人の男が運転していた」と言う。その後、別の目撃者が現れ、車種とライセンス番号の一部が判明。

その後、ジョシュア・バーガーが弁護士とともに現れ、ひき逃げを認める。少年が急に飛び出してきたため避けられなかったという。ハーレムで黒人の子どもをひいたとなると、無事ではすまされないだろうと恐ろしくなってその場を逃れ、弁護士に連絡してから自首したと言い、少年を死なせたことと逃げたことに関しては反省している様子を見せる。

現場検証の結果、バーガーに落ち度がなかったことがわかり、キンケイドは「免許の一時停止と100時間の社会奉仕」と判断。だが、その地区に影響力を持つオット牧師は「黒人の子が殺されてもユダヤ人だと逮捕されないのか」と怒りをあらわにする。その後、牧師は別の目撃者を伴って現れ、目撃者は「被害者は道路に飛び出したりしなかった。車が突然猛スピードで現れた」と供述する。牧師は地方検事のシフにも圧力をかけ、バーガーの事件は大陪審へと送られる。

大陪審は異例の速さで不起訴を決定するが、それに対して黒人コミュニティでは怒りが爆発。オット牧師の扇動で彼らは暴徒と化し、たまたま車で通りかかったイタリア系男性ジョン・デ・サンティスを殴り殺してしまう。

犯行現場を映していたカメラの映像からダリル・ジョンソンが逮捕され、ダリルの供述から、殺害したのはアイザック・ロバーツとわかる。刑事たちはアイザックがオット牧師の教会にいることを突き止めるが、牧師は「ここはサンクチュアリである」と主張して身柄の引渡しを拒否。

弁護についたシャンバラ・グリーンは、中世に宗教的迫害を逃れた信者たちや、現代において中東への派遣を忌避した兵士の例を挙げて「サンクチュアリ」の正当性を主張するが、判事はそれを却下し、アイザックは逮捕される。

グリーンは、アイザックは暴動の混乱の中で自制を失い正常な精神状態ではなく、かつその背後には数百年におよぶ虐待の歴史があったのであって、アイザック一人を罪に問うことはできないと主張する。アイザックは「事件当時のことはほとんど何も覚えていない」と証言するが、反対尋問に立ったストーンは、アイザックがユダヤ人への復讐を求めていたことを証言から引き出していく。

グリーンは続けてジョシュア・バーガーを召還し、最初に事故現場から逃げたことについて「怖いから逃げた? 黒人だから怖いのか、それは偏見ではないのか、あなたは人種差別主義者だ」と厳しく糾弾する。ストーンは異議を申し立て、グリーンの態度に業を煮やした判事はバーガーの証言のみならず、アイザックの精神状態に関する証言すべてを証拠から排除すると言い渡す。

その決定により弁護側は主たる論拠を欠いてしまうことになるが、陪審の審議は8日間に及んだあげく、評決不能という結論に達し、判事は審理無効(mistrial)を決定せざるを得なくなる。ストーンは再起訴を考えるが、シフは「有罪評決を下せる陪審を選ぶことはできないだろう」と反対する。ストーンはその説得を受け入れたものの、納得することはできなかった。


感想

人種差別をめぐる事件のエピソードは、自分の知識が足りない部分と感覚の及ばない部分があって、どうしても感想が控えめになりがち。だがこのエピはすごい。どうも今シーズンに入ってから印象の強い作品が少なくなり、シリーズが安定(ていうかマンネリ化?)したのか、こっちが慣れてきたのかと思っていたら、終盤に来てがっつんとヤられた感じ。やはりこのシリーズは侮れない。

このエピソードは、1991年8月にNYのブルックリンで発生したクラウンハイツ暴動事件が元ネタになっている。この事件は、ユダヤ人青年が運転していた車がブルックリンのクラウンハイツ地区で事故を起こし、黒人の少年と少女を轢いてしまったことがきっかけで暴動が起こり、3日間にわたって続いたというもの。それ以前から、黒人コミュニティにはユダヤ人への反感があり、根拠の乏しい陰謀説などがまことしやかにささやかれていた。事件の経緯とその背景については、下に挙げた参考文献に詳しいが、これらの背景事情を踏まえると、バーガーが現場で感じた恐怖感がより生々しく想像される。

シーズン2の「The Fertile Fields(欲深き者)」もやはりこの事件が元ネタと言われていた。「欲深き者」を見た時は正直「元ネタというほど?」と疑問を抱いたものだが、下記の本などを読み、改めてこの2つのグループがたどってきた歴史について考えると、やはりこのクラウンハイツ暴動の影響を抜きにして考えることはできないのだろうと思った。

今ここで「黒人」とひとくくりにしたが、クラウンハイツにはアフリカ系、カリビアン、ハイチ人など多数のエスニックグループが居住しており、それぞれの間に対立もあった。上述の交通事故で死亡したのは、ガイアナから渡ってきた少年とその従妹だった。だが、いったん「黒人対ユダヤ人」という図式に組み込まれると彼らはそれぞれのエスニック属性を失い、その地区で生活する人々ではなく外部からやって来た別のグループの「運動家」たちに政治利用されていく。このエピでグリーン弁護士がやっていたことも似たようなことではないかと思った。

今までのシーズンでは、人種問題の関わる事件ではロビネット検事が活躍していた。ロビネットのスタンスは十分に共感できるものであったが、そのために彼の存在が両者の緊張を吸収してしまっていたように思う。彼のいない今シーズンでは、ストーン検事とグリーン弁護士のより直接的な対立関係が強調される。2人が真正面から言葉を投げつけあう場面には、ものすごい緊張感が感じられた。

バーガーの尋問はいくら何でも弁護人の暴走ではないかと思ったが、判事がバーガーの証言のみならず「被告人の心理状態に関連する証言」全体を排除したことも驚いた。暴動の喧騒の中で自覚のないまま、気づいたら殴っていた――という主張は、それとは別に認められても良さそうに思えたのだが。オット牧師は、演じていたトニー・トッドが「24」のジュマ将軍だったせいかもしれないが、この騒動を利用しようと目論んでいたような印象だった。オット牧師が群集を扇動した責任はもっと問われても良いのではなかろうか。


単語帳


参考

Yoko (yoko221b) 2009-02-24